第98話 クンツ

 僕はアドフルの迎えられて馬車に乗った。

 槍の練習に騎士団の練習場に移動する。本来なら騎士であるアドフルは馬車の外にいないとならないが、僕のわがままで一緒に乗っている。

「シオン様。クンツ・レギーンとは何者でしょうか?」

 僕はアドフルのいっていることがわからなかった。

「突然、現れたんです。そして、私を見て力が足りないといわれました。そして、模擬戦をしたのですが、魔術だけでなく、剣術でも軽くあしらわれました」

 僕は騎士団に、アドフルを軽くあしらうような強い人がいるのか疑問に思った。

 アドフルは王直属の騎士団が務まるので弱くはない。それを軽くあしらう人間は騎士団でも少ないはずだ。

 それに、それだけの強さを持っていれば、仮にも貴族である僕の耳に入ると思う。

「いえ。冒険者と名乗っていました。今回はシオン様に会いに来たようです」

 僕には心当たりがない。そればかりか、うわさも聞いたことがない。

「そうですか。失礼しました」

 だが、アドフルをあしらうような強い人間には興味がある。アドフルの強さは本物だからだ。

 クンツ・レギーンに興味を持った。もちろん、相手は興味を持つようにアドフルと模擬戦をしたのだろう。しかし、それ以上に、僕に用があるのはわかった。

 僕はアドフルに連れられて、騎士団の練習場に来た。

 そこでは、王直属の騎士団が練習していた。

 騎士団の皆はそれそれ訓練をしている。その中から一人の騎士とは思えない人が歩いてきた。

「あれが、クンツ・レギーンです」

 アドフルに耳打ちされた。

「やあ。君がシオン・フォン・ランプレヒト子爵かな?」

 どこかとらえどころのない男はいった。まだ若く、おにいさんといった感じだ。ただ、スキがありそうで、まったくないのが気になった。

「はい。初めてお目にかかります。シオン・フォン・ランプレヒトと申します。以後、お見知りおきを」

 僕は右足を引いて右手を胸に当てる。そして頭を下げた。

 相手は貴族である僕に敬語を使わない。それなりの地位があると考えたからだ。

「オレはクンツ・レギーン。これでも、男爵だよ」

 僕に用事があるのはわかる。だが、子爵より下の男爵なのに、敬語を使わないところを見ると、普通の貴族ではないのがわかる。男爵は平民でも功績があればなれるからだ。

「僕に何の用があるのでしょうか?」

 僕はクンツ・レギーンにきいた。

「これを見た方が話が早い」

 クンツは胸からペンダントを出した。

 それは龍の牙だった。

 この男も龍に関係する人間のようだ。一貴族としてあつかう人間ではない。

「お前も見せてくれないか?」

 クンツは微笑んだ。

 僕はペンダントにしている龍の牙を見せた。

 クンツは納得した顔をした。

「少し二人だけで話せないか?」

 クンツはアドフルを見た。

 アドフルに聞かれたくないようだ。

 アドフルは僕を見る。

「ごめんなさい。重要な話だから外してください。責任は僕が持ちます」

 僕はアドフルにいった。

「わかりました」

 アドフルは僕の側を離れた。

 アドフルが離れるとクンツは大きく息を吐きだした。

「疲れないか? この貴族ごっこ」

 クンツは首を回して音を鳴らしていた。

「まあ、それだけの責任がありますから」

 僕は戦略級魔術師として重しを背負っている。だから、苦笑して返した。

「お前は貴族をしているのか? オレは冒険者のままだ。貴族なんてできないよ。まあ、それより、本題に入ろう。お前はこの世界が狭いと感じないか?」

 クンツは冒険者らしい。だから、世界が狭いというのは理解できない。僕より大きな世界を知っているはずである。

「そう思うのも、当然だ。だが、オレたちの世界が平面説と思うか?」

 僕はこの異世界が球体でなく、平面の世界と習った。だから、それが真実だと思っている。

「それだよ。オレの考えでは違う。世界はもっと広いはずだ。だから、龍の恩恵を受けた」

 恩恵とは龍の牙らしい。だが、それが何の効力を発しているかわからない。

「そうか。お前はまだ目覚めたばかりか。それなら仕方ない。だが、長老が目をかける理由は何だ?」

 僕には話が見えなかった。だから、首をかしげるだけだった。

「ん? 自覚はないのか? 変わったヤツだな。小人族の中では、そうなのか?」

「僕は人族ですよ。ちなみに七歳です。それに、小人族では貴族になれませんよ」

 僕はいった。

「マジか……? それなら、知らなくても仕方ない。……まあ、オレを覚えておいてくれ。いつか同じ道を歩くかもしれん。その時は遠慮なくオレを呼んでくれ。力になる」

 利害関係がないの力になる理由がわからない。

 無償で手を貸すのは友達ぐらいだと思っている。

「それは龍の牙を持つ者だからだ。いつか、同じヤツ等に会える。その時に力になればいい」

 僕は話が見えなくて頭をひねるだけだった。

「まあ。その内、わかる。仲間は世界に散らばっている。そいつらに会った時に本当のことがわかる」

 クンツは手を振って去った。

 僕は理解できずに、去っていくクンツの背中を、見送るだけだった。

 アドフルが僕のもとに来た。

「彼は何なんですか?」

 僕はアドフルの疑問を晴らす答えは持っていない。ただ、冒険者としかいえなかった。

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