第118話 学院
王には魔術が魔法の劣化版だと教えた。そして、人族以外は魔法を使っていることを報告した。
謁見の場はざわついた。しかし、王がとどめた。これから、魔法を再現すればいいと。
そのため、導師には魔法の再現をするように命令が下った。
導師は断ることができない。受けるしかなかった。
僕は帰り道で導師にきく。
「魔法の再現って無理ですよね? 古文書を探しても少ないですし」
「まあ、そうだな。だが、攻撃魔法を作るか、発見しないとならないな。私が知っているのは、医療系しかない。まあ、仕事が増えたと考えるだけだ。それより、お前の方は進んでいるようだな。あとどれくらいしたら終わるんだ?」
「わかりません。マナにして体内に持っても、その先がありそうです。なので、これで終わりとなるかわかりません」
「お前も厄介な体質だな? 何でそんなことになった?」
導師は今さらの疑問をきいてきた。
「前世の記憶でそんな神秘行があったのです。それで試したら、魔力でも同じようなことができました。なので、調子に乗ってやっていたら、いつの間にか爆弾になったのです」
思い出すと無知でバカである。そんな自分が恥ずかしい。
「そうだったのか。体質だと思っていたら違ったんだな」
導師は笑った。
「笑わないでください。自分のバカさ加減が嫌になります」
「まあ、この世界を知らなかったんだ。自分を責めるなよ」
「……はい」
そう答えたが、自分の失敗は致命傷の一歩手前だと再確認するだけだった。
後日、導師と共に王都魔術学院に行くことになった。
宮廷魔術師である導師は学院の卒業生だ。その縁で、学院に貯蔵されている書庫から、古文書を借りることになった。
僕は導師と共に学院の門をくぐった。
そして、歩いて教務課に向かった。そこで、手続きをするらしい。
僕は導師と歩きながら、制服を着ている生徒を見る。男女とも、ブレザーに似ている。
「導師はあの制服を着ていたんですか?」
僕はきいた。
「ああ、校則だからな。似合わないとかいうなよ。若いころの話だから」
導師は顔を赤くした。
恥ずかしいらしい。
「はい……。私服ではないんですね?」
「お前の前世では私服だったのか?」
「はい。小学校と大学は私服でした。中学と高校が制服でしたね」
「前世は勉強ばかりするのか? 数が多いぞ」
「普通は十八で働きますね。頭がいいか、家庭に余裕がある人は、二十から二十四歳ぐらいまで学びました」
「そうか。特待生ならその年齢でも学び舎にいるな」
そんな雑談をしていると教務課がある建物に着いた。
そのドアを開けて中に入る。カウンターがあり、奥では大人が机で仕事をしている。
カウンターに行くと、気が付いた一人の女性が席を立って歩いてきた。
「いかがしましたか?」
女性は微笑んだ。
「先に連絡したザンドラ・フォン・ランプレヒトです。今日は古文書を借りに来ました」
「はい。少々お待ちください」
女性は上司になるのか、おじさんぐらいの男のもとに行って話している。
男は話をきくと、あわただし気にカウンターに来た。
「これは公爵様、ようこそお越しくださいました」
「ああ。ありがとう。さっそくだが、古文書を貸してもらえないか? 写本を作ったらすぐに返すから」
「はい。ご用意しております。ですが、図書館にまとめてあります。そちらに案内します」
「ん? 私はここの卒業生だ。場所は知っているぞ?」
「ですが、担当の者は公爵様のお顔を知りません。誰に貸すのか知らないのです」
「そうか。仕事の邪魔をして悪いが案内してくれ」
「はい。もちろんです」
男はカウンターから出て案内を始めた。
校内は大学を思い出す。
私服であったが、生徒たちは次の授業のため移動している。そして、中にはサボっているのか、ベンチに座って話して笑い合っていた。
「お前も将来、ここに通うか?」
導師にきかれた。
興味深そうにキョロキョロしていたからだろう。
「研究なら、学院よりも導師の方が先にいっていると思います。なので、学校に行くよりも導師に習った方がいいです」
「そうか? 学友を作るのもいいと思うぞ?」
「それなんですが、人見知りでして作れるかわかりません」
「その歳で、悲観的になるなよ。まあ、選択肢に入れてくれ」
「はい……」
僕は人間関係の複雑さに頭はついていけない。どうすれば、友達なのか、はっきりした基準は持っていなかった。
その点、カリーヌははっきりしていた。ちゃんと言葉で伝えるからだ。
カリーヌが通うなら一緒にと考えるが、甘えていると思い考え直した。
僕は僕の人生を歩かなければならない。生みの母であるローシェなら、そう考えると思うからだ。
「こちらです」
男にそういわれて図書館に入った。
本で埋め尽くされていた。人が通る方が少ない。それほど本棚が並び本が収まっていた。
「変わらないな」
導師は本棚を見渡した。
男は近くのカウンターにいる司書のらしき女の人に何かをいった。
女の人はカウンターから離れて背後の棚に隠れた。そして、すぐに本を持って出てきた。
「公爵様。こちらです」
男の人に呼ばれてカウンターに行った。
導師は積み上げられた本を見る。どれも年代物で積み重ねていいかわからない。それほど、古く風化している感じだった。
導師はその本を一つ一つパラパラとめくる。
僕は浮く魔術で導師の手の中を見た。どれも、読めない言語で書かれている。また、翻訳家が必要なようだ。
導師は一通り確認すると、空間魔術で倉庫にしまった。
「ありがとう。返却には少し時間がかかるがいいか?」
導師は司書にきいた。
「構いません。王からの命令です。それに借りる人はいませんので、期限は気にしないでください」
「写本と翻訳ができたら、すぐに返す」
「わかりました」
司書は微笑んだ。
「では、門まで案内します」
ここまで案内した男はいった。
「いや。ちょっと見学したい。まだ早いが、この子にも学院を知って欲しい」
「わかりました。案内はいりますか?」
「いや。必要ない。私はここの生徒だったから知っている」
「わかりました。また、お越しください」
男は微笑んで去っていった。
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