第122話 クンツ2
夕食の席で導師にいう。
「クンツさんが手紙の仲介人です。そして、手紙の主のところには龍に運んでもらえばいいといっていました」
「そうか。やはり、彼が関わっていたか。罠とは思いたくないな」
導師の目はどうするのかといっていた。
「手のひらで転がされているようで不満ですが、クンツさんには害意がありませんでした。素直に従うのも一つの手かと」
僕では判断ができなかった。
僕には人を見る目がないと思っている。友達の基準さえもわからないのだ。他人の心の中などわかるはずがなかった。
「そうだな。だが、そこまで信じていいかわからない。クンツの背後はないようでな。わからないんだ」
クンツには後援者はいないようだ。だが、そうだと直感で理解できる。それだけの才能と力を持っているからだ。
「いないと思いますよ。自由人ですし」
「そうだな。ヤツの考え方は普通ではない。貴族など関係がないようだ。……それより、龍族の長からもらった本を読んだか?」
僕が保留していたことをきかれた。
「はい……。あの本では外科手術が載っていました。体を物質と考えて切り貼りする方法です。それに、治癒の他に滅菌や接合などの呪文がありました。僕の前世の記憶と比べて高度な医療技術があったようです」
「なるほど……。その前に『めっきん』ってなんだ?」
導師にはわからないようだ。
「空気中に漂う小さな細菌というものが、体の中に入って悪さをします。そのために滅菌という方法で、細菌を殺して体内に入るのを防ぎます。その方法が載っていました。病を防ぐ方法と考えればいいかと」
「そうか。それは魔術ではないんだな?」
「はい。本に書かれている呪文は魔術ではありません。呪文に魔力は反応しませんでした。ですから、魔法であると思います」
「そうか。わかった。私も読み返さないとならないな」
魔法の再現は遠く厳しいようだ。
古文書の翻訳では呪文も翻訳されている。そのため、呪文という言霊の発音が違う。なので、本来の発音を探さないとならない。
僕には再生の魔法を導師はどのようにして再現できたのかわからなかった。
「ねえ。シオン。お父様が忙しそうなの。心当たりある?」
カリーヌにきかれた。
僕はカリーヌの無詠唱の練習と、僕のダンスの練習にカリーヌに家に来ている。
「大きな施設を用意するからだと思います。広い土地と大きな建物が必要になりますから」
「そんな
カリーヌには信じられないようだ。
「はい。一万人は収容しないとなりませんから」
「そんなに人は集まるのか?」
エトヴィンには想像できないらしい。
「王都以外からも来ると考えています」
「それほどのものなのか?」
エトヴィンには賭け事の持つ集客力がわからないようだ。
「ええ。闘技場と二分するぐらいになって欲しいと思っています」
「闘技場と同じなら考えられるか……」
エトヴィンは今だ知らぬ博打を考えているようだ。
「なあ。それって、何年後の話になるんだ? 闘技場を作るのも大変だったと聞いているぞ」
アルノルトはなぜかむくれていた。
「お父様はそれだけの投資という博打をしているんです。それなりのものになりますよ。だから、気長に待つしかありません」
「そっか。大きな博打なら納得できる。でも、できるのは、まだまだ先かぁ」
アルノルトは上を向いて考えていた。
「そうですね。でも、一人でもできる博打を用意するようです。そちらの方を期待するのがいいですよ」
「それって、どんなのだ?」
アルノルトは食いついた。
「ちょっと事情がありまして、試作品を二つ作るようです。そこで、初めて見て触った感想がききたいのです。なので、今は話せません」
「また、秘密ー」
アルノルトはむくれた。
「いい加減。わかりなさいよ。私たちの反応を見て正式にカジノに置くか決めているのよ。余興で私たちを遊ばせてないのよ」
レティシアは目を細めてアルノルトを見た。
「そうなのか?」
アルノルトにきかれた。
「ええ。一般的な反応を見たいですから」
「そっか。なら、頑張らないと」
アルノルトは意気込んだ。
「まだ、先の話よ。それに頑張る必要はないわよ」
レティシアは変わらず冷静だった。
「でも、オレたちの感想で決まるかもしれないんだろ?」
「そうだけど。頑張る必要はないわよ。楽しめるかどうかを見るだけなんだから。自然体を求められるわ」
「でも――」
二人のやり取りは変わらなかった。
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