第166話 魔道具2

「どう思う? 魔王を消せると思うか?」

「スキを突けばできると思います。ですが、気付いて障壁を張られたらわかりません。勇者と同じで魔王も規格外だと聞いてますから」

 導師はあごに手をやる。

「……そうだな。相手の力量を知らない。狙撃できても消せるとは簡単に思えない。安全を取って距離を縮めて威力を上げるか?」

「それは難しいかと。近すぎても遠すぎても困ります。ですが、地形によって狙撃場所が決まってしまうので、できることをする以外ありません」

「なるほど。これは難しいな。運の要素も必要になる」

「はい。なので、できることをするしかありません」

「単純に威力を上げる方法はないか?」

「ノクラヒロの増幅量は使った金属の量と比例しますか?」

 僕はきき返した。

「いや。しない。限界がある」

「では、限界まで使うのがいいかと」

「ああ。だが、これは限界まで使っている。これ以上の増幅はできない」

「なら、仕方ないかと。……後は距離を縮めるだけですね」

「そうだな」

 導師は息をはいた。

 緊張を解いたようだ。

 導師は二射で理解したようだ。だが、本番までには練習して欲しい。

「もういいのですか?」

「ああ。後は微調整だ。少しのずれがある。他の機能に文句はない」

 まだ、完成ではないようだ。なら、僕が遊んでもいいと思う。

「遊んでいいですか?」

「ああ。あまり、力をつぎ込んで壊すよ」

「壊れたら問題ですよ。それぐらいの頑丈さがないと困ります」

「そうだな」

 導師は笑った。

 僕はその後、スナイパーごっことして、その魔道具を連射して遊んだ。


「食事が終わったら、渡すものがある」

 朝食の席で導師にいわれた。

「何ですか?」

「ちょっとした道具だ」

「あの魔道具とついでに頼んでみた。それで、使った感想を聞かせて欲しい」

「ええ。いいですよ」

 導師の実験に付き合うようだ。

 朝食が終わると、執事のロドリグがお盆の上に魔道具を置いて持ってきた。

 導師が手にする。

 それはバネのような形をしていた。

「これはノクラヒロのリングだ。お前の歳ではすぐに大きくなるから、弾力があって腕に巻き付ける腕輪にした。試してみてくれ」

 執事が僕の前に持ってきた。リングは二つある。僕は両腕にはめた。

「きつくはないか?」

「ええ。弾力があるので問題ないです」

「お前は手のひらから魔法を使うクセがある。それで少しは補えるだろう」

 僕は杖を構える時は槍としての武器である。

 杖を使いたがらない魔術師としては失格である。だが、導師は関係ないみたいだ。

「ありがとうございます」

「ああ。後で感想を聞かせてくれ」

「はい」

 僕は両腕のリングを見た。

 黑いブレスレットである。だが、僕には杖よりも有用性は高かった。


 昼食後、カリーヌの家に行った。そして、テラスに出るとみんなは集まっていた。

 何やら、考え事があるのか静かだった。

「いらっしゃい」

 カリーヌの笑顔で迎えられた。

「お邪魔します」

 僕はそういっていつもの席に着いた。

「今日はみんなは難しい顔をしていますが、何かあったのですか?」

 僕はカリーヌにきいた。

「情報商戦よ。いつ始まるかわからないから、困っているみたい」

「そうですか。でも、王様と宰相が決めることなので、黙って待つしかないと思います」

「でも、スタートダッシュは必要だぞ」

 アルノルトはいった。

「そうですね。ですが、早ければいいとは思いません。みんなに受け入れられるかが問題と思いますから」

「それがわからん」

「そうですね。それがわかったら苦労はしませんね」

「むー。他人事だと思っているー」

 アルノルトはぼやいた。

「導師は参加しませんから、どうしても他人事になります。それは勘弁してください。それに導師が参加するなら黙っていますよ?」

「むー」

 アルノルトは不満な顔を隠さなかった。

「でも、ヒントはもらっているでしょう? 私たちは恵まれているわよ」

 カリーヌはいった。

「そうなんだけどな。確証になる話がない」

「すみませんが、それはないです。競争は激しいので、生き残れるのかわかりません」

 みんなはため息をはいていた。


「今日は実験に付き合ってくれませんか?」

 騎士団の練習場に向かう道で、エルトンとアドフルにきいた。

「どんな実験なんですか?」

 エルトンにきかれた。

「杖の代わりにブレスレットを導師からもらったんです。それで、どれくらい魔法の威力が変わるか見たいのです」

 エルトンとアドフルは黙った。

 僕は変なことはいっていないつもりだ。黙られるとは思ってもみなかった。

「……シオン様。今の状況でも厳しいのです。それ以上になると、私たちは倒れるしかありません」

「そうですか? さばき方はわかっているはずです」

「はい。ですが、攻撃の回数を考えてください。シオン様のスキを作るのに、アドフルと試行錯誤をしているのです」

「それほど、やっかいですか?」

「はい。あれだけの弾幕です。傷を覚悟で攻撃するしかないのです。なので、これ以上威力が上がると、防御膜を貫く可能性があります」

 エルトンは静かにいった。

「では、盾で威力だけ見てもらえませんか。どのくらい、威力が変わるか見て欲しいです」

「……わかりました。その代り、盾で受け止められる魔法にしてください。死にたくありません」

 エルトンのいいようは大げさに感じた。


「それで、どうだった?」

 導師にブレスレットの感想をきかれた。

「はい。杖ほどではないですが、威力が増幅できます。僕には杖より、ブレスレットの方が合っているようです」

「そうか。なら、安心した」

「でも、杖の方が威力は大きいです。矯正した方がいいと思いますが?」

「お前の魔法は十分な威力がある。多少の差など問題はないよ」

「なら、いいですが……」

 導師はほほ笑んでいた。

「それより、魔王が動いたと聞きました。まだ、陣を構えるほどではないらしいです」

 僕はいった。

「ああ。それなら知っている。だが、あの魔道具ができないと、参加はできん。今は待つしかないな」

 魔王と同じように準備段階らしい。

 今は待つしかないようだ。

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