第101話 エルトン

 僕は紅茶を飲んで一息ついた。

「なあなあ。今度の博打は何だ?」

 アルノルトは好奇心を隠せないようだ。

「ちょっと、うるさいわよ。もう少し、静かにしなさい」

 今日もアルノルトはレティシアに怒られていた。

「簡単なゲームですよ。サイコロを転がして、奇数か偶数を当てるゲームです。考える必要がないゲームです」

「そうなの? シオンにしては簡単なゲームね」

 レティシアには意外なようだ。

「ええ。一番簡単なゲームと思います。でも、集客はできると思いますよ。考えないで済む博打です。ルールを覚えるのは簡単ですから」

「それでいいのか? 確率は五割だ。運営にうま味はないだろう?」

 エトヴィンはいった。

 よく考えているようだ。

「もちろん、例外があります。一と一。一と六はサイコロを振る親の勝ちです」

「また、五割を切っているー」

 アルノルトはぼやいた。

「そうしないと、運営できない。何度、いえばわかるんだ?」

 エトヴィンはアルノルトの頭を指で突いた。

「何か。博打に夢がなくなったー」

 アルノルトはがっかりしていた。

 だが、アルノルトは博打で身を持ち崩す未来はなくなりつつあった。

「もしかして、博打で生活しようと思っていたの?」

 カリーヌはきいた。

 アルノルトはうなずいた。

 レティシアとエトヴィンはあきれていた。

「ちゃんと仕事をしないと、お嫁さんに逃げられるわよ。博打は仕事でないんだから」

 カリーヌはしかった。

 それでも、アルノルトは納得できないようだ。

「ギャンブラーとして名を成したい」

 アルノルトはいい放った。

 皆はあきれていた。

「ダメよ。ギャンブルは遊び。仕事ではないの。間違ったらダメよ」

 カリーヌの言葉にアルノルトはあきらめられないようだ。

 まだ、九歳である。どんな夢を見ようが自由でよいが、ギャンブルには関わって欲しくない。アルノルトの性格では、自滅する未来しか考えられなかった。


 アドフルに迎えに来てもらい、城の訓練場に向かった。

「シオン様。王直属の騎士団の中で、龍に関わる騎士を見つけました。今日、あいさつに来るようです」

 アドフルの言葉に僕は固まった。

 導師でさえ情報を集められなかったのだ。なのに、アドフルは僕に紹介しようとしている。願ってもない機会だが、こんな簡単に会えるとは思わなかった。

「勝手に会う約束になったのは謝ります。しかし、相手はシオン様の名前を出すと喜んで約束しました」

 僕は敵か味方か考える。だが、考えても情報がない。相手の名前を知っていても判別はできなかった。

「アドフルさんから見て、どういう人ですか?」

 僕はきいた。

「人懐っこそうな騎士でした」

「ペンダントは持っていましたか?」

「それは確認できませんでした。ですが、シオン様の名前を出すと会いたいといってきました」

 会わないとならないようだ。だが、これほど簡単に話が進むと違和感というか、恐れを感じる。


 僕はアドフルと共に騎士団の練習場に着いた。

 すると、体が丸い男が走ってきた。そして、僕の前でひざを着いた。

「お初にお目にかかります。エルトン・カールトンと申します。不躾ぶしつけですが、シオン・フォン・ランプレヒト子爵様の騎士にしてもらえませんか?」

 僕は驚いて声が出ない。

「エルトンさん。急ぎすぎてシオン様には判断できません。それにまだ子供です。親であるランプレヒト公爵の許可がないとならないと思います」

 僕の代わりにアドフルが答えた。

「それは失礼しました。ですが、考えてもらえませんか? これでも、力には自信があります」

 エルトンは力こぶを作ってみせた。

「……その前に、牙を見せてくれませんか?」

 僕はいった。

「はい。これがそうです」

 エルトンは鎧の下からペンダントを出した。

 そのペンダントは龍の牙だ。ちゃんと龍の気配を放っている。

 僕もペンダントを見せた。

「これはご丁寧に出していただけるとは」

 エルトンは頭を下げた。

「この龍の牙ですが、何の効力があるんですか?」

 僕はきいた。

「それは長老はいわれなかったのですか?」

 エルトンには意外なようだ。

「はい。お守りだと渡されました」

「そうですか……」

 エルトンは沈黙した。だが、考えがまとまったのか声を出す。

「……龍族の長老にきいてください。私のような下賤げせんな者には、お話しできません」

 エルトンはかしこまった。

「でも、知っているのですよね? でも、話せない。それは僕が幼いからですか?」

 僕はきいた。

「年齢は関係ありません。必要な者に牙は与えられます。それに龍族だけの問題ではありません。そのため、ただの騎士である私の言葉では納得してもらえません。絵空事にしか聞こえませんから」

「それは、詳しく知っているということですか?」

 僕はエルトンが詳しい話を知っていると感じた。

「いえ。敵を知っているだけです。ですが、私の力では足りないのです」

「敵とは魔族ですか?」

 一般的には人族の敵といえば魔族になる。

「いえ、違います」

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