第169話 暗殺

 僕は煙と闘いながらご飯を作っているクンツの側にいた。

 クンツは空間魔法と風の魔法で煙とどこかに飛ばしているようだ。

「何だ。休んでいていいぞ」

 眺めている僕にいった。

「貴族の話って難しくって」

「ああ。お前もか。堅苦しいのは嫌いか?」

「うん。慣れない。それより、他の国でも男爵をして怒られないの?」

 僕は考えていた疑問をぶつけた。

「普通なら怒られる。というか、スパイだな。だが、オレは冒険者だ。国の隔たりは関係ない。それはギルドで保証されている」

「でも、貴族の地位は必要ないでしょ?」

「ああ。おせっかいなヤツは、どの国にもいる。そいつらが王に紹介するんだ。それで、断れずに受けることになる」

「そうなんだ。クンツさんでも断れないんだ」

「まあな。紹介者の貴族を怒らせれば金を出してもらえない。冒険するのも金が必要だからな」

「そうは見えないけど?」

「……ここだけの話にしろよ」

 クンツは声を潜める。そして、顔を近づけていう。

「金ならある。だけど、人が集まらない。そのために貴族を使っている。普段の冒険なら仲間と勝手に行っている」

「人を集める理由は?」

「遺跡なら、発掘作業とかの人を集めないと終われない。なので、貴族に頼んで、人を集め、短期集中的に採掘している。それに発掘作業には、作業者の衣食住の確保が必要だ。だから、貴族の力が必要なんだ」

「冒険だけで終わらないの?」

「ああ。後の作業も必要だ。見つけたからといって、放り出すような無責任なことはできない」

「ふうん。冒険者も大変だね」

「まあな。でも、楽しくやっている。貴族にあきたら来い。面白いところに連れて行ってやる」

 僕はクスリと笑う。

「だから、エルトンさんに嫌われるんだ」

「そうなのか? 遊び仲間は多くても問題ないだろう?」

「エルトンさんは僕の騎士になりたいといっていましたから」

「なるほどね……。なら、王直属の騎士団に入るなよ。お前の迷惑にしかならないだろう?」

「会ったのは騎士団に入った後です。なので、今さらかと」

 クンツは不快な顔をする。

「バカなヤツだ。自分の主人は自分しかいないのに」

「だから、反りが合わないのかもしれませんね」

「……そうだな」

 その後は冒険の話を聞かせてもらった。


 翌朝の朝は早かった。

 騎士が魔王を確認したからだ。

 朝の弱い僕は半分眠りながら導師の後をついていった。

「探知の魔法を使え」

 導師にいわれて探知の魔法を使う。あきらかに存在感の違う固体があった。

「わかったか?」

「はい。存在感の強い個体がいます」

「それが、魔王だ。目視でも確認しろ」

 僕は導師にいわれて遠見の魔法を使った。

 探知魔法が指す存在の形を目に入れた。

 魔族らしく肌は緑だ。血が緑色らしいので、肌の色も緑になるらしい。

 それより、問題なのは魔力量が桁違いだった。あれでは長距離射撃のドラゴンブレスで消せるかわからない。こちらに気づいて防御膜を張られたら倒せない可能性があった。

「導師。どうしますか? 可能性が低くなりました」

「ああ。だが、やるしかあるまい。失敗したら頼む」

「はい」

「すまないな」

「いえ。そうでなければ、ここには来ていません」

「ああ。私で終わらせる。だから、そんな顔をするな」

 導師は僕のほほをなでた。

「くすぐったいです」

 僕は笑った。


 導師は長距離砲で魔王を見続けている。魔王のスキを探っているようだ。

『イスに座ったら攻撃する』

 導師はコールの魔術で、その場のみんなに教えた。

『わかりました』

 僕は答えた。

 僕は探知の魔法で魔王を特定する。そして、遠見の魔法で見続けた。

 朝食になるのだろう。特等席に魔王は案内された。そして、移動して座った。

『撃つ』

 導師がいうと共にドラゴンブレスが発射された気配がした。

 僕は魔王しか見ない。

 導師が成功することよりも、魔王を消すこと以外しか考えていなからだ。

 魔王は気が付いたようだ。あわてて、こちらに向かって障壁を張った。

 そこに、ドラゴンブレスが直撃した。

 魔王は腕を失っていた。しかし、頭も体も無事だった。

『二射目』

 導師はいった。

 ドラゴンブレスは魔王を襲う。しかし、人が集まっていた。

 魔王は仲間の障壁に守られるように隠れた。

 ドラゴンブレスはその多数の障壁に当たった。そして、現れたのは傷つきながらも息のある魔王だった。

『三射目』

 導師はいった。

 しかし、その時には転移していた。

『すまない。転移先はここだ』

 導師は共有した探知魔法で示した。

 僕は確認する。そして、遠見の魔法でも、魔王がその地点に現れたのを確認した。そして、鉄球を転移させた。

 魔王が転移した場所は後方だ。そこでは非戦闘員がいる。だが、僕はためらわなかった。

 非人道的な魔術である。

 魔王の上空に現れた鉄球はぶつかあり合って、多大なエネルギーの塊になった。

 そして、光と共に太陽のような赤い球は広がった。

 それは、森を飲み込み大地をも燃やしている。その規模は山をも飲み込んだ。

 そして、音と共に太陽は爆発して、爆風が広がる。すべてを吹き飛ばした。

 残ったのはきのこ雲だけだ。

 魔王軍は土煙の中に消えた。

 何万の命が消えたのかわからない。僕はスレイヤーといわれるように殺戮者になった。

 きのこ雲だけが存在を主張するように空高く伸びていた。

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