第160話 影響

 仕事中毒なのかな? と思いながら、騎士団の練習場に向かって歩く。

「シオン様。何か悩みでも?」

 共に歩くエルトンにきかれた。

「いえ。他人の事業に必死に口出しているので、それでいいのかと思いました」

「それは自分の仕事にして、もうけたいと?」

「いえ。環境の保全とか考えているんです。他種族の関係とか……。今の時代には合わないですよね」

「それは先を見ていると思います。人族のおごりで妖精族に嫌われている面もありますから」

「やはり、そうなんですね」

「ええ。ですが、シオン様は違います。他種族と仲良くしようと考えています。領土を主張して他種族を排除しない。今の貴族にそのような考えを持つ者は少ないと思います」

「木や石など資源は無限だと思いますか?」

「いえ。人でも物でも限りがあります。なくならないものなどありません」

「そうですね。この世界ではいらぬ争いをして欲しくありません」

「それは資源の取り合いですか? それとも魔王の戦争ですか?」

「どちらもです」

「シオン様はお優しいですね」

 エルトンは笑った。

 僕は心の中で否定する。

 冷酷になれる自分を知っているからだ。


「導師。情報商戦は、どうなっていますか?」

 夕食の席で導師にきいた。

「まだ、決まらないな。情報の扱い方には慎重にならないとならん。良くも悪くも大衆を操作する。なので、まだ、何も決まってないようだ」

「そうですか。媒体になる紙と魔道具の試作品はできています。近い内に下準備はできそうです」

「そうか。ジスランが魔道具を作ったのは知っている。だが、王の許可がないとできない。だから、まだ、始まらない。それより、

お前の影響が大きいのか、平民がウワサしているぞ。新聞ができるって」

「新聞って名前を知っているのですか?」

「ああ。どこから広まったのかわからないが、その名前で呼ばれている」

「みんな関心があるんですか?」

「もちろん。新しいものができるんだ無視できない。イヤでも聞き耳を立てる」

「そんなものなんですか。宰相の仕事が増えていませんか?」

「もちろん。増えている。親戚なので泣き言をいわれるよ」

 導師は公爵である。それは王との血のつながりが近いことを表している。そして、宰相も貴族である。親戚であっても不思議ではない。

「そうですか。宰相も大変な役柄ですね」

「他人事みたいにいうなよ。お前がまいた種がいくつもあるぞ」

 僕は思い出してみる。

 龍族関係と情報商戦ぐらいだろう。

 導師に怒られるほどのものはないはずだ。

「カジノとか聖霊とかあるだろう? 忘れたか?」

「覚えてますよ。でも、僕から作ったのはないと思います」

「お前はそう認識か……。お前の知識でできているものを考えような?」

 導師は顔では笑うが声は怒っていた。

「ですが、掃除機や洗濯機など作ってませんよ。僕だけが責められるのは平等ではないです」

「あの魔道具は古くからあるぞ」

「ですが、あの魔道具は僕の前世の知識の中と同じものです。ただ、魔力は貯蔵できないので、手放しでできないものは作られていません」

「そうなのか?」

 導師は神妙な顔になった。

「ええ。僕と同じ前世の人がいたと思います。今度、発案者を教えてください」

「そうか……。ちょっと調べてみる」

「それなら、乾燥機を作ってください。洗濯機を知っているなら乾燥機も知っている可能性が高いですから」

 僕はついでとばかりいった。

「それは何だ?」

「衣類を温風で乾燥させるものです。雨の日でもシーツなどを乾かせますよ」

「そうか。わかった。魔道具屋にきいてみる」

「なら、僕も行きたいです」

「すまんが行く余裕はない。来てもらう予定だ」

 導師は屋敷に魔道具屋を呼ぶ予定らしい。そこで、話をするようだ。

 僕は魔道具屋に行けなくてがっかりした。


 夜に医学書を読んで勉強していると、部屋のドアがノックされた。

 僕はノーラが来たものと思って、振り返った。しかし、ドアは開かなかった。

 再度、ノックがされた。

「はい。開いているよ」

 ノーラにしては変だった。

「失礼します」

 ドアを開けたのは執事のロドリグだった。

「どうしたんですか?」

 執事が僕の部屋に来るのは初めてだった。

「シオン様に見せたい人物がいます。今、応接室で導師と話しています」

「誰ですか?」

「それは後に。急がないと帰られますから」

「わかりました」

 僕は席を立った。

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