第158話 ノーラ

「そろそろ槍を握れますか?」

 僕は騎士団の練習場でアドフルに手を出した。

 エルトンは僕に甘いので、アドフルに判断してもらった。

「ダメですね。右手の爪よりもやわらかいです。左手で少し重いものを持って訓練する方がいいです。一か月ぐらいすれば硬くなると思います」

「わかりました。では、土で作った杖を持って魔法を使います。それなら大丈夫ですよね」

「はい。ですが、最初は軽くしてください。手では軽くても爪では違いますから」

 今日も僕は二人と魔法で模擬戦をした。


「魔術の練習に荒野に行くな」

 夕食の時に導師にいわれた。

「理由は何ですか?」

「妖魔族の移動を確認した。戦争の気配を感じて動いたようだ」

「戦争と何の関係があるんですか?」

「人族の守りが薄くなる。特に傭兵が徴収されるので、旅人の守りが薄くなる。妖魔族からしたら食料を調達しやすい」

「それで、荒野にも出るんですか?」

「わからん。だが、万が一の場合を考えている。お前でも、相手が複数になればやられる可能性はある。だから、しばらくは静かに魔術書を勉強していてくれ」

「わかりました」

 戦争とは色々なものを奪っていくようだ。


 僕はマナの吸い込んでマナを圧縮して体の中を回す。魔力の時と違って純度は低いが力は強い。なので、念じる力は強くなければならなかった。

 何度も体の中を回して体の中にとどめる。それが、魔力による人間爆弾からの卒業だが、さらに危険になっているように思う。

 何か力ばかりを体内に貯めて持っている。魔力の時のように害はないようだが、力が増しているように感じている。

 僕は息をはいた。

 考えても答えの出ないことに時間を使う必要はない。

 素直に寝ることにした。

 布団に入ると、ドアが開いた。

「シオン様。また、台所に入りましたね」

 ノーラは怒っていた。

「おやつはとってないよ。頼めば出してくれるんだし」

「では、何でなくなっているのですか?」

「台所にはいってないからわからない」

「ですが、私のおやつが――」

「ちょっと、ノーラさん」

 ノーラの後ろに執事のロドリグがいた。

 ノーラは驚いて部屋の中に入った。

「シオン様は公爵家のご子息です。過去は同僚でしたが、今は違います。失礼を働いてはいけません」

「……はい。申し訳ありません」

 ノーラは我に返ったのか執事にあやまった。

「それと、おやつを隠すのは感心しません。それに、衛生的に悪いので片づけました。食器や鍋が汚れていましたから」

「そうだったんですか?」

「ええ。これでも執事です。家の管理が仕事です。なので、おやつは主人から許されているので隠さないように。動物ではないのですから」

「はい……」

 ノーラは気を落としていた。

「シオン様。お騒がせしました。もう、このようなことはさせません。なので、ご容赦ください」

「別に気にしてませんよ」

「ありがとうございます」

 執事はノーラを部屋から廊下に連れ出した。

「では、お休みなさいませ」

 執事はドアを閉めた。

 僕はベットに横になった。

 優秀な執事だと感心しながら目を閉じた。


 戦争の足音は近づいているが、僕にできることはない。

 僕はまだ子供だ。大人のやることに反対はできても意見は通らない。だがら、日常をこなすだけだった。

 魔法の練習に荒野に行けないので、家庭教師を巻き込んで医学書の文書を要約してもらった。

 家庭教師は頭がよくないとできないようだ。僕には理解できなかった医学書を読みながら説明してくれた。おかげで、医学書の勉強は進んだ。


 午前のつらい勉強が終わると、カリーヌの家に行った。

 玄関ではジスランに迎えられた。

「パチンコとスマートボールの試作品が届いた。試遊してみてくれ」

「はい」

 メイドの後に続いて歩き、遊戯室に入った。

 そこには、見知ったパチンコ台とスマートボールの台が並んでいた。

「さっそくだが、頼む」

 ジスランにいわれたが、完成品に見える。ガラスも透明だし、クギは等間隔に並んでいる。そして、確率を考えてか、入りづらいように釘の調整がしてあった。

 僕はパチンコ台の前に座った。そして、レバーを弾いて玉を飛ばした。

 玉は面白いようにはねて転がる。文句はなかった。

 僕はしばらく打っていると玉がたまった。すると、下の器に過剰な分が下から出てきた。

 レバーをずらすだけで玉を箱に落とすようにしたい。

 僕はそれをジスランにいった。

 ジスランはそれをメモしていた。

 スマートボールも完成度は高い。文句はなかった。

「完成していると思います。後は確率の操作ですね。クギを打ち方で操作して、あまい台とかたい台を作ればいいかと」

「そうか。安心した。これで表に出せる。後は試遊して確率を見るだけか。その時は付き合ってくれるかい?」

「はい。もちろんです」

 僕は遊戯室から出てカリーヌのいるテラスに向かった。

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