第164話 魔法の使い方

 カリーヌのお宅に訪れて、紅茶で癒されていた。

「どうしたの? 今日は難しい顔をしているわ」

 カリーヌにきかれた。

「いえ。僧侶という専門職が必要と悟ったんです。導師は医学書は魔術師には必要ないと判断しました」

「そうなの? なら、シオンががっかりする必要はないと思うけど?」

「戦場では軍医が必要です。ケガや病気を治す必要があります」

「ん? その時は従軍から離れるだけでしょう? 問題ないわよ」

「ですが、緊急なら必要でしょう。脇腹をなくしても、出血多量で死なないですから」

「そうなの? でも、それは仕方ないと思うわよ」

「でも、それをくつがえすのが医者です。戦争でも必要なんです」

「それって、一人でも生きて欲しいてこと?」

「ええ。キレイごとですが」

 僕はため息をはいた。

 この世界では命の価値が軽すぎる。それが、僕の前世の記憶と違った。

「そっか。シオンは死んで欲しくないのね。それなら、賛成よ」

 カリーヌはほほ笑んだ。

「そうですね。理想的なのはわかっています。ですが、できると思うのでして欲しいです」

「でも、時間がかかると思うわ。それって、魔法でしょ? 使える術者は限られているわ」

「そうですね。今はタネを植えることにします」

「悲観しないで。人は愚かでもあるけど、聡明でもあるのよ」

 カリーヌの優しさに僕はうなずくだけだった。

 アルノルトはエトヴィンに声にならない何かをいっている。

 エトヴィンは苦い顔をしていた。

「エトヴィンさん。何かあるのですか?」

 僕はきいた。

「ああ。小さなことなのだが、ききたくてな。いいかな?」

「はい。いいですけど?」

「今は製紙工場のメドはできた。しかし、印刷技術が確立していない。それで、見て欲しいものがあるんだ」

「ええ。構いません」

 エトヴィンは空間魔術のかかったカバンから箱を出した。

「印刷で使うハンコだ。これを見て意見が欲しい」

「はい。わかりました」

 僕は箱を持って開けた。

 中には鉄でできたハンコが並んでいる。しかし、精密さに欠けた。これでは、印刷しても読めない文字が出てくる。それに、ハンコの長さが違った。

「エトヴィンさん。ハンコの長さを均一にしてください。同じ台に並べますから。それと、文字はつづり文字では読みにくいです。ですので、やめてください。新聞を印刷するには一面を一度に刷る必要があります。なので、同じ文字が何度も出てくるので、大量のハンコが必要になります。それは本とかを参考にして増やしてください。絵は木製でもいいと思います。使い回しは低いと思いますから」

 エトヴィンはメモをしていた。

「なるほど。この金属のハンコを並べて文章にする。それは紙一面を埋めるほど必要と。読みやすさを優先して、つづり文字は不可と。絵は木でも可と」

 エトヴィンの解析の能力は高かった。

「はい。頭が整理できなくてすみません。思いついた先からいいました」

「いや、注意点がよく分かった。参考になったよ。ありがとう」

「なら、よかったです」

「仕事は終わったし、遊ぼうぜ」

 アルノルトはトランプを持っていた。


 騎士団の練習場で稽古をしていると、クンツ・レギーンが現れた。

 すぐにエルトンは飛んでいく。

「男爵様。何用ですか? シオン様に用なら私がききます」

 クンツの前に片ひざを着いてとどめていた。

「またかよ。お前にそこまで嫌われる理由はないはずだぞ?」

「いえ。私はシオン様のためにしているだけです」

 エルトンは当たり前のように答えた。

「ちょっと、ドラゴンブレスのやり方をききに来ただけだ。それぐらいきいてもいいだろう?」

「それだけですまないのが、男爵様と聞いています」

「面白い情報を持ってきたとしてもか?」

「内容次第です」

「なら、戦争の前準備が始まり出した。陣を作り出したといえばわかるか?」

「ええ。ですが、シオン様と何のかかわりもありません」

「魔王が表舞台に出てくるのは近い。そういえば、シオンにはわかるはずだ。そのための魔道具も作っているようだからな」

「何の話かわかりません」

 エルトンは押し留めた。

「すみません。その魔道具の話はどこから?」

 僕は二人に近寄った。

「魔道具屋に知り合いがいる。そこで、変わった魔道具を作っているときいた。それで調べたら、お前に行きついた。……あんな物、何に使うんだ?」

「それは、秘密です」

「そうかい」

 クンツには予想できていないようだ。不満そうな顔をした。

 クンツも人間だと思えて安心した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る