第108話 パーティー
再生魔術のウワサと熱が冷めてきた頃、カリーヌの屋敷でパーティーが催された。
面子は見知った顔である。知らないのは、アルノルトとエトヴィンの家族ぐらいだった。
僕は導師と共にエトヴィンの両親とあいさつをした。
「あら、この子がそうなのね。うわさは聞いているわ」
エトヴィンの母であるマリエット・ラ・ニーラント公爵夫人は、僕に微笑んだ。
エトヴィンの美形は母譲りのようだ。
「初めまして。シオン・フォン・ランプレヒトと申します。よろしくお願いします」
僕は右足を引いて右手を胸につける。そして、頭を下げた。貴族の礼である。
「あら、お上手。息子ともどもよろしくね」
マリエットは終始、笑顔だった。その代り、父親は無口なのか話を聞くばかりで話さない。
僕は前世の父を思い出した。
前世の父は無口だった。それに大事なことも話さなかった。楽しくおしゃべりした記憶はなかった。
エトヴィンの父は無口だがニコニコとしている。話は母に任せているようだった。
「あら、先を越されたわ」
背後で女性の声がした。
僕は振り向く。
アルノルトは両親を連れて来ていた。
「話に割り込んでごめんなさい。私はアルノルトの母でエミーリア・ディ・ファイネンといいます。こちらは父のトランクウィッロです」
アルノルトの父は礼をした。
「いつも、息子が厄介になっていると聞いた。三男なんで甘やかしてしまったので、ご迷惑をかけていると思う。でも、息子とは仲良くして欲しい」
「心配するなって」
アルノルトは父の心配に恥ずかしがっていた。
「いえ。こちらもシオンがお世話になっている。年下なので迷惑をかけているかもしれない」
導師は答えた。
「それはないわ。息子の話を聞くと、息子が迷惑をかけているみたいだから」
アルノルトの母はいった。
「オレが、いつ、シオンに迷惑をかけたというんだ?」
アルノルトは恥ずかしがりながら怒った。
「賭博のゲームでシオン君を困らせているでしょう? ものには順序があるんだから、我がままいわないの。今日だって賭け事のゲームを楽しみにしていたんでしょう?」
「……まあね」
アルノルトは恥ずかしがりながら、バツの悪そうな顔をしていた。
「もう少し、ガマンを覚えろ」
父であるトランクウィッロは仏頂面でいった。
「わかっているよ」
アルノルトはむくれている。
「本当にわかっているのならいいが……」
父親はため息をついていた。
一通りあいさつが終わると、子供は子供で、親は親で立食パーティーを楽しんだ。
そして、新しくできた丁半博打やルーレットで楽しんだ。
パーティーは遅くまで続いた。そのため、僕は眠い。馬車の中では導師に寄りかかり、うつらうつらと寝てしまうのをガマンしていた。
突然、僕にコールの魔術が届いた。
『よう。幸せそうだな』
聞き知った声が聞こえた。
父である。
『何か?』
僕は父に期待はしていない。もう、あきれしか感じていなかった。
『ローシェが死んだのに、よく幸せそうに笑えるな』
『親が子の幸せを願うのは、当然では?』
『バカをいうな! お前は幸せになってはならない。それはローシェを侮辱している。何で、自殺したのか思い出せ』
『それはあなたが僕を奴隷として売るといったからでしょう。母は望んでなかった。原因はあなたが作ったんですよ。そして、母を殺しておきながら、金のために僕を売った。母の名をいう権利はあなたにありません』
『子が親に説教するな。お前はオレの指示に従えばいい』
『もう、親とは思っていません。なので、今度は殺します。あなたが母を自殺に追いやったように』
『いうことは一人前になったようだな。だが、まだまだ、ガキだ。オレを殺す? それができるならやってみろ』
『それなら、逃げないように。あなたは自分の命のためなら誰であろうと犠牲にします。それが母でも』
『オレはローシェを犠牲にしていない。それに――』
僕はコールの魔術を切った。
「どうした?」
導師に尋ねられた。
「父です」
僕は感情を出さずにいった。
今の感情を出せばパーティーの余韻を邪魔する。だが、導師はどこかに連絡した。
僕は窓から外を見る。
父は姿を見せないのはわかっている。慎重というより臆病だからだ。母が死んだのを、誰かのせいにしないと耐えられない。父は強くはなかった。
僕にとって父とは、忘れた頃にやってくる台風みたいなものになっていた。
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