第97話 討伐
僕と導師は公爵家御用達の墓地に来た。
日は落ちてオレンジ色の空を青色に変えていた。
「シオン。怖いのか?」
導師にいわれて、僕はうなずいた。
僕は導師のズボンを掴んでいる。
僕は手を放したくはない。
僕にはオバケが出るかもしれない墓地は、怖い場所だ。夜の仕事なので、なおさら怖かった。
「相手は魔物だぞ。倒せるのに、なんで怖がるんだ?」
導師には僕の心境は理解できないようだ。
わからないから怖い。それが、理解できないようだ。
「本で読んだのだろう。れっきとして存在している。想像の産物ではないぞ?」
僕は首を振った。
相手がわからないから怖いのだ。だから、知っている魔物は怖くはない。それは倒せばいいだけだから。
「それで、怖がる意味が分からない」
導師には考えがおよばないらしい。
ふくらんだ想像が僕を恐怖させるのだと。
「おっ、さっそく出た」
僕は導師の足に巻き付いた。
墓の下から骨だけの手が出てくる。そして、土を押しのけて出てきた。
骨だけの人間だ。いや、死んでいるから魔物である。
「あれが、怖いのか?」
導師は頭をかたむけた。
「出てくる瞬間は怖いです。でも、あからさまに歩いてくるのは怖くはないです」
僕は答えた。
導師には理解できないようだ。
導師は簡単にサンライト《陽光》の魔術で、ただの骨に変えた。
「お前が怖がる基準がわからん」
認識の違いがはっきり出た。
導師には想像で怖がることはないようだ。現実主義といえばいい。だが、僕は怖い想像をふくらまして怖がる人間だった。
「まあ、この仕事は簡単だ。親玉のテナイデス《死の否定》を倒せば終わる。今日は勉強として見学でいい」
導師一人でもよゆうな仕事のようだ。
僕の力は必要ないらしい。だが、いつか仕事になるかもしれない。そのための見学でもあるのだろう。
『我々の復讐をはばむのは、お前か?』
頭に声が響いた。
ディナイルブデスが現れたようだ。
スケルトンと違って存在感がある。人の形をしてぼうっと光っていた。
その光は、人を憎んでいるような攻撃的な気配を感じさせた。
「ピアファイ」
僕は光を放った。
ディナイルブデスは光に包まれて形を崩していく。そして、光の中で存在が消えた。
「終わったな」
導師は僕に笑顔を見せた。
今日の仕事は終わったようだ。
僕は帰れると思うと安心した。だが、僕は導師のズボンを離さなかった。
「おはようございます」
僕は朝食の席て導師にあいさつをした。
「うん。おはよう。夜は寝れたか?」
「はい。でも、夢に出ました」
「亡霊か?」
僕は夢の内容を話した。
僕が墓地にいると、足元から手が出て掴む。そして、動けないところに後ろから「こっちにおいで」とささやかれる。僕は逃げようとしたが、足を掴む手は離さない。そして、血に染まった大きな女が、ゆっくりと刃物を持って近づいてくる。そういう夢だった。
「それは、仕事とは違い過ぎる。何でそんな夢を見るんだ」
導師には理解されなかった。
僕でもそんな夢になったのかわからない。だが、夢でも怖いのは変わらなかった。
「ふむ。想像力が豊かのはいいが、すぎると危険だな」
導師はいつものように解析していた。
「まあ、シオンはそれでいい。魔物の存在を知れば怖がる必要はなくなるだろう。あいつらはれっきとして存在しているからな」
導師は言い切ったが、僕は慣れそうもない。
「まあ、経験でカバーできる。……でも、お前にも苦手なものがあるのだな。安心したよ」
導師は当たり前のことをいった。
僕はカリーヌに墓地での話をした。
「シオン。怖いわ。でも、倒せるのね。やっぱりすごいわ」
カリーヌは話の始めは怖がっていたが、最後には喜んでいた。
他の三人も怖がっていた。
「ディナイルブデスといえば、上級の魔物だろう? よく討伐できたな」
エトヴィンの言葉は僕には意外なものだった。
「魔物としては、それほど強くないですよ。それより、墓地にいる方が怖いです」
僕はいった。
「え? ディナイルブデスが怖くないの? 下手したら、死者のお仲間になっているのよ」
レティシアは驚いていた。
「魔物としては弱いと思いますよ。一撃で倒せましたから。それより、何か出そうな雰囲気の方が怖くないですか?」
僕はいうと、四人は考え出した。
「魔物としてのディナイルブデスは怖いわ。でも、墓地にいるだけは怖くないわね。ただ、いるだけだから」
レティシアの話から考えると、僕の感性は違うらしい。
何もないところに想像して怖がる。それがないようだ。
「いつ、死人に足を掴まれたり、後ろにオバケが現れたりしたらと思うと怖くないですか?」
僕はきいた。
「シオンが想像力が豊かのはわかったわ。でも、ゴーストも元は人間。怖がる要素はないわ」
カリーヌには恐れる要素は違うらしい。
魔物としての恐ろしさ。つまり、魔獣とかと一緒らしい。物理的な危険があるのが怖いらしい。
異世界では僕の感性は違うらしい。やはり、前世の記憶は良くも悪くもあった。
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