第165話 魔道具
「それより、今日は?」
僕はクンツにきいた。
「ドラゴンブレスを教えて欲しい。魔法にするのに苦労している」
「それなら、四つが五つになっただけです」
「それが、できん。魔法を組み込むと、途端に難易度が上がる」
「もしかして、魔術と組み合わせているんですか?」
「ああ。魔術の方が簡単だからな」
「それなら、切り替えた方がいいですよ。全部魔法にした方が簡単です。ブレイクブレットの魔法で四つ使います。それに魔法の治癒などを使えば簡単です」
「ちょっと待て。ブレイクブレットを魔法でだと。誰もそんなことしないぞ?」
「僕はしていますが? ブレイクブレットは魔術と魔法の詠唱でも、魔力の流れは変わりありません。なので、無詠唱にするには一番簡単です」
「初耳だ」
「ですが、ブレイクブレットを使った方が早いです」
「だが、あの魔術は簡単すぎる。威力もない」
「いえ。魔力を込めると公級の魔法と並びますよ」
僕はブレイクブレットの威力のある弾を見せてた。
弾は大きくなるが他の魔法より小さい。その分、密度は高かった。
「マジか? ブレイクブレットに見えん」
クンツは弾を見つめていた。
下ではひざを着いたエルトンが笑っていた。
クンツの驚く顔は珍しいようだ。
「ですので、練習にはお勧めです。後は治癒辺りの魔法を組み合わせればいいかと」
「わかった。その方向で練習してみる。それで、お前の方はオレに何をして欲しいんだ?」
やはり、クンツである。僕の期待をわかっていたようだ。
「ミハイル・フォン・ソロモフ公爵について情報が欲しいです。導師の敵ですから」
「あいつか……。わかった。請け負う。だが、お返しに見合わない。あの魔道具の使い方ぐらい聞かせろ」
「シオン様の依頼に文句があるとでも?」
エルトンはいった。
「ある。あいつはやっかいだ。潰すには力と時間がかかる。魔法の情報だけでは釣り合わない」
エルトンは沈黙している。
「僕もそう思います。なので、手付金ぐらいしか払えません。それと、あの魔道具は魔王を倒すための一つの保険です。今はそれしかいえません」
「あの戦争に首を突っ込むのか?」
「僕は戦略級魔術師です。イヤでも呼ばれます」
「そうだったな。納得はできた。だが、いいのか? それで?」
「ええ。覚悟はできています。……僕は罰せられるべきだと思いますか?」
僕の魔法は少なくとも何千、何万もの人を殺せる。その中には罪のない人も巻き込む。それは正しいとは思わない。だが、間違えでも必要ならする覚悟はある。
「いや。オレは思わない」
クンツは真剣な顔でいった。
本気の言葉なのだろう。
「ありがとうございます」
「お前にその重しを乗せる大人が悪い。お前は自分の道を歩け。わかったか?」
「……はい」
クンツの言葉は冒険者であるクンツらしかった。
貴族の言葉ではない。それが残念だ。
「オレの言葉では納得できないと思う。だが、お前のすることに否定はしない」
「そういってもらえると助かります」
「勝手に想像して重しを重くするなよ。お前の重しは国が決めた重しだ。冒険者のオレからしたら大したことはない。オレはオレのために関係ない他の命を消しているし、親しくなった仲間の命も失っている。今はわからないと思うが、オレとお前は一緒だ。だから、オレを肯定するなら、自分も肯定しろ。まあ、何だ。いいたいことはわからなくなったが、自分を捨てるなよ。お前の仲間を否定することになる。お前を認めたという判断を否定するからな。……じゃあな」
クンツは手を挙げて去っていった。
クンツは最後には顔を赤くしていた。
大人でも恥ずかしいことをいったのだろうか?
疑問だけ残った。
「シオン。例のものができた。飯を食べたら荒野に行く」
導師はいった。
超長距離の魔道具ができたようだ。
「完成品ですか?」
僕は食いつくようにいった。
「ああ。そういっている。まあ、微調整は必要と思うけどな」
「それは楽しみです。僕にも撃たせてください」
「わかっている。一通りチェックしたら遊ばせてやる」
僕はうれしくなった。
夕食が終わり、紅茶を飲んで一服する。そして、お腹が落ち着くと、導師と共に荒野に転移した。
導師が歩いて岩の上に移動した。
「何で岩の上なんですか?」
僕はきいた。
「山の上から狙うつもりだ。なので、足場が不安定な場所を選んだ」
導師の考えがわかった。見下ろして使うのだろう。そして山の中だ。隠れるのにもちょうどいい。
導師は空間魔術で魔道具を出した。
それは大砲である。全長は長く大人の身長よりも長そうだった。銃身をかばうかのようにカバーは太い。
見た目は太いボールペンを横にしたようなものだった。そして、そこから足が四本生えている。
導師はその大砲を浮かしている。内部には浮遊の魔術が刻んであるようだ。
導師はそれを動かして、空間から取り出す。そして、自分の前に移動させると下ろした。
すると、足が四本とも自動的に動いて岩の上に立つ。
ドッガッと音がした。
「何の音ですか?」
導師にきいた。
「足のスパイクが岩に刺さった音だ。これで、大砲が固定された」
「なるほど」
これで、固定されて安定するようだ。代わりに動かないが問題ない。銃身の方は動くからだ。
「探知魔法を使う。お前も使ってくれ」
「はい。範囲はどれくらいですか?」
「できる範囲だな」
「はい。ですが、魔法になったので、かなり広いですよ。マナがあればいいですから」
「なら、安心だな。最初はどれくらいの距離をドラゴンブレスが飛ぶか測る」
「わかりました」
導師は魔道具にさらに魔力を流して起動させた。
スコープが起き上がった。それで遠くを見るようだ。
導師は両肩をストックに当てた。そして、スコープをのぞき込んで目標を選んでいるようだ。
レバーを回して微調整をする。銃身であるノクラヒロの杖を目標に向けている。やがて、手が止まった。
「行くぞ」
導師はいった。
「はい」
導師は少し後にドラゴンブレスを、その魔道具から放った。
鋭く凶暴な弾丸は遠くに消えた。
「うむ。精度はまあまあだな」
導師は感心していた。
「すみません。目で追い切れませんでした。先に的を教えてくれませんか?」
僕はいった。
「そうだったな。忘れていた。探知の魔法を共有する」
そういうと、導師の認識が僕の探知魔法に流れてきた。
「狙うのはこの岩だ。必要な威力があるか見る。標的を消せるぐらいの威力があるか見てくれ」
「わかりました」
導師はレバーを回して微調整していた。
やがて、その手は止まった。調整ができたみたいだ。
「では、行く」
「はい」
導師はドラゴンブレスを放った。今度は遠見の魔法でその軌道を追った。そして、岩は消えた。
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