第159話 おしゃべり
「今日は遅かったということは、新しいのができたのか?」
アルノルトは僕を見るなりいった。
「ええ。試作品は完成しました。なので、今度は試遊してくれいわれました。今度は触れるかもしれませんよ」
「やったー」
アルノルトはガッツポーズをとって、体全体でよろこんでいた。
僕はそれを見ながらいつもの席に座った。
「お父様はよろこんでいた?」
カリーヌにきかれた。
「ええ。機嫌はいいと思いましたよ」
「なら、よかった」
「……やはり、お父様は競馬の件で思うところがあるのですか?」
「言葉ではいわないけど、考え込んでいることがあるの。それが心配で」
「そうですね。でも、カジノで資金はあります。情報商戦で有利に動けると思いますよ」
「なら、いいけど」
「今は戦争が起きそうなんで、みな、ピリピリしていますよ。導師も慎重になっていますから」
「そうなんだ。でも、何かイヤな雰囲気がして落ち着かない」
「そうですね。でも、戦争が起きるのはゼフカ王国です。この国まで戦火は来ません」
「そうなんだけど。何かイヤなことが起きる気がして……」
「そうですね。でも、王都の壁から出なければ危険はないと思います。ここは守られていますから」
「うん。そうね……」
カリーヌの心配は拭い去れないようだ。
僕には見守るしかできなかった。
「シオン。これを見てくれ」
エトヴィンが話題を変えるかのようにいった。
エトヴィンは空間魔法で作られたカバンから紙を出した。
「新聞にするには、どの紙がいい?」
エトヴィンの手にある紙は三枚だ。色が異なっている。くすんだ色から白に近づいていた。
「この三つは白くする薬品を使ってますか?」
「そこまでわかるのか?」
「ええ。木から作ったにしては白すぎますから」
「そうか……。白くする薬品はできている。それで、新聞に使う紙の質を知りたい」
「それなら、最低限でいいですよ。読めれば問題ないです」
「そうなのか?」
エトヴィンには意外なようだ。
「ええ。毎日配られるため読み捨てになります。なので、本のように大事にされません。まあ、読み終わった新聞は、包み紙やお尻を拭く紙になるかと」
「そうなのか?」
「ええ。読み捨てられた紙を回収して、薬品で白くして再利用も考えられます」
「そうなのか? 質は高い方がいいと思うが?」
「その分、高額になるのでやめた方がいいです。それに、この質の紙なら本に使った方がいいです。本を大量生産して安くして売る。これも一つの商売になります」
「わかった。父と相談する」
エトヴィンは紙をしまった。
「それよりも、トイレットペーパーを作ってもらいませんか? ウォシュレットがありますが、布で拭くより紙で拭きたいです。再利用は感心しますが、何かイヤで」
「それはどんなのだ?」
「触り心地はやわらかくって、水に溶けます。水に流しても溶けるので、詰まることはありません」
「そんな紙があるのか?」
「木の繊維の結合が弱ければいいだけと思います。研究が必要と思いますけど、貴族では流行ると思います」
「そうか。父に提案する」
「よろしくお願いします」
「尻を拭くのに、こだわりでもあるのか?」
アルノルトは不思議そうにいった。
「いえ。衛生面を考えてです。使い回す布では雑菌が多そうですから」
「雑菌?」
「目に見えない菌です。これが大量に体に入ると病気になります。流行り病などは菌による病気ですよ。風や鳥が運んできます。清潔にしていれば病になりにくいです」
「その言い方だと、ならない保証はないのね」
レティシアはいった。
「ええ。抵抗力が低ければなります。特に小さい子やお年寄りですね」
そういいながらも、僕は大人からしたら、その小さい子に入る年齢だった。
「そう。今は対策ができないのかしら?」
「できますよ。掃除をしてキレイにすること。もちろん、体もです。後は滅菌の魔法があります。それで、菌を殺せます。ですが、無菌状態だと抵抗力を下げます。なので、掃除とお風呂が基本ですね」
「えー」
アルノルトはイヤな顔をした。
掃除と風呂が嫌いなようだ。
「そうだ。エトヴィンさん。木を切るなら片っ端から切らないでくださいね」
「ん? 木など次から次に生えるだろう?」
「いえ。成木になるには五十年ぐらいかかります。切ったら植えるぐらいでないと、将来はなくなります。それに木がなくなった山だと土砂崩れが起きます。木の根が地中深く生えて土を握って押さえていますから」
「そうなのか? では、森は?」
「聖霊や妖精に嫌われます。住処ですから。木を選んで間引きのように切るのがいいと思います。それなら、妖精の文句も少ないと思います」
「わかった。父に進言する」
その後はあれこれ話した。
ふと思う。何でこんなにも他人の事業に必死なのかわからない。
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