第163話 ガーデンルーム

「シオン様。情報商戦の話は聞いていますか?」

 騎士団の練習場に向かう道でエルトンにきかれた。

 話の発端は僕だとはいえない。もう他人の手に渡っていて、燃え広がっているからだ。

「ええ。話は聞いています。宰相が慎重になっているようです。大事ですから」

「そうでしたか。私たちには王の言葉を聞けるとしか伝わっていません。なので、どんなものになるのか知らないのです」

 エルトンは笑った。

「新聞というものができるというウワサです。ただ、情報は扱い方で毒にも薬にもなります。なので、慎重なのでしょう」

「なるほど。戦争の情報を知れればいいと思っていましたが、ギルドで買うしかありませんな」

「そうですね。傭兵ギルドの方が確かな情報です。それに新鮮な情報だと思います」

「シオン様はギルドに行ったことがあるんですか?」

「いいえ。話で聞いたぐらいです。あそこは子供の僕では近寄れません」

「そうでしたね。時々、忘れますが、シオン様はまだ七歳でしたね」

「はい。なので、ギルドには関心があります。どんなところか知りたいです」

「荒くれ者ばかりですよ。礼儀などない力自慢が多いです。なので、シオン様が一人で入れば追い出されるかと。危険ですから」

 僕は予想していたが、当たってガックリした。

 僕もギルドというものに興味があった。どんな依頼や人間がいるのか知りたかった。だが、今の年齢では早すぎるようだ。

「アドフルさんと一緒なら大丈夫ですか?」

「騎士団なので問題はないです。でも、受付にはイヤな顔をされますよ。犯罪者でも探りに来たかと思われますから。それに、私でもこの鎧を着て行きませんから」

 傭兵と騎士団は違うようだ。

 それよりも、僕にはギルドは縁遠いようだ。


 夕食の席で導師に提案した。ガーデンルームが欲しいと。

「何だ? それ?」

 当然だが、導師にきかれた。

「テラスをがラス張りにして、雨や風を避ける空間です。季節に関係なく開放的な場所ができます」

「ほう。それはいいが、お前はいつ使うんだ?」

 導師の指摘に固まった。

 カリーヌのテラスを改造して欲しいとはいえない。なので、家に作ってジスランにマネしてもらおうと思っていた。

 だが、我が家では庭に目をやって、ゆっくりする時間がない。何かしら、勉強などをしていた。

「まあ、お前の狙いはわかる。ジスランの家に作って欲しいんだろう? もうすぐ寒くなるからな」

「……はい」

 僕の考えはお見通しだったようだ。

「簡単な設計書を書いてくれ。それをジスランに渡す。お前はそれぐらいの借りを作っているから問題ない」

「それなら、いいですが……」

「まあ。子供のわがままだ。イヤなら笑い飛ばすよ。あいつはそういうヤツだ」

 導師は笑っていた。


 夜も朝も医学書を読んで勉強する。前世では考えられないことだった。

 医学書など医大の学生や医師しか読まない。だから、僕はマンガを読むのを選ぶだろう。しかし、医学書は魔法のことも書いてあり、一通り目を通さないと気がすまない。こぼれ落とした魔法は大きいと思うからだ。

 この医学書を読み解いて、知識を使えるのなら大きなことができる。それは医師にならなくとも必要になる知識だ。特に傭兵や騎士団なら必要だろう。破壊された体を元に戻せるのだから。


「今日も熱心だったようだな。家庭教師が翻訳本を欲しがっていたぞ。事前に勉強したいと」

 昼食の席で導師はいった。

「そうなんですか。なら、先生を巻き込んでよかったです。僕一人では無理ですから」

「それほど、難しいか?」

 導師の言葉にあきれた。

「僕は普通の頭なんです。導師と一緒にしないでください」

「そうか。魔法は生活魔法の範囲だと思うぞ?」

「え?」

 僕は導師の解釈に疑問を持った。

「滅菌とか接合とか専門的な魔法ですよ。病気やケガなどで使う魔法ですよ。特殊なものが多いですよ?」

「そうなのか? 流し読みで私には必要ないので飛ばした」

「ケガや病気を治す方法です。命に直結する魔法ですよ。必要でしょう?」

「そうなのか? 手術を必要としている時点で死に体だと思うぞ?」

「その時は逃げて治療です。どこでも治せるように、結界とともに滅菌する魔法があったでしょう?」

「そうだったか? だが、私には向かん。魔術師も魔法使いも戦士だ。戦いとは関係ないから無視したよ」

 導師の魔術師と魔法使いのイメージは戦闘職らしい。僧侶という新しい職業を作らないとならないらしい。

 また。仕事が増えた。

 僕はそう悟った。近い内に宰相に話さないとならないようだ。

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