第96話 カジノ 2

 僕はホールの全体を見る。

 やはり、同じカードゲームでも人気は違う。後ろで見ている人数も違った。

 ゲームは簡単な方がいよいらしい。ルールをすぐに把握できて簡単に手が出せる。そうなると、一番簡単な丁半ちょうはん博打がいいだろう。あれなら、偶数か奇数の二択である。

 だが、イメージは半裸の男が緊迫した雰囲気の中で、「ちょう」と「はん」といっている場面しか思いつかなかった。和風は嫌われるかもしれない。だが、西洋のサイコロのルールは知らなかった。

「どうした? 緊張でもしたのか?」

 導師にいわれた。

 確かにこの会場は豪勢である。調度品の壺や絵画は高そうだ。それに呼ばれた場所は大衆の賭博場でなく、貴族用の賭博会場だ。緊張するなという方が無理がある。

 ドアが叩かれた。

「入れ」

 導師はいった。

 ドアが開くと、ホールスタッフが飲み物を持ってきた。

 僕と導師はトレーに乗ったグラスを取った。僕はもちろんジュースである。七歳の体ではアルコールは不味いだけでなく、危険だからだ。

「乾杯」

 導師はグラスを僕のグラスに寄せた。僕も近寄せる。だが、ぶつけはしない。グラスをぶつけるのはマナーに反するからだ。

 僕はソファーに座って眼下を眺める。VIP席は特別な光景を見れる。人の動きがよく見れる。それはアリの行列を見るようなものだった。

「ふう。高みの見物とは、こんな感じか? 人を見ているだけであきないよ」

 導師は笑った。

 僕も同じように感じていた。

「導師は賭け事をしないんですか?」

 僕は導師にきいた。

「基本的にしないな。確率を考えてしまって、気分が萎えるんだ。ルーレットのルールをきいたときも、やっぱりかと思ったよ」

「それは勝つ確率よりも負ける確率が高いからですか?」

 僕はきいた。

「ああ。素直に賭け事を楽しめる性格ではなかった」

 そういう導師は不満そうだ。

 頭が良いので、すぐに理解できるのだろう。だから、賭け事に希望を見いだせない。それは、仕方ないのかもしれない。

 僕たちはしばらくの間、人の流れを注目していた。


「やあ。どうかな? シオン君は何か意見はないかい?」

 ジスランは変わらず元気である。

「……それですが、ルールが簡単な方が人気がありそうです。それで、一つサイコロの博打を思い出しました」

「ほう。それは何なんだね?」

「サイコロを二つ転がすゲームです。出た目を足して、奇数か偶数かを賭けます。そのままだと、確率は五割なので、一のゾロ目と一と六を親の勝ちにすればいいかと」

 僕はジスランの返答がないので、ジスランを見た。

 何やらメモをしている。僕が導師に教えたクレヨンのようだ。それで、この世界は貴重な紙に書いていた。熱心なのはいいが、貴重な紙を消費する価値があるかわからなかった。

「参考になったよ。それ以外に気付いたことはあるかな?」

「やはり、一人でできるゲームが欲しいですね。他人を気にせずに遊びたい人はいると思います」

「うん。でも、それは最後でいい。話は聞いたが時計を作るように難しすぎるから。それより、会場はどうだね?」

「はい。吹き抜けになっているのがいいですね。天井の圧迫感がないです。それに柱しかないのがいいです。会場が広く感じます。それと、このVIP席はいいですね。優越感を刺激します。ところでこちらからは見えて、あちらから見えないようなガラスはないですか?」

「ん-。残念ながらない。それはあきらめて欲しい」

「では、仕方ないですね。会場はよく考え込まれて作られていると思います。あとは音楽が流れているといいと思います。……僕ではこれ以上の意見はいえません」

「うん。ありがとう。参考になったよ。では、ルーレットの席が空いたから行こうか?」

「わかった」

 導師は返事をして席を立った。

 僕たちはジスランに連れられてルーレットの席に座った。

「では、楽しんでいってね」

 ジスランはチップを置いて去った。

 僕は導師を見る。

「せっかく、遊びに来たんだ。楽しもう」

 導師は笑った。

 僕と導師は勝ったり負けたりしながらルーレットで遊んだ。

 成果はビギナーズラックなのか勝った。


 カジノに行った話を振られて、皆に話した。

「いいなー」

 アルノルトがうらやましそうにぼやいた。

「シオンは仕事に行ったんだ。それぐらい理解しろ」

 エトヴィンにアルノルトは怒られていた。

「そうなのか?」

「まあ、そうですね。導師と共に誘ったのは建前で、会場を見て欲しかったようです。色々と意見を求められました」

 僕は答えた。

「シオンは大変だな」

 そういったアルノルトは何も考えていないようだ。

「そう思うなら、少しはガマンしろ。今度、わがままでシオンを止めたら切るからな」

 エトヴィンは怒っていたようだ。

「もうしないって。でも、トランプで賭け事ができるとは知らなかったぞ」

「当り前よ。あんたにいったら、やりたいってわがままをいうのがわかるから」

 レティシアの目線は怒っていた。

「でも、それを知っていたら、メイドに球を投げさせる必要はなかったと思う」

 アルノルトは縮こまりながら弁明した。

「その前にガマンを覚えなさいよ。それで、丸く収まるのだから」

「ちょっと考える」

 アルノルトは変わらないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る