第167話 戦争の始まり

 情報商戦といい、戦争といい、今は待つしかない。

 僕は淡々と毎日をすごしていた。

 そんな時に登城するように命令が下った。

「導師。何の用ですか?」

 僕はきいた。

「魔王が軍を組織した。そして、陣地を張るようだ」

 僕は理解した。

 戦争するのは魔族の領地と接するゼフカ王国である。そのゼフカ王国から要請があったようだ。


 登城して王の前にひざを着けた。

「今日、呼んだのは魔王の件である。ランプレヒト公爵に魔王を倒して欲しい」

 王の代わりに宰相がいった。

「はい。そのための準備はしてあります」

 導師は答えた。

「異論はないのか?」

「はい。魔王が関係しています。政治でも戦争でもありません」

「シオン・フォン・ランプレヒト子爵は?」

「はい。右に同じです」

 僕は呼ばれた時点でわかっていた。

 王が求めるのは導師の力でなく、戦略級魔術師の僕の力だ。

「それは戦略級魔術師としてとの判断と思っていいのか?」

「はい。その覚悟はできています」

 僕は答えた。

 宰相は王を見た。

「すまない。これは人族と魔族の争いだ。万全を期したい」

 王はいった。

「はい。承知しました」

 僕は答えた。

「おぬしの重責は王である私の罪だ。だから、私のせいにして欲しい」

「ありがたいお言葉です。ですが、責任は放棄したくありません」

「すまぬ。本当なら保護すべき歳だ。それができないのが悔やまれる」

「いえ。僕は覚悟はしています。なので、王様の言葉には感謝しかありません」

「すまぬ」

 王は黙った。

「ランプレヒト公。すまないが、頼んだ」

 宰相はいった。

「はい。承知しました」

 導師は答えた。

 僕と導師は王の謁見の間からさがった。


 僕と導師はゼフカ王国にゲートの魔術で移動した。

 離れている国だが、ゲートの魔術の前では意味がなかった。

 護衛を五人ほど連れた使者に迎えられた。

「ようこそお越しくださいました。ケルットゥリ・ケサ侯爵と申します。戦略級の魔術師をお迎えできまして光栄です」

 女性の使者は貴族の礼をした。

「ありがとう。だが、そんないいものではないよ。恐怖の対象としか見ないヤツが多い」

 導師は答えた。

「それは目がくもっています。これほど頼りになる見方はいません」

「まあ、味方の内はな」

「では、こちらの馬車にお乗りください。要望通り、戦地に向かいます。よければ、王に会って欲しいのですが?」

「失敗した時の言い訳がない。なので、恥をかくかもしれないので隠密の行動したい。作戦も隠密だから」

「……わかりました」

 僕たちを乗せた馬車は一つの山に向かって走った。

 ゲートの魔術では悟られる可能性があるからだ。

 馬車が入れなくなると、その後は足で登った。そして、戦場になる場所を一面見れる場所まで歩いた。

 着いた場所は景色がいい。

 遠くの方では戦争の準備をしているのか、大勢の人が動いていた。

 魔王は戦争の準備をしている。なので、暗殺をためらう必要はないと確信した。

「よう」

 クンツ・レギーンが現れた。

 どこで情報を得たのかわからない。だが、当たり前のように現れた。

「何で、お前がいる」

 導師は怒っていた。

「この国でも冒険者として信頼されている。だから、この国に来るという情報はもらえた」

「ちょっと、問題だな。一介の冒険者に情報が漏れるのは危険だ」

 導師はゼフカ王国の使者を見た。

「彼女を責めないでくれ。オレはこの国でも男爵の地位を得ている。貴族のオレに情報を渡しても不思議でない」

 クンツが使者の代わりに答えた。

「それでも、問題だ。男爵の地位に漏れるのは管理不届きだ」

「それはオレが情報を集めた結果だ。それに彼女からは聞いてないよ」

 クンツはほほ笑んだ。

「何を企んでいる」

「何も企んでいない。お手並みを拝見したいと思っただけだ。それに戦略級の魔法を見てみたい。だから、好奇心でここに居る。それだけだ」

「感心しないな。少しは遠慮がないのか?」

「すまんね。自分の心には素直なんでな」

 導師は怒ったまま目をつぶった。そして、息をはいて開ける。

「まあいい。邪魔だけはしないでくれ」

 導師はあきらめたようだ。

「わかっている。何も口出ししないよ」

 クンツは苦笑いを浮かべた。

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