第111話 魔法2

 エルトンが僕の前に立った。

「お話は終わりですよね。お帰りください」

 エルトンはいった。

「そこまでお前に嫌われる覚えはないぞ? オレを何だと思っている?」

 クンツは不満そうだった。

「人たらしとして有名です。シオン様はまだ若いので、毒を見分けられません」

「おい。オレは相手にとっても得になるように動いているだけだぞ? 相手に損はさせていない。もちろん、オレ自身も損をしていない。悪いことなどしてないぞ?」

 クンツは不満そうに少し怒っていた。

「シオン様の持つ情報は金にもなります。それを気楽にきいて欲しくないだけです」

 エルトンはケンカ腰である。押さえるような殺気を放っている。いつ、殴り合いのケンカが始まるかわからない。

「なら、オレがシオンの父を捕まえる。それなら、不満はないよな?」

「それは騎士団である私たちの仕事です。男爵様の安全を考えなければならないので、手を出さないでください」

「失態は何度もしているのに、任せられると思っているのか? 何度逃がせばいいんだ? いや、その前に何で王都の中にいる? 侵入されている時点で力がないと理解できないか?」

 クンツの正論にエルトンは黙った。

 だが、騎士団だけを責められない。父の背後には貴族がいるからだ。貴族が手引きすれば王都に入れる。

「父を捕まえるのなら、貴族の戦いをすることになりますよ?」

 僕はクンツにきいた。

「オレはしないな。オレは冒険者だ。それに腐った貴族を、国から排除しようとか考えない。そんな夢みたいな正義感は捨てているからな」

 クンツ僕を見る。

「お前は貴族の戦いをするのか?」

「巻き込まれていますが、僕には知恵もないですし、性格的にも向きません。無理ですね」

 クンツは微笑む。

「そうだろうと思っていたよ。お前には裏表がない。貴族をしているのが不思議だ」

「そうですね」

 僕自身、驚きなのだ。強制的に士爵にされ、男爵となり子爵となっている。理解ができない。

「だから、できることはお前の親父を捕まえることぐらいだ。だけど、デットオアアライブだから、どうなるかわからない」

 父は捕まっても処刑され、殺されても賞金を払われる。生きるためには、この国から逃げる意外に道はない。

 だが、父は僕に対する嫌がらせをするために、国内ばかりでなく王都にいる。

 僕は父には生きていて欲しかったが、今ではいらぬ犠牲を出している。だから、父との確執は終わらせたかった。

「最後に一つ、ききたい。ドラゴンブレスに再生を組み込むのか?」

 クンツはドラゴンブレスを理解しているようだ。

「その予定ですが?」

「なら、街中で使うなよ。本物の龍の咆哮になる。魔術ではなく魔法だ。別物と考えてくれ」

「わかりました。ちなみにクンツさんはいくつの魔術を同時発動するんですか?」

「ん? 四大属性の四つではないのか?」

「はい。他のも加えると威力が上がります」

「オレには無理だな。四大属性で手一杯だ。まあ、後で加えるけどな。もちろん、魔法にするために」

 クンツの目は輝いていた。

「できたら、教えてください」

「それなら、お前の方が早いだろう。教えてもらうのは、こっちだ」

「お話は終わりです」

 エルトンはクンツをさえぎった。

「親父は捕まえてやる。待っていろ」

 クンツはエルトンのわきから僕を見ていった。

「期待しています」

 僕はクンツの自信に思わず笑った。

 父の厄介さをわかれば簡単に約束などできないからだ。

 クンツは手を振って帰った。だが、一つ気になることがある。

 再生が初めての魔法なら、クンツはどうやって魔法と断定した理由がわからない。マナを使うという、魔術と魔法の区分は古文書にあるかもしれない。だが、クンツは魔法と断定していた。その知識はどこから来たものか推測できない。

 すでに、違う魔法を知っている可能性が高い。だが、素直にきいて答えてくれるとも思えない。

「シオン様。クンツに心を許すと危険です。与えながら、それ以上に取っていきます。今回もドラゴンブレスの話を持っていきました。ご注意してください」

 確かに、ドラゴンブレスの情報は僕から話した。だが、今度はもらう気だ。知らない魔法を知りたいからだ。

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