第121話 クンツ

 昼食後、いつものようにカリーヌのもとに向かった。

 玄関でメイドに迎えられて中に入る。

「すみませんが、後でこれをお父様に渡してくれませんか?」

 僕はスマートボールとパチンコの説明書きの紙を出した。

「わかりました。お預かりします。先にカリーヌ様の待つテラスに案内します」

 僕はメイドの後に付いていって、皆のいるテラスに向かった。

「いらっしゃい」

 カリーヌに迎えられて、いつもの席に座る。

「よう。この前の話を聞かせてくれよ」

 アルノルトは僕に紅茶が出る前にいった。

 競馬の話をききたいらしい。だが、まだ構想段階だ。話すわけにはいかなかった。

「まだ、お父様は考え中で決まっていないです。なので、話せません」

「ケチー」

 アルノルトはすねた顔をした。

「新しいものに興味があるのはわかるけど、シオンを責めるのは間違いよ」

 カリーヌはアルノルトをしかった。

「まあ、その前にルーレットでも勝率を上げる方法を考えなさい。負けてばかりで見ていられないわ」

 レティシアは突き放すかのようにいった。

「わかっているよ。これでも家庭教師に頼んで計算方法を習っているんだ」

 アルノルトはぼやいた。

「アルノルトは確率でなく、一発逆転を狙うのが悪い。それさえ、直せば勝率は上がるだろう」

 エトヴィンは冷静だった。

「一発逆転はギャンブルの醍醐味だいごみだろう? 冒険しないとリターンは少ない」

「気持ちはわかるが、それで失敗しているんだ。いい加減、目を覚ませ」

 エトヴィンは紅茶を飲んだ。

「博打は大きくかけて大勝ちする。それが博打の楽しみだろう」

 アルノルトの博打論は、勝つことでなく冒険であるようだ。

「やあ。ちょっとシオン君を借りるよ」

 家長であるジスランが現れた。

 話は先に渡したスマートボールとパチンコだろう。

「お父様。シオンが何かしたんですか?」

 カリーヌはきいた。

「いや。仕事の件だ。少し意見をもらいたいんだ。だから心配はいらないよ」

 カリーヌは安堵していた。

「また、新しい賭け事ですか?」

 アルノルトはジスランにきいた。

「そうだね。でも、今は秘密。できた時の驚きがなくなるからね」

 ジスランは口に人差し指を当てて微笑んだ。

「では、シオン君を借りるよ」

 僕はジスランに連れられて、ジスランの書斎に入った。

「君が書いたスマートボールとパチンコはできると思う。ちょっと複雑なカラクリになるができる。それで、君はどちらを推すんだい?」

 ジスランは書斎らしい机の席に座った。

「どちらでもいいと思います。順序として、まずはパチンコが先ですね。スマートボールはまた違ったものです。なので、技術的に作れるなら、どちらでもいいかと。それに、二つとも同時に出すのも面白いと思います。どちらが客の好みに合うのかわかりませんから」

「なるほど。まずはパチンコで、客の反応を見ると思っていたが、違うようだね」

 ジスランは考えているようだ。

「はい。スマートボールはパチンコの代用品です。完成品を出すのならパチンコです。ですが、技術的な問題があるかと思っています。複雑な構造になると思いますから」

「うん。そうだね。でも、これはちょっと迷うね。スマートボールとパチンコ。どちらもできるし、一人でできるから客の要望にも答えられる」

「では、両方とも作ってみては? カラクリはどちらも似ていると思います」

「うん。そうだね。両方を試しに作るのもいいね。その結果で決めるとするよ。その時は試遊して欲しい。いいかな?」

 ジスランは確かめるかのようにきいてきた。

「はい。その時はどういう内部構造になったか知りたいです」

「うん。それは紙に書いてもらうよ」

 ジスランは笑った。

 僕の好奇心に笑ったようだ。

「ありがとうございます」

 僕は頭を下げてジスランの書斎を出た。


 騎士団の練習場でアドフルとエルトンの二人と訓練しているとクンツ・レギーンが現れた。

「男爵様。用件は何でしょうか?」

 僕より早くエルトンはクンツの前に行き、ひざを着いた。

 僕に近寄らせたくないようだ。

「今日はシオンに話があるだけだ」

 クンツはエルトンに足止めをくらっている。

「代わりに私がお聞きします」

 エルトンはクンツの動きを、なおもさえぎった。

 クンツでもエルトンのやりようにため息をついていた。

「手紙の件だ。本人と話さないと意味がない。わかったならどいてくれ」

 だが、エルトンは動かなかった。

 僕は仕方なく二人のもとに向かった。

「手紙とはルシア・ハーギンという人の手紙ですか?」

 僕はクンツにきいた。

「ああ。頼まれてオレが出した」

「そうでしたか。でも、ここに来るなら直接渡せばいいのでは?」

「ランプレヒト公爵の情報収集能力を見たかった。……まあ、予想通り優秀だったよ」

 クンツはどこか楽しそうに答えた。

「それで、ルシア・ハーギンという人は、どこにいるんですか?」

「森の奥だ。そこで、弟子を取って魔法を教えている」

 僕には初耳だ。そんな人なら導師が知らないわけがない。

「まあ、人族はいないといっていい。弟子には妖精族が多い。エルフやセルキーとかな。まあ、師匠も人族でなく妖精族だからな」

「なんで、そんなに詳しいんですか?」

「オレの魔法の師だからだ」

 クンツはいたずらっ子のように笑った。

 魔法の話は美味しいが、やり方が気になる。クンツかルシア・ハーギンの提案かわからない。

「なるほど。クンツさんって魔法を、どれぐらい知っているのですか?」

「ん? 魔術と同じぐらいだな。それだけの知識をもらったよ」

 クンツには魔法が身近なようだ。

 持っている魔法は治癒とマナを食料にするだけではなかった。

「そうですか。それで、どこに行けば会えるんですか?」

「それなら、龍族に送ってもらえばいい。オレから話しておくよ」

 話がとんとん拍子に進む。まるで、クンツの手のひらで踊っているかのようだ。

「導師に確認しますね。僕の一存では決められません」

「ああ。いいよ。返答を待っている。では、またな」

 クンツはそういうと練習場から去った。

「シオン様。信用できるのでしょうか?」

 エルトンにいわれた。

「クンツさんに害意はないと思います。でも、ハメられている感じはします。ちょっと導師に探ってもらいます」

「はい。クンツは人たらしで有名です。気を付けるのがよいかと」

 エルトンの忠誠心は高い。何で、幼い子供の僕に敬意を払うかわからなかった。

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