第157話 練習

 僕たちは龍に送られて王都に帰った。

 その後は登城して王に報告をした。

 そして、導師と共に家に帰ると、遅い昼食になった。

 これではカリーヌの家に行くには遅すぎた。

「今日は付き合え。騎士団の練習もなしだ」

 導師はいった。

「何するんですか?」

「お前の魔法を見る。私はお前の師でもある。自習に任せていたが、教えることがあるか調べる」

「そういえば、導師に習うのは久しぶりですね」

「そうだったか? 忙しいから忘れていたか?」

「ええ。ずっと自習だったと思います」

「そうか。それはすまなかったな」

「いえ。忙しいので仕方がないです」

「……そうだな。なら、今日は魔法を練習しよう」

「はい」

 導師の優しさに感謝しつつ昼食を食べた。


 荒野で魔法を導師に見せた。

「お前は威力より速さを重視しているな」

 一発でバレた。

「はい。当たらなければ意味がないですから」

「まあ、騎士団で訓練しているんだ。速さがないと意味がない。だが、威力を放棄はするなよ」

「ええ。それはドラゴブレスでまかなっています」

「なるほど。お前は本番と練習を分けているな?」

「はい。相手をケガさせるのはイヤですから」

「なら、相手を考えないで攻撃する魔法は?」

「あります。本気のブレイクブレットやクラッシュです。使い勝手がいいですから」

「なるほど。お前は一つの魔法に二つの用途があるのだな。それは私にはマネできん」

「そうなんですか? 魔力の加減をすればいいだけですよ。初級の魔法は威力や弾数を変えられますから」

「私はそんな器用ではないな。それに、それを練習するなら、威力のある魔法を習得する」

「帝級ですか?」

「ああ。今さらだが、帝級の魔法は使えるか?」

「はい。ですが、練習で使っただけですね。呪文を唱え終えるには長いし、効率が良くなかったです」

「無詠唱は?」

「できますが、発現までの時間がかかります。それなら、ドラゴンブレスを使った方が速いし威力があります」

「なるほど。お前は帝級を簡単に使えるようになれ。そうすれば、地力が上がる」

「そうなんですか?」

「ああ。慣れた魔法ばかり使っていると力がかたよる。練習と思ってやってみろ」

「では、水の帝級である雨を降らすのに、ちょうどいい村はありますか?」

「そんなことは考えないでいい。練習だ。この荒野で十分だ」

「環境破壊になると思いますがいいのですか?」

「気にするな。荒野はうるおっても元に戻る。……お前は変なところでこだわるな?」

「環境破壊はしたくないですから」

「戦略級の魔法使いの言葉ではないぞ」

 導師は苦笑いを浮かべた。

 戦略級の魔法なら地面をえぐってクレーターにする。

 人の大量殺人どころか環境破壊ができる。

 僕は浅はかさで戦略級になった自分には笑うしかなかった。


「昨日は何で来なかったんだよ」

 アルノルトに責められた。

 今はカリーヌに家のテラスでお茶をしていた。

「ちょっと、龍族のところにいっていたんです。なので、登城もしました」

「そっか。シオンも大変だな」

 アルノルトは簡単に納得した。

「龍族のところには、何しにいったの?」

 カリーヌにきかれた。

「僕の父の背後を宰相がきいていました」

「宰相が?」

 皆は驚いていた。

「ええ。ですが、魔導書をもらったお返しをしにいったのが、本命かと」

「そう。国にとって大事だったのね」

 カリーヌはいった。

「すみませんが、この話は内緒にしてください」

「もちろん」

 カリーヌはほほ笑んだ。

 他の皆もうなずいた。

「それで、龍族は教えてくれたのか? 背後にいるのを?」

 エトヴィンはいった。

「いえ。予想はしているようですが、いわなかったです。知ることで危険になることもありますから」

「そうか。なら、きかない方がいいな」

「ええ。お願いします」

「それより、戦争になるって本当か?」

 アルノルトはいった。

「魔族とのか?」

 エトヴィンはいった。

「ああ。そのせいで競馬が先延ばしになったときいた」

 アルノルトの怒っていた。

 誰から聞いたのかわからないが、博打に関しては嗅覚がいいようだ。

「戦争なのよ。博打は娯楽なんだから後回しにされるわよ」

 レティシアは冷静にいった。

「その戦争の理由が納得できない」

 アルノルトは怒っていた。

「魔族との関係は昔から悪いだろう。あきらめろ」

 エトヴィンはいった。

「でも、戦争理由はおかしいだろう? 魔族は滅すべき種族だといっている。その前に妖魔族を狩るのが筋だろう?」

「まあ、そうだな。人族と魔族の敵は妖魔族だ。妖魔族にとって人族と魔族は食料だからな」

「あちらに魔王がいる限り戦争は続きますよ。こちらの場合は勇者ですけど」

 僕はいった。

「そうだったわね。忘れていたわ」

 レティシアはいった。

「あっ」

 アルノルトは思い出したようだ。

 戦争を先導しているのは、魔王であり勇者だからだ。

「だれか、魔王を殺してくれー。そして、競馬を」

 アルノルトの本心が聞こえた。

 魔王が生きている限り戦争は回避できない。こちらは運よく勇者は死んだ。だが、魔王は魔族である限り殺せない。他種族に殺してもらうしかなかった。

 僕は考える。魔王を倒すのは僕の仕事ではない。だが、誰かが倒さなければ戦争になる。そうなれば、多くの人族と魔族が死ぬ。それは納得できない。しなくていい戦争だからだ。魔王一人の命で何千、何万の人族と魔族が生き残る。僕は天秤で計るのをやめた。

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