第107話 仕事

 三日ほど、僕と導師は王のもとに行ったり、公爵家を回った。

 僕の担当はお抱えの騎士や使用人を相手にした。だが、貴族には導師が治していた。

 幼い僕では不安があるのだろう。騎士でも、不安そうな顔をしていたのが印象的だった。


 僕はカリーヌの家のテラスで一息ついていた。

 相変わらず、ここはゆっくりと安らぎのある空気が流れていた。

「シオンも大変ね。でも、これからはいつも通りに来れるの?」

 カリーヌにきかれた。

「はい。ピークは越えましたので。導師も休んでいます」

「そう。よかった」

 カリーヌは安堵していた。

「ところで、新しい博打はどうなったんだ?」

 アルノルトは目を輝かしていた。

「まだです。ここのところ忙しかったので、後回しになっています。ですが、近い内にお父様に呼ばれると思います」

「早くやりたい」

 アルノルトは博打の現実を見せつけられても変わらない。本当にギャンブラーになる気なのかわからない。

「それより、再生の魔術だが、私には使えなかった。コツでもあるのか?」

 エトヴィンの顔は曇っていた。

 前に雑用係になった騎士の話をしていた。その人に試したのかもしれない。

「呪文が導く通りに魔力を流せばいいだけです。後は魔力量ですね。公級よりも魔力を使いますから」

 僕は答えた。

「それって、帝級と同じということか?」

 エトヴィンは苦い顔をした。

 魔術が発動しなかったのは、魔力量と関係がありそうだ。

「階級はわかりませんけど、その以上かもしれません。僕もごっそり取られますから。なので、魔力回復のポーションが欠かせません」

 エトヴィンは肩を落とした。

「私には無理か……。すまんが、私の家に来てくれないか? 空いた時間でいい。急がないから」

 エトヴィンに真剣な目でいわれた。

「……はい。ですが、まだ、予約はあります。少し時間がかかっていですか?」

「それで構わない。ありがとう」

 エトヴィンは安心したようだ。

「でも、あんなに高い巻物を買ったわね。買った人に、というか、シオンに教わればいいのに」

 レティシアは少しあきれていた。

「親に我がままをいった。それに騎士になった後に、必要になるかもしれないから」

 我がままをいったのを思い出したのか、エトヴィンは苦笑いをした。

「まあ、公爵家ですものね。あっても不思議ではないわね」

 レティシアは目を伏せた。

「皆。近々、パーティーを開くわ。シオンの左手が戻った記念に。それと、ランプレヒト公爵の偉業を祝って。日時は決まったら伝えるわ」

 カリーヌはいった。

「貴族のパーティーになるの?」

 レティシアは少し不満そうだった。

「ううん。私たちの身近な人だけのパーティーよ。知らない人は呼ばないわ」

「そう、それなら参加するわ」

 レティシアは相変わらす貴族の宴会は嫌なようだ。

 だが、身内になると、公爵家ばかりだ。貴族の宴会と変わらない。

「オレらもいいのか?」

 アルノルトはいった。

「もちろん。来なかったら怒るわ」

 カリーヌは満面な笑みで答えた。


 アドフルとエルトンに迎えに来てもらって、城にある騎士団の練習場に向かった。導師の仕事を手伝っていたので三日は開いている。

「何人ぐらい来る予定ですか?」

 僕はエルトンにきいた。

 アドフルは王直属の騎士団に入って日が浅い。なので、先輩であるエルトンの方が詳しかった。

「十人ぐらいになると思います。事前に五人と約束しているのですが、断れない人がいます。申し訳ありません」

 僕は消費する魔力回復のポーションを数える。十人なら足りと計算した。

「それぐらいなら、ポーションは間に合います」

「断れず、申しわけありません」

 エルトンはすまなそうな顔をした。

「まあ、予想はできていました。だから、問題ないですよ」

「そういっていただけると助かります」

 エルトンにとっては本意ではない事態のようだ。

 騎士団に顔を出せば治療を求められるとわかっていた。だから、エルトンに頼んで人数を決めていた。

 最初にしては人数が絞られている。僕に不満はなかった。

「僕の左手の爪が生えるまで時間があります。稽古は後回しでいいですよ。しばらくは再生治療に時間が取られますから」

 僕は当然というも、エルトンには不満のようだった。


「シオン。ポーションは間に合っているか?」

 夕食の席で導師に尋ねられた。

「今日も十本ほど使いました。在庫があれば欲しいです」

「そうか。後で、ロドリグからもらえ。それで、今日は何人、治した?」

「今日は騎士団で十一名ほどです」

 導師の顔色が難しいものになる。

「やはり、騎士団でも一緒か」

「はい。導師の方はどうなんですか?」

「私も一緒だ。今は貴族が抱える騎士や使用人だ。これが終われば、平民を治すだろう。だが、その時までには使える魔術師がそろっていて欲しい」

「そうですね。ですが、魔力量がないと使えません。一部の魔術師に限られると思います」

「まあ、そうなるな。そればかりは仕方ない」

 導師でも、使い手を選ぶのがわかっているようだ。

 簡単な治癒と違ってマナを変えて体の一部にする。その奇跡に代償は大きい。だが、膨大な魔力だけだ。まだ、親切な方である。ドラゴンブレスと比べればだが。

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