第156話 調査

「導師。妖魔族の仕業だと考えている人が多いです」

 僕は夕食の席で導師にいった。

「そうだな。それが妥当だ。しかし、龍族が関わっている。それが、引っかかるんだ。妖魔族だけではないと思うんだ」

「魔神族と神霊族ですか?」

「ああ。表に出てこない種族だ。それが気になる。私の考える神とは違う。れっきとした種族だ。その種族が何もしないとは思えない。知らないところで人族に関わっていると考えている」

「根拠は?」

「ないな。それに証拠もない」

「そうですね。痕跡がありません。ですが、注意の仕方もありません。その二種族が敵なら、どうすればいいかわかりません」

「そうだな。今は証拠を積み重ねて探るとしよう」

「はい。そうですね」

 

 夕食後、医学書の勉強をしていると、ノーラがノックもなしに入ってきた。

「紙をお届けに来ました。十枚ほどです」

「うん。ありがとう。……それより、夜食ってある?」

「残念ながら、ありません」

 僕はノーラの顔を見てあきらめた。

 まだ、おやつをとったことに怒っているからだ。

「うん。わかった。紙が手に入ったらちょうだい。足りないから」

「はい」

 ノーラはメイドらしく返事をして、部屋を出ていった。


「後で龍族に連絡してくれ。宰相と共に島に訪れたい」

 朝食の席で導師にいわれた。

「はい。ですが、正門に行ってから連絡した方がいいのでは?」

「ああ。そうだな。龍族はせっかちだったな」

「出迎えの龍たちだけだと思いますよ」

「そうなのか?」

「僕の感触ですけど」

「そうだな。長寿であればあるほど時間の早さは違う。人族と龍族とでは流れる時間の感覚が違うのだろう。それを無理に合わせていると思う。まあ、助かるけどな」

「そうですね」

「午前の勉強はなしだ。出かける準備をして待っていてくれ」

「わかりました」


 宰相が家に来て合流すると、街の正門に向かった。そして、正門に着くと、僕は龍族の出迎えの龍にコールの魔術を飛ばした。

『何だ?』

『長老に会えませんか? 宰相と共に話がしたいのです』

『しばし待て』

 コールが途切れた。しかし、すぐにコールが入った。

『すぐに迎えに行く。いつもの場所で待て』

『わかりました』

 コールの魔術は相手から切れた。

「導師。お迎えが来ます。いつもの場所で待て、とのことです」

「わかった」

 導師は宰相と共に詰所から出てきた。

 龍が三頭も来るのだ。正門で騒ぎになる。そのことを衛兵に伝えたようだ。

 僕たちは正門を出て龍が降り立つ場所に向かった。


 僕たちは龍の手の中に入って浮島に運ばれた。

 いつもながら、龍の飛行速度は速い。王都からどれぐらい離れたかわからない。

 浮島に着くと、歩いて長老のいる会議場に行った。

 そこには何十頭もの龍が集まっていた。

 龍が囲む中に入った。

『まずは魔導書を頂いたお礼です。お納めください』

 宰相は空間魔術で箱を出した。

 そして、手で掲げた。

『ありがたく、頂くとしよう』

 長老が念動力で箱を宙に浮かせた。そして、箱を開ける。そして、龍たちは思い思いに中の物を出した。

 今回も金銀財宝だった。龍族はキレイなものを好む。そして、魔力のあるものも好むようだ。魔導書が宙に浮いていた。

『おお』

 龍たちはうれしそうに眺めていた。

『それで、話とは?』

 長老は捧げものを一頭の龍に渡してきいてきた。

『はい。この者の父の背後にいる存在を知りたいのです』

 宰相は僕を見た。

 父は宰相が危険視するほど問題になっていたようだ。

『うむ。まだ、それはいえん。敵は強大であり、我々、龍族も慎重にならないとならん。小さき子には不便をさせていると思うが、ガマンして欲しい』

『妖魔族と考えていますが、違うのですか?』

『今はそう思っておいてくれ。あの種族は人族と魔族の天敵だから』

『……そうですか。わかりました。すぎたことを申しました』

 宰相は素直に退いた。

『いや。察してもらえて助かる。それで、小さき子の手は治ったか?』

『はい。爪は硬くないので槍は握れませんが、普通の生活はできています』

 僕は答えた。

『そうか。なら、よかった。母の心配も一つなくなったかな?』

『はい。問題はあるのにほっとしています』

 導師は答えた。

『それより、魔術書は役に立っているかな。前時代の魔法と聞いたのだが、龍族には関りがないので理解していない』

『先にもらった魔導書は医学でした。病気やケガなどの治療の参考になっています。なので、一般に広めている最中です』

 導師は答えた。

『なるほど。人族の長所は数の多さだったね。それぞれが役割を持って種族に貢献している。龍族とは違ったね』

 長老は答えた。

『はい。なので、二冊目も広めようとして解析中です』

『そうか。なら、安心した。人族のものとはいえ、変なものをだしたか心配していた』

『いえ。前時代の知恵が詰まっていました。感謝しかありません』

『ありがとう。……そうだ。妖魔族の分布を教えよう。おぬしたちの国の近くにもいるから』

『ありがとうございます』

 宰相はいった。

 その後は妖魔族の生活圏と、妖魔族に対する注意事項をきいた。

『我々が知るのは、これぐらいだ』

『十分に頂きました。ありがとうございます』

 宰相が答えた。

『うむ』

 長老は幼い龍を見る。

『今回はどうする?』

 幼い龍は胸を張った。

『もう大人になったのです。短絡的な考えは持っていません』

 龍たちが騒ぎ出した。

『ケンカを売れるぐらい防御膜を強化しろ』

『龍族の誇りは?』

 龍たちは好き勝手にいっていた。

「今日はないのか?」

 宰相は導師にきいた。

「ええ。前の時はなかったです。あの龍も大人になったのでしょう」

「そうか……」

 宰相はあごをさすった。

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