第102話 エルトン 2

「敵とは誰ですか?」

 僕は素直にきいた。

「申し訳ありません。龍の長老から聞いていないので、私からは申し上げできません。それに敵を知るということは、敵にも知られるのと一緒なのです」

 龍族の思惑が入っているようだ。だが、素直に信じていいかわからない。

「今は知らない方がよいのですか?」

 僕はきいた。

「はい。長老が教えていないというのは、知らない方がよいと判断したのだと思います」

「この話は龍族が主導で動いているのですか?」

「人族はそうです。魔族は翼有族が担当しているようです」

 大事のようだ。人族だけでなく魔族も関わっている。

「聖霊族については何か知りませんか?」

「それは詳しくきいてません。その代り、進んで契約するように頼まれました」

「気まぐれな聖霊を悪用されないためですか?」

 エルトンは驚いた顔を上げた。

「知っているのですか?」

「いえ、長老の言動で推測しました」

「その洞察力。私の主人になってください。お願いします」

 エルトンに頭を下げられた。

「王直属の騎士団員ですよね? そんな勝手が許されると思いません。それに、僕は王の不興ふきょうを買いたくありません」

「……申し訳ありません。考えが足りませんでした。ですが、希望していると考えてください。やがて、国だけの問題ではなくなりますので」

 エルトンの言葉にはなぜか重みを感じる。同時に覚悟も感じた。

「今は騎士団をしてください。必要になったら、声をかけます」

「はい。ありがとうございます」

 エルトンは納得してくれたようだ。だが、言葉を続ける。

「ところで、アドフルを私に任せてくれませんか?」

 エルトンの申し出は、僕にはわからなかった。

「アドフルさんが何かしたんですか?」

 僕はアドフルを見た。

 しかし、アドフルは首を横に振って否定した。

「シオン様の護衛として弱すぎます。私が鍛えてもよろしいですか?」

 僕は突然の依頼に言葉が出ない。

 僕はアドフルを見た。

 アドフルは気まずそうに、ポリポリとほほをかいている。

「アドフルさんがよいというならよいです」

「はい。では、今から稽古をつけます」

 エルトンは立った。

「すみません。僕の稽古を先にさせてくれませんか?」

 僕はあわてていった。

「それは気付きませんでした。アドフルの修行は明日にします。今日は見学させてもらってよいですか?」

「よいですが、つまらないですよ?」

「いえ、連係などを取るためには必要です」

 エルトンは真面目な顔だった。


 僕はアドフルと打ち合った。だが、いつものようにアドフルにあしらわれる。

 やはり、僕は魔術師のようだ。武術の才覚はない。身体向上の魔術も意識しだいで高くも低くもなる。波があり過ぎた。僕は騎士には向かないようだ。

「ちょっと、よろしいですか?」

 練習を見ていたエルトンはいった。

 僕とアドフルは手を止めた。

「なんですか?」

 僕はきいた。

「なぜ、魔術を使わないのですか?」

 エルトンは真顔でいった。

 僕が魔術を使わないのが不思議のようだ。

「身体能力の向上のための訓練です。なので、魔術は封印しています」

 エルトンは首を振った。

「もっと、実戦的な訓練をしてください。アドフルのためにもなりません」

 僕はアドフルと比べれば弱いと思っている。だが、魔術を使えば逆転するだろう。それでは、訓練にならない。僕が欲しいのは目の速さや体術だからだ。

「魔術を使うと中距離での戦いになります。僕は求める力ではないです」

「わかりました。私と模擬戦をしてください。もちろん、魔術は使ってください。本当の戦いと思ってください」

 僕はアドフルを見る。

 アドフルはうなずいた。

「わかりました。お願いします」

 僕はエルトンと模擬戦をすることになった。

 エルトンは気を使ってか、魔術師の攻撃距離になるように離れる。そして、盾と斧を構えた。

 始まりの合図はアドフルに任せている。

 僕とエルトンは対面しているが、観客が多かった。騎士団とはヒマらしい。

「始め!」

 アドフルの声が上がった。

 僕はブレイクブレットを動作発動で放った。

 指を指す。それだけで、数十もの弾丸はエルトンを襲った。しかし、エルトンは大きな盾で防いだ。

 僕はブレイクブレットを指で指して乱発する。エルトンは盾の影に隠れて耐えていた。

 僕は利き腕でない左腕を上げる。すると、ドラゴンフォースの魔術が形になった。

 龍を模した水龍はエルトンに向かって水の球を放った。

 エルトンはブレイクブレットの弾丸を盾で受けながら横に飛んだ。

 さすがに、水龍の水球は盾では受けられないようだ。

 僕はブレイクブレットの弾数を減らしながら、威力を上げた。

 何百と放っただろう。エルトンの盾は砕けた。

 エルトンは弾丸を受けながら水龍を斧で攻撃した。

 水龍は砕けた。だが、そこをブレイクブレットの弾丸が襲う。

 十発の威力のある弾丸をまともに受けて倒れた。

「止め!」

 アドフルの声が響いた。

 救護班がエルトンのもとに走った。

 僕は近づこうか迷った。だが、救護班に任せる。模擬戦相手の僕が近づくには早いと思ったからだ。

「大丈夫です」

 救護班の一人が声を上げた。

 僕はエルトンのもとに走った。

 エルトンは肩で息をしている。だが、傷は治っていた。

「問題ありませんよ」

 救護班の一人にいわれた。

 僕はほっと胸をなでおろす。魔術での戦闘は手加減が難しい。倒すだけならドラゴンブレスを連発すればよいだけだ。

「エルトンさん。大丈夫ですか?」

 僕はきいた。

 エルトンは上半身を起こした。

「はい。シオン様が魔術を封印する理由がわかりました。剣と同じような速さで、魔術を使われたら太刀打ちできません」

「……まあ、そういう方法ですから」

 なにか、ズルをしたような気まずい気持ちになる。

「やはり、私をあなたの騎士にしてください」

 エルトンの申し出はうれしいが、王直属の騎士のため引き抜けない。

「……それは時期を見てから決めてください。僕はまだ強くありません。まだまだ、修行が必要なんです」

 回復魔術の使用後で、エルトンは疲れている。

「……我がままをいいました。申し訳ありません」

「いえ。気にしないでください」

 今日の稽古はこれで終わった。しかし、翌日からアドフルはエルトンに鍛えられる。僕の相手をする余裕があるか心配だった。

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