第172話 叙任式

 王の謁見の間で、王の前に僕はひざを着いていた。

 王は僕の肩に杖を当てる。そして、王と誓いの儀式をして伯爵の叙任式は終わった。

 その後は伯爵として、叙任式後の宴会に出なければならない。しかし、子供なため社交界デビューはしていない。なので、導師の後について歩くだけだった。

「やあ。もう伯爵かい。この勢いだと、本当に公爵になるかもしれないね」

 カリーヌの父であるジスランは笑った。

「私の公爵の地位を継いでもいい。だが、現状では無理だな」

「そうだね。でも、特例がある。期待してもいいと思うよ?」

「私としては静かに暮らして欲しい。騒ぎがなければ、下男として静かに暮らせるはずだった」

「それは遅い後悔だね。それに、ただの下男ならそれほど気に留めていないはずだよ?」

「わかっているよ。それ以上はいわないでくれ」

 導師は顔を赤くした。

「それよりも王から下賜されたペンダントが気になる。本当に龍の牙なのか?」

 ジスランは懐からペンダントを出した。

 白いブローチみたいにキレイに意匠されていた。

「私が保証するよ。本物だ。龍の気配がする」

「それなんだが、龍族にいいくるまれている可能性はないか?」

「ないとはいえない。だが、神霊族と魔神族。人族の敵としたら巨大すぎる。認識すらもまともにできていないからな」

「おとぎ話と思っているが?」

「それはやめた方がいい。実害がある」

 ジスランは僕を見る。

「そうだね。僕も気を付けるとするよ。それよりも、例の物ができた。シオン君には見てもらいたい。魔王も消えて戦争はなくなったからね。平和になったので、僕の仕事も進められている」

「そうですか。それはよかったです」

 僕は答えた。

「うん。だから、僕は家で待っているよ」

 ジスランは笑って去った。

 残ったのはカリーヌだ。

 スカートを持って貴族の礼をする。僕もそれに答えた。

「行っておいで」

 導師にいわれてカリーヌに近づいた。

「お帰り」

 カリーヌはうれしそうにほほ笑んだ。

「ただいま帰りました」

 カリーヌはうなずく。

「みんながいるわ。行きましょう?」

 僕はカリーヌに連れられて、みんなのところに行った。


「おう。伯爵なんだってな。簡単になれるのか?」

 アルノルトは会うなりいった。

「バカね。異例中の異例よ。今は子供だから公爵家の養子で通っているだけ。大人になったら、あんたより偉くなるわよ」

 レティシアはいった。

「そうなのか?」

「そうよ。あんたはよくて王直属の騎士でしょう? でも、それは準貴族。シオンは正式の貴族の伯爵よ。身分は上になるわよ」

「なんだって」

 アルノルトは驚いていた。

「まあ。私たちは公爵家の子だから、伯爵は下手に出るけどね」

「なんかややこしいな」

「そんなものよ。でも、私たちが気にすることではないわ。私たちは公爵の子であるのは変わりなんだから」

「そっか。なら、考えなくていいな。それより、シオンはいつ遊びに来れるんだ?」

 アルノルトにきかれた。

「明日にでも、行けると思いますよ。今日までが忙しかっただけですから」

 僕は答えた。

「そうか。それより、龍の牙で作ったブローチって本物か?」

「ええ。龍の気配がします。保証しますよ」

「そうか。でも、大量にばら撒かれたみたいで、貴重品と思えないんだよな」

「それはお守りですから。神霊族と魔神族に使われないように」

「なら、売れないのか?」

「売ったら王様から怒られますよ。王様が下賜したものですから」

「うん。それはわかっている。だが、これを売って資金にしたら、どれぐらいになるか知りたい」

「買い手はいないわよ。いたら、捕まるわ」

 カリーヌが僕の代わりに答えた。

「そうなのか?」

「当たり前でしょう? 王からの贈り物よ。失くしたら罰が下るわよ」

 レティシアはいった。

「げっ」

 アルノルトはようやく理解したようだ。

「まあ、失くさなければいいだけだ。それぐらいしないと騎士になれん」

 エトヴィンはいった。

「オレだってできるわい」

 アルノルトは怒った。

 僕たちは笑った。

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