第119話 学院2

 導師は学院内を散策するかのように歩く。僕はキョロキョロしながら観察した。

 ここでは寮が存在するらしい。王都であるため、家賃は高い。そのため、特待生には寮を提供しているようだ。

「食堂に行こう。もうすぐ、昼になる」

 導師に連れられて、食堂に入った。

 まだ、十二時になっていない。だが、前世の記憶では、生徒は時間で一斉に行動する。そのため、食堂も十二時になれば混み合う。

 僕は導師と同じものを頼んだ。どれがお勧めなのかわからないからだ。

 料理は家庭料理みたいで野菜のスープとパン。肉とサラダが並んでいた。

「量が多いから、残していいぞ」

 導師にいわれた。

 前世でも学食は量が多めだった。

 僕はできる限り食べたが、パンを残した。

「食い過ぎだ。バカもん」

 導師に笑われた。

 前世は残すのが失礼な文化だった。なので、食べきりたかった。


 午後も学院内を導師に付いていき歩く。

 教員に知り合いがいるようだ。生徒が近づかない棟に入った。

 そして、二階に上がって一室の扉をノックした。

「開いているよ」

 中から男の声がした。

「失礼するよ」

 導師は扉を開けて入った。

 生徒と違う言葉違いに疑問を覚えたのだろう。机から顔を上げていた。

「久しぶりだな。教員をしているとは聞いていたが変わらないようだな」

 導師は男の言葉を待たずにいった。

 男は笑った。

 無精ひげを生やした細身の男だ。年齢も導師と同じぐらいだろう。

「君がここに来るとは驚きだね。教授になる気になったのか?」

 男は笑顔でいった。

「いや。魔法を探している。そのために、ここの古文書を借りに来た」

 男は真面目な顔になった。

「それは聞いているよ。魔術が魔法の劣化版だと。そのせいで僕の研究は意味がなくなったよ。打ち上げ花火みたいに飛んでいったよ」

 男は自嘲気味に笑った。

「それは魔術を広げたヤツにいってくれ。それに、そのせいで、私は魔法の復元を王から命令されている」

「そうか。君も大変だね。でも、僕が魔法を復元したら、どうなるのかな?」

「宮廷魔導士にはなれるよ。まあ、ここより忙しくなると思う」

「それはそれで、大変そうだ。僕も頑張ってみるかな?」

 男は微笑んだ。

「それぐらいの才はあるはずだ。仕事を振ってもいいか?」

「もちろん。君なら文句はないよ」

「そうか、助かるよ」

 その後は二人は旧交を温めていた。

 導師が友達に対して笑う顔が、僕には新鮮だった。


 翌日、カリーヌのもとに行くと学院の話をした。

「いいなー。きれいなおねえさんがいそう」

 アルノルトは本能のままに生きているように感じた。

「顔では学院に入れないわよ。美人なら、その前に結婚している可能性が高いわ」

 レティシアはアルノルトの妄想を踏みつぶす。

「でも、頭がいい女の人って美人そうだろ?」

「頭と顔は比例しないわよ」

 相変わらず、二人の掛け合いは続いた。

「シオン。これから忙しくなるの?」

 カリーヌにきかれた。

「魔法の再現は導師の仕事です。なので、手伝いますが、確認ぐらいしかできないと思います。それに、優秀な友達もいるみたいですから、仕事を振られるのは少ないと思います」

「そう。……シオンはまだ子供だよね?」

 カリーヌの言葉に意味がわからない。

「まだ子供と思っていますが? 何か変なことをしましたか?」

「ううん。シオンなら特待生として学院に呼ばれるかと思って……」

 カリーヌはいつもの元気はなかった。

「僕は導師の仕事を手伝っている方が、勉強になります。ですから、学院には行く予定はないですよ」

「そうなの?」

「ええ。ただ、学友を作りに行くといいといわれたのです。僕は人見知りするので向かないと思うのですが……」

「それなら、大丈夫よ」

 カリーヌは僕の手を取って顔を近づけた。

 僕は思わず後ろに下がる。

「シオンには友達がちゃんといるわよ。だから、安心して」

 カリーヌの言葉に安心している僕がいた。

 視線を感じて横を見るとエトヴィンが見ていた。

 カリーヌは我に返って手を離した。

「この前はすまなかったな。私のわがままでシオンに仕事をさせた」

 エトヴィンは雇っている騎士の再生医療をしたのをいっていた。

「いえ。気にしないでください。騎士団より丁寧です。騎士団は引退した人も駆け込みで頼まれましたから」

「やはり、騎士にはケガでやめる人が多いのか?」

「ええ。再生魔法のおかげで復帰した騎士に感謝されました」

「そうか。それで、気になったのだが、再生は魔術でなく魔法になったと聞いた。何でだ?」

 エトヴィンには不思議なようだ。

「元々、魔術は魔法を簡単にした方法なのです。そのため、簡単さの代わりに力がなくなったのです。再生魔法を見るように、魔法とは魔術よりも強力なんです。治癒だけを見ると、魔術よりも魔法の方がすぐに治ります」

「そうか。これからは魔法を覚えた方がいいのか?」

「はい。ですが、再現し始めたばかりです。まだ、魔法が浸透するのは先の話になります」

「それで、問題なのだが、魔力量は魔法の方が増えるのか?」

「治癒を両方で計ると、魔法の方が魔力量は多くなります。その代り、効果も大きいです」

「魔力量を増やすには、どうすればいい?」

「魔力がなくなるまで使って寝るのがいいかと。そうすれば、自然と総量は増えます。導師のお墨付きです」

 エトヴィンには僕のように失敗はして欲しくない。導師にきいた普通の方法を伝えた。

「エトヴィンは術士になるの?」

 カリーヌはきいた。

「最低限の魔法を使えるようになりたい。それに騎士になるか、術士になるか、決まっていないな」

「そっか。エトヴィンは頭が良いものね。どちらでもできそうね」

 カリーヌはいった。

「ちょっと待った」

 アルノルトが声を上げる。

「オレは頭は良くないといわれている気がする」

「いや。みんなそう思っているわよ。博打の勝率も読めないんだから」

 レティシアは毒舌だった。

「なら、お前はわかっているのか?」

「わかっているわよ。少なくとも、賭けの倍率は勝算が低いほど高いと知っているわよ」

「そうなのか?」

 驚くアルノルトにきかれた。

「はい。そうなっています」

 僕は苦笑して答えた。

「マジかよー!」

 アルノルトの絶叫はテラスにこだました。

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