第113話 ギロチン

「シオン。クンツ・レギーンに頼まれていた写本が手に入った。それで、この本の内容を確認してくれ」

 書斎で導師にいわれた。

「ウソでも書かれているんですか?」

 導師の依頼に頭を傾ける。

「いや。私が目を通したが問題ない。ただ、写本をもらう時に、この中に書かれている魔術を教えて欲しいと頼まれた。それで、お前にも覚えて欲しい」

「普通の魔術ですよね? 魔法ではないですよね?」

「魔術だ。ただ、探知系の魔術なんだ。目は多いほどいいからな」

 探知系の術者が多ければ多いほど、対象は探しやすい。いつか必要になる時のために覚えていて欲しいようだ。

「わかりました。でも、この写本はクンツさんに渡さなくていいのですか?」

「それは二冊目の写本だ。それにクンツ・レギーンには連絡している。今は冒険中らしく渡せていない」

「どこに冒険に行ったのですか?」

「さあな。だが、短期間と聞いている。まあ、帰ってくれば、あちらから連絡が来る」

 僕は冒険者がよくわからない。ただ、好奇心のおもむくように行動をしているように見える。それより、男爵になった理由もわからない。何かしらの実績があると考えられる。

「冒険者って儲かるんですか?」

 僕は導師にきいた。

「ピンからキリまである。一攫千金を当てて、豪華な暮らしをしているヤツもいるし、貧乏から抜け出せないヤツもいる。まあ、人生を博打にしたようなヤツ等だ」

 導師は何かおかしいらしい。口元は笑っていた。

「クンツさんは成功者なんですか?」

「そうだな。男爵の地位をもらうほどだ。それなりの功績はある。遺跡の発見や魔剣の製作方法。他にも新しい薬草や鉱物を見つけている。一人の業績にしては数が多い」

 クンツとは優秀だけでなく運もいい。選ばれた一握りの一人であるようだ。


 父の処刑の日になった。そのため、僕と導師は午後の予定を変えて、家で休んでいる。

 父の仲間が動くかのせいがあるからだ。出歩くには危険と導師は判断した。

「行かなくていいのか?」

 リビングでお茶をしていると、導師に尋ねられた。

「はい。僕は見たくありません」

 処刑方法はギロチンらしい。

 父が最後に何をいうのかわからない。だが、その姿は見たくなかった。

 導師は急なコールの魔術が入ったようで、こめかみを押さえた。

「シオン。逃げられた。念のため戦闘用意をしてくれ」

 僕は用意するものはない。必要な道具は空間魔術の倉庫に入れてある。

 導師はコールの魔術を切った。

 導師がいうには、僕の感傷をよそに父は処刑されなかった。いや。処刑できなかった。

 断頭台の刃は父の首に落ちたのだが、切断できなかったようだ。

 そして、拘束を力任せに解くと、魔剣を出して振ったらしい。

 見物に来ていた大勢の人を、その剣でなぎ払ったようだ。

 そして、わめく父は仲間と思われる二人に連れ去られたようだ。

 僕には父の変化がわからない。父は逃げ足は早いが、他は人並みだった。

 手足の鎖と魔術の発動をとめる首輪。二つを解くのは、父ができるとは思えなかった。

 導師でも何が起きたのかよくわからないようだ。

「導師様。庭に敵が現れました。今は門番が戦っています。その間にお逃げください」

 執事のロドリグはいった。

「できるか。迎え撃つ」

 導師は僕を見て席を立った。

 僕も席を立つ。

 敵は父とその仲間だからだ。

 導師の後を追って玄関を出る。そこには門番と戦っている父がいた。

 僕は牽制としてビーム《熱線》を放った。だが、先読みしていたのか、父は障壁を展開して防いだ。

 そのスキに門番は父から離れた。

「シオン。オレには神がついている。だから、お前の教育はちゃんとしなければならない。だから、死ね」

 父は変わったようだ。

 性格でなく力の方である。誰からか力をもらっている。それが、誰であるのかわからない。だが、異空間から線が伸びて、魔力は供給されていた。

 僕はためらいなくドラゴンブレスを放つ。

 魔術から魔法となったドラゴンブレスは、凶暴な気配をまき散らして父を襲った。

 父は避けたが、剣と共に肩口からなくなっていた。

 だが、父の体にマナが集まっている。再生の魔法だ。

 再生の魔法を使えるほど、父は魔力を持っていない。だが、異空間から注がれる魔力がある。その魔力で復元しているようだ。

 敵は父に力を与える誰かである。だが、今は父を倒さなければならない。

 僕はドラゴンブレスを放とうとする。

「今日はあいさつだ。次は必ず殺す」

 そういうと父は転移した。

 追うのは導師にとめられた。罠を張っている可能性が高いからだ。

 導師も僕も何もできなかった。

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