第162話 準備

 午前中は医学書を持ち出して、二人の家庭教師の教科書にさせた。医学書であるため難解である。それを教科書にするのだ。家庭教師の誇りが許さないのだろう。苦労して読み解いて僕に教えてくれた。

 午後からはカリーヌの家に行った。

 今日もジスランに出迎えられた。

 ヒマなのかと思ったが、声にすることはない。

 素直にジスランの書斎に入った。

「あれから、タブレットの機能を追加した。それを見てもらいたい」

「はい。……あのー。王様には許可が取れたんですか?」

 僕は恐る恐るきいた。

「まだだね。宰相はかなり慎重になっている。王の責任になるからね」

「それなら、情報庁とか作って他の貴族の責任にすればいいのでは?」

「どういうことだい?」

「責任を分担するんです。軍なら責任者がいますよね。そのトップの責任者を高位の貴族がすればいいだけです。失敗したら、その責任はその貴族にする。王は任命責任しか持たないとか」

「なるほど。情報商戦では、高位の公爵が全部の責任を持つということだね。それで、失敗しても王は軽くしか傷つかない」

「はい。そのように責任の分担をすればいいかと。ですが、君主制なので王の権力は絶対だと示さなければならないですが」

「面白いいね。それ。今度、宰相に提案してみるよ。宰相も仕事が減ると思うし」

「そうですね。宰相は働きすぎです」

 そういうとジスランは笑った。

 その後は新しいタブレットと呼ぶようになった魔道具を触って機能を確かめた。


 タブレットの機能は追加されている。だが、一つの本を前と後ろにめくるぐらいだ。本の代わりとしては十分である。しかし、魔道具である限り値段は高い。

 本の代用品として十分な機能である。しおりや付箋をはさめない。だが、今後も機能はつぎ込まれるだろう。本の代用品になる可能性がある。

 可能性がありすぎて判断できなかった。

「よう。……今日は問題でも起きたのか?」

 テラスに行くとアルノルトにあいさつでなく尋ねられた。

「ええ。新しい道具と安さでは、みんながどちらをとるのかわからないんです」

「おお。……そうか」

 アルノルトはとまどっていた。

「早く座って。今日の紅茶はレモンティーよ」

 カリーヌにいわれていつもの席に座る。そして、メイドの出した紅茶に口をつけた。

「お父様の魔道具を見たの?」

 カリーヌはいった。

「ええ。進歩していて、新しもの好きにはたまりません」

「そうなの? 私も見た方がいいかしら?」

「機会があるなら触った方がいいですよ。面白いですから」

 僕は自分の感情がわかった。

 新しくって面白い。

 それがよくわかった。

「それって、情報商戦に関わるかしら?」

 レティシアは鋭かった。

「ええ。ですが、スタートはまだです。王の許可が出て初めて走り出せますから。今は準備期間ですね」

「なら、情報を集めた方がいいかしら?」

「わかりません。情報には賞味期限があります。古すぎても新しすぎても問題がありますから」

「むう。難しいぞ?」

 アルノルトがぼやいた。

「そういうものなので、難しんです。僕が考える生き残る方法は、多くの新聞屋を作ることです。そして、生き残ったのを、集中的に育てる方法しか思いつきません」

「それではいくら金があっても無理だな」

 エトヴィンはいった。

「はい。なので、精一杯、努力をして、運に恵まれた新聞屋しか残らないと思います」

「そうか。なら、必要なことをするまでだな」

 エトヴィンはいった。

「エトヴィンさんは製紙工場と印刷工場としての道があります。そちらの方に力を入れた方がいいかと」

「そうなのか? 新聞屋になる方法の一つとして考えているけど?」

「新聞屋は紙がなければ意味がありません。なので、安価な紙なら買うかと。それに印刷工場は必要です。新聞を大量に生産できません」

「そうか。でも、父は新聞屋をしたいようだ。できないと、思うか?」

「わかりません。紙とインクと情報をまかなえるのは強いです。ですが、他は新聞屋一本に備えています。労力を割いているのが、足を引っ張っるかと思います」

「なるほど。その可能性は考えなかった。父と相談だな。他には何かないか?」

「印刷技術の確立ですね。まあ、紙を作れるので、安泰だと思います」

「そうか……」

 エトヴィンは考え込んだ。

「それより、テロリストの情報はない?」

 レティシアはいった。

「何で、反体制派なんですか? 公爵家でしょう?」

「刺激が欲しいのよ。それに、右にならえでは面白くないでしょう? 短い人生、楽しまないと」

 レティシアはまだ九歳だ。どんな英才教育を受けのか理解できなかった。

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