第168話 準備

 導師は魔道具を出して準備を始めた。

 空間から大きな魔道具を出す。そして、岩の上に魔道具を移動する。そして、ゆっくりと下ろすと、魔道具の足が岩に着いた。

 ガギッと杭が打ち込まれた。そして、魔道具はサイトを起こして、いつでも発射できるようになった。

 導師はレバーを回して、サイトを見ながら調節する。

 だが、微調整はせずに手を離した。

 目標の魔王がいないからだ。

 遠見の魔法で見ると魔王軍は自由に歩き回っている。そればかりか野営の準備をしている。進軍には時間がかかるようだ。

「魔王が来るのは三日以内と判断している。それまで、ここで待つのか?」

 クンツはいった。

「そのつもりだが?」

 導師は答えた。

「野営の準備は?」

「最低限の準備はしている。これから、テントを張る予定だ」

「テントの色は?」

「茶色だが、何か?」

「隠れているんだ。迷彩色でないと意味がない」

「そうだな。それは忘れていた。木や草で隠す」

「なら、オレのテントに入らないか? 冒険者だから、こういう時は役に立つぞ?」

 導師は目を細めた。

 クンツの本心を探っているようだ。

「いやに協力的だな? 何か企んでいるのか?」

 導師はきいた

「仲良くなりたいだけだ」

 ふっと導師は笑う。

「あからさまなご機嫌取りは警戒されるぞ?」

「そうでもしないと、近づけない。護衛が優秀みたいでな」

 クンツは導師にも接触を計っていたようだ。

「シオンなら簡単だろう?」

「それなんだが、オレを敵視しているヤツがいる。行くたびに止められるよ」

 クンツは思い出したのか苦笑した。

「わかった。さっそくだが、この長距離砲を隠して欲しい。雨水に濡れないようにな」

「了解した」

 クンツは迷彩色の布を出して魔道具を覆った。


 少し離れた場所にテントを構えた。

 そこで、魔王が出るまで待つことになる。

 その魔王が出てくるまで、使者の部下に監視をしてもらった。

「すまないな。そちらの騎士を使って」

 導師はいった。

「いえ。お役に立てて光栄です。それに、何もしないと上司に怒られますから」

 使者はいった。

「まあ、そうか。だが、女性が来るとは思わなかった。何か理由があるのか?」

「簡単な理由です。相手であるランプレヒト様が女性だからです。男ではガサツと思ったのでしょう?」

「そうかもな。貴族は男社会だ。女性がこんな仕事をするとは考えられないのだろう」

「そうですね。普段なら、キレイなドレスが似合うように、努力をしていますから」

 使者はほほ笑んだ。

「そうだな。宴会の華になる。それが、私たちの仕事でもある。だが、私はやめた。今は宮廷魔導士でしかない」

「はい。ご覚悟を決めたと王から説明を受けました」

「ああ。だが、できるかはわからん。転移の魔法で逃げられたら終わりだからな」

「はい。それは重々承知しています」

 使者は顔を引きしめた。

「それより、飯はオレが作っていいのか?」

 静かにしているクンツはいった。

「ええ。任せるわ。下手に煙なんか上げられないからね」

 使者はいった。

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