第110話 魔法
「お父様の仕事は終わった?」
カリーヌにきかれた。
「はい。カジノに並ぶ準備はできました」
僕はいつもの席に座った。
「それなら、遊戯室のテーブルは使えるのか?」
アルノルトはテンションが上がった。
「今日はまだかと。お父様が最後の検査をすると思います。だから、その内、呼ばれますよ。試しに遊んで統計を取ると思います」
「そっか。まだか……」
アルノルトは残念がった。
「でも、あまり魅力はないわね。奇数か偶数かを賭けるだけでしょう? ルーレットの方が面白いわ」
レティシアには丁半博打は簡単すぎるようだ。
「まあ、わかりやすくって、簡単なんなものが、いいという人もいるわ」
カリーヌはいった。
「そうね。アルノルトにはピッタリね」
レティシアはアルノルトを見た。
「五割に近いんだ。バカにできないぞ」
「それなら、他のゲームも一緒よ。ちょっと計算して賭けなさいよ」
「それなら、おじさんに統計結果を見せてもらったぞ」
「それで、何かわかったの?」
「うっ……」
アルノルトは言葉を詰まらせた。
「やっぱり」
レティシアはわかっていたようだ。
「でも、少しはわかったぞ」
アルノルトはムキなっていった。
「何をよ?」
「それはだな――」
レティシアとアルノルトのいい合いは続いた。
今日も平和なお茶会だった。
城の騎士団の練習場で、アドフルとエルトンの二人と模擬戦をしていた。
僕は好き放題に魔術を使って攻撃する。二人はさばくだけで精一杯のようだ。
「ちょっと失礼するよ」
背後で気配がした。声の大きさから近いのはわかる。だが、それまで気配を感じなかったのに驚いた。
僕は背後を見る。
クンツ・レギーンが立っていた。
「ちょっと、質問があって来た。時間はもらえないか?」
クンツはいった。
「クンツ・レギーン男爵。この度は何の用ですか? 内容次第ではお帰りいただきます」
エルトンはクンツの前にひざを着きながらいった。
エルトンはクンツを嫌っているようだ。帰ってくれというような雰囲気をまとっている。
「別に悪さをしようと考えていない。ちょっとした確認だよ」
「なら、私が答えます」
エルトンは引き下がらなかった。
「お前には無理だ。魔術師でこの再生の魔法を使えないと意味がない」
クンツは羊皮紙を出した。
「シオン。これが魔術でなく魔法なのは、何でだ?」
クンツのいうことは、僕には意味が分からない。この世界は魔法も魔術といっているようなものだ。
僕が首をかしげているとクンツは口を開く。
「魔術を魔法の違いは知らないのか?」
「その分類があったのですか? 初耳です」
クンツは眉を歪ませて考えていた。そしていう。
「魔術と魔法は違う。魔術は魔力によって起きる現象だが、魔法は違う。魔力を使うのは一緒だが、マナそのものを使う」
「ですが、マナは魔力に変換できますよ? 違いがわかりません」
「何をいっている? マナを魔力に変換? そんな技術は知らない」
僕は毎日、やっている修行なので、ないのが不思議だった。
「マナは魔力に変わります。なので、マナを使っても変ではありません。魔法と魔術の区分は僕にはわかりません」
「魔力だけで現象を再現するのが魔術だ。その上でマナを使って現象を起こすが魔法だ。それで少しはわかるか?」
マナは魔力にして使う必要がないようだ。マナそのものを使えばもっと強い力を使えそうである。
「ええ。ですが、魔法は現時点で再生しかありませんよね?」
「ああ。だから、きいている。どうやって魔法を復元したと」
僕はようやく納得できた。しかし、僕が復元していない。すべて、導師の研究の成果である。
「それなら、導師にきいてください。僕にはわかりません」
「だが、使えるんだろ? 少しはわかるはずだ」
僕は考えるが、あの魔導書は医療しか書かれていない。しかし、他の呪文もクンツのいう魔法に関係があるかもしれなかった。
「ごめんなさい。呪文を通して理解したとしかいえません。再現したのは導師なので僕にはわかりません」
「なら、それはきかない。その代り、答えてくれ。再生魔法にかかるポーションの数は何本だ?」
また、クンツは理解できないことをいった。
「最初の三回は回復しませんけど?」
魔力の回復のポーションは量でなく割合で回復される。なので、総魔力量が多いと、同じ一本でも使える魔術の回数が増える。
「はぁ?」
クンツは驚いていた。
僕の魔力量は多い。導師より多いかもしれない。最近の魔力を練って固体化する修行で、増えている気がする。それより、再生の魔術というか魔法で思い出した。
「……そういえば、再生には魔力は使いますが、欠けたところにマナが集まりますね。だから、マナを操作しているということですか?」
「ああ。それが、魔法だよ」
クンツはあきれたようにいった。
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