第112話 クンツと父

 僕は夕食後、導師の書斎でクンツのことを報告した。

「あの男は私にもわからない。人望があるようで嫌われてもいる。とらえどころがない。だが、魔法の情報は知らなかった。他の魔法もあるのだろう。龍族の長老にきいてもいいが、答えてくれるとは思えない。しばらくは様子見だな。クンツの仕事を見てみたい」

 導師は口元をゆがめた。

 導師でも楽しみのようだ。父を捕まえるのは導師でも難しい。それをクンツはしようとしている。クンツの手腕を知れるよい機会だった。


 クンツの宣言から三日で父は捕まった。

 確認のため、導師と共に収監されている牢獄に向かった。

 牢獄は日が差さず、湿っていた。そして、カビ臭さを漂わせていた。

 衛兵の案内で収監されている父のもとに行った。

 父は牢獄にいた。手足を鎖でつながれている。そして、魔力を分散して使えなくさせる首輪をしていた。

「笑いに来たのか?」

 父は今でも襲いかかるような目でいった。

「確認ですよ。あなたを捕まえると、ある人と約束しました。その確認です」

 僕はあきれながら答えた。

「ふん。もうオレには目を向けないのか?」

「ええ。あなたには失望していますから」

「ふん。そういえるのは今の内だ。これからはオレたちの時代になる。一時の勝利に酔うがいい」

 父は高らかに笑った。

 笑い声が牢獄の中で響く。

「出よう。確認は終わった」

 僕はそういった導師を見る。

 導師は首を横に振った。

 導師でも、思うところがあるようだ。

 父は人として何かが壊れている。哀れとしか思えない。

 僕は導師に連れられて外に出た。

 外ではクンツがいた。

「よう」

 クンツは気軽にあいさつをしてきた。

「何で、ここに居るとわかったんですか?」

 僕はきいた。

「お前が来た時に、守衛に連絡してもらうように頼んだだけだ。捕まれば、その日か、次の日に確認しに来ると思ったからな」

「そうですか。でも、どうやって捕まえたんですか?」

「地道な調査をしただけだ。特別なことはしていないよ。まあ、ある貴族にはケンカを売ることになったがね」

「その貴族の報復は恐れないのか?」

 導師が会話に入った。

「オレは冒険者だ。国から特権をもらっても意味はない。それに、オレは他の国にも男爵として任命されている。だから、貴族であろうと関係ないのさ」

 クンツの言葉は軽いものだった。爵位を気にしていない。おそらく、それだけの力があるのだろう。

「そうか。なら、私の公爵としての力は必要ないか?」

 導師の言葉にクンツは真顔になった。

「ないとはいわない。ある伯爵が家宝としている魔術書がある。それの写本が欲しい」

「写本でいいのか?」

「ああ。必要としているのは本でなく内容の知識だ。だから、写本で問題ない」

「わかった。私の方で頼んでみよう。そのお返しに、お前の持つ魔法が欲しい」

 クンツは導師をじっと見る。

 導師の本心を探っているようだった。

「……いいぜ。これが、貴族の名前と本の名前だ」

 クンツはわかっていたかのように、書いた紙を用意していた。

 導師は紙を受け取って中身を見る。

「わかった」

 導師は内容にうなずいた。

 契約は交わされたようだ。

「それより、再生の魔法を組み込んだドラゴンブレスは、どうだ?」

 クンツは僕を見た。

 僕はクンツに話をきいた日には実験している。

「まったくの別物ですね。比べものになりません」

「そうか。なら、オレも頑張って練習しよう」

 クンツは屈託のない顔で笑った。

「また、あとでな」

 クンツは手を振って去った。

「あれがクンツ・レギーンか。お前が注意を払う意味がよくわかったよ」

 導師は去っていくクンツの背中を見ていた。


 導師は再生の魔法を、魔術でなく魔法として申請し直した。

 その日のうちに、宮廷魔導士が屋敷にやって来た。

 そして、応接室で導師と話している。

 執事のロドリグと一緒に盗み聞きをしていると、魔法の再現が問題らしく、そのことを話し合っていた。

 魔術とは魔法をより安全にしたものらしい。なので、魔力を貯蔵するのと同じで、魔法も禁忌と考えているようだ。

 そのため、導師の行動は宮廷魔導士たちには受け入れないとのことだ。

「どうにかならないか?」

 宮廷魔導士はそういっていた。

 だが、魔術と申請しても通ったのだから問題ないと、僕は思う。

 導師も同じようなことをいっていた。

 再生の魔法はその有用性から禁止にはできないだろう。もし、禁止すれば、戦いで傷つき騎士をやめた人や貴族を敵に回す。宮廷魔導士といえどなかったことにできない。

 だが、これから魔法は表に出てくる。クンツは隠しているが、導師は隠さないからだ。

 もう流れはできている。止める方法はなかった。

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