第161話 敵

 応接室の横にある隠し部屋に執事と入る。

 そこからは応接室の中が穴がいていて見れた。

 執事は無言で穴を指さす。僕は明かりがもれる穴から見た。

 一人の貴族らしき男がいる。糸目でほほ笑んでいるのか、怒っているのかわからない。だが、作り笑いをしているのはわかる。それだけで、注意する人間だとわかる。身なりはキレイだが、どこが汚く見える。雰囲気が攻撃的で本能的に避けるような人物だった。

「――それだけの知識を埋もれさるのは国益に反する。もっと活用するべきだ」

 男はいった。

 その言葉には感情がこもっていなかった。

 本心なのかわからない。

「急激な変化は歪になり秩序を崩壊させる。慎重にするべきと考えている」

 導師の声は嫌がっている。しかし、返答しないとならないようだ。

「新しい芽は秩序とは関係なく生まれる。そして、秩序という土を押しのけて芽を出すんだ。君の心配は無駄だ。それとも、摘み取りたいのかい?」

「慎重になっているだけだよ。まだ、幼いんだ。世に出すのも早すぎた」

「だからいっただろう。新しい芽は秩序と関係なく芽を出すと」

「だからといって、利用はしない。私の子なのでね」

「それは建前だ。あの子は養子だ。それも、元は下男。気まぐれで子供にしたとしか思えないよ」

「そうかもな。だが、今は私の子である。文句はいわせん」

 導師の言葉には怒気と共に攻撃の気配を感じていた。

「だが、独り占めする必要はないだろう。知識は情報だ。分け与えても、知識の泉は汚せない。オレにもその恩恵を分けてくれてもいいだろう?」

「悪いが、それはない。あの子は成り行きで知識を振りまいている。その恩恵を受けられないのを、私やあの子のせいにして欲しくない。恩恵にあずかれない自分の不運を呪ってくれ」

「だから、こうして来ている。文句があるのかい?」

「なら、それなりの態度で接して欲しい。目についたおもちゃは、自分のものだと思っているのを直した方がいいぞ」

 男の目が冷ややかになった。

「ふうん。そっか、君は僕の敵になるか?」

「最初からそうだろう? 今さら確認することではない」

「そうだったね。君とは休戦できると思ったが、無理そうだ。まあ、お互い楽しもう。貴族らしく」

 男は面白いのか笑った。

「いつも、一方的だな。対手が自分の思い通りになると思っている。お前らしいよ」

「ありがとう。それは僕にとってほめ言葉だ」

 男はソファーから立った。

 ロドリグは隠し部屋を出る。そして、ドアを閉じた。

 男の見送りだろう。

 僕はロドリグが戻って来るまで待ってから隠し部屋から出た。

 ロドリグに送られて自分の部屋に帰った。

「あれが導師の敵ですか?」

 部屋に入ったが、ドアの前に立つロドリグにいった。

「はい。ミハイル・フォン・ソロモフ公爵です。シオン様も貴族ですので、お気を付けください」

「わかりました。ですが、なぜ、僕に見せたのですか? 僕は処世術もないに等しいですよ。導師のお荷物でしかありません」

「はい。シオン様は幼いです。なので、本来なら隠す事柄です。ですが、私のカンが教えるべきだというのです。なぜかはわかりません。すぎたマネなのはわかっています。申し訳ありません」

「……いえ。敵を認識するのも必要です。対策を考えられますから。……彼の派閥を知りたいです。導師に内緒で教えてくれませんか?」

「……はい。私の知る範囲でよければ」

「ありがとうございます」

「いえ。執事として失格です。申し訳ありません」

「いえ。優秀だと思います。なので、自分のカンを否定しないでください」

「……はい。そういっていただけると助かります」

「お休みなさい」

「はい。お休みなさいませ」

 ロドリグは部屋を出て、ドアを閉めた。

 敵の存在は身近にあるらしい。だが、貴族の争い方は知らない。敵は頭が切れるのはわかる。しかし、それだけで生きていけるのかと疑問に思った。

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