第95話 カジノ

 僕は次の仕事のために魔術を覚える。

 覚える魔術はアンデットを浄化する魔術だ。

 僕には死の概念を越えて動くのは理解できない。だが、この世界には実在している。

 そもそも、火葬にすればスケルトンやゾンビのような化け物は生まれない。だが、宗教上の関係なのか、土葬が一般的だった。

 僕は以前に習った浄化の魔術よりも、上位の魔術であるピアファイを無詠唱でできるように練習した。

 僕はついでに呪いの魔術を習得した。これで、ドラゴンブレスは九種類のままだが、威力は上がる。

 だが、まだ、導師には負けているだろう。なのに、他は陰陽しか思いつかない。

 これは前世の東洋の考え方で、異世界の魔術にはないと考えている。探せばあるかもしれないが、今のところ見つかっていない。

 そもそも、陰陽は動く力の陽と、留まる力の陰を表している。なので、自然現象として表せない。いや、あることはある。太陽という恒星は、光と熱を放って全ての物を動かしている。反対にブラックホールは全てを吸い込んで、一点にとどめている。

 これが、実現すれば、ドラゴンブレスの威力は上がるだろう。そのため、これはこれで新たに魔術として開発しなければならなかった。

 僕は本を閉じてベットの上に座る。そして、日課となっている腹にたまった魔力を、体の中で巡回させる。それを繰り返して、安定した固体になるように魔力の塊を練った。


「ダンスは上手くなったか?」

 僕は昼食の席で導師にいわれた。

 スープをすくう手がとまった。

 このごろは、アルノルトとエトヴィンが来ているので、遊んでばかりだった。

 そもそも、ダンスの練習は十五分も続かない。カリーヌの気分で決まるからだ。

「まあ、社交界デビューは、まだまだ先だ。遊びを優先していいぞ」

 導師には僕のしていることがお見通しらしい。だが、許可が下りたのだ。遊んでいる時の罪悪感はなくなるだろう。

「それより、今度、カジノに見学に行くか? ジスランに誘われているんだ。シオンにカジノの雰囲気を知って欲しいといってな」

 僕の想像では客がギスギスしている感じしかない。

 なぜなら、勝っても周りに嫉妬しっとされる。負けても無駄に金を捨てたようなものだ。

 だが、僕はジスランに博打を教えながら本物を知らない。だから、異世界でも本物のカジノを知らないとならないと思う。

 僕は導師の誘いにうなずいた。

「近々、ルーレットという新しい遊びが発表されるらしい。その時に行こう」

 僕は新しい遊びに、客がどんな目で見て楽しむのか興味が沸いた。


「マジでカジノに行くのか? いいなー。オレも行きたい」

 アルノルトはすっかり賭け事にはまっていた。

 皆がそろうと、必ずといってよいほど、遊戯室のルーレットで遊んでいる。

「一応、僕が提案者なんです。今まで現場を見ていないのが不思議ですよ」

 僕はジスランがここまでカジノを大きくするとは思わなかった。最初は大人の遊び程度の気持ちだったのだ。それをジスランは公的なカジノとして運営している。

「オレもついて行っていい?」

 アルノルトにきかれた。

「申し訳ありません。未成年の賭け事は禁止です。なので、僕は導師と一緒に行動しないとならないんです」

 アルノルトは残念がっていた。

「シオンがカジノに行くのは仕事でもあるの。邪魔しちゃダメよ」

 カリーヌはアルノルトにいった。

 最近のアルノルトはルーレットにハマっている。それも、一点賭けなど、無謀な挑戦をしていた。

「あなたはスコアを見なさい。一番負けているのは、あなたよ。もっと、考えて賭けないと」

 レティシアの言葉はアルノルトに突き刺さったようだ。アルノルトはガックリしている。

「でも、本物のカジノを体験したい」

 アルノルトはぼやいた。

「大人になるまでガマンしなさい。それよりも、もっと強くないと、カジノでも勝てないわよ」

 レティシアは厳しかった。


 ルーレットの公開は早かった。なぜなら、ウワサが飛び交っていたからだ。

 すでにルールを知っている人もいる。

 僕はジスランの情報網と大衆操作の手腕に怖くなった。これほど、上手く情報を流布させるのだから。

「まあ、それが、あいつの力だ。間違っても敵にするなよ」

 導師は僕の顔を見て笑った。

「しませんよ」

 僕はそういったが、本当はもっといいたかった、だが、的確な言葉が出てこなかった。

 僕たちを乗せる馬車はカジノに着いた。

 門扉は広く玄関前には他の貴族の馬車が止まっていた。順番に馬車から降りているようだ。

 僕たちは順番を馬車の中で待つ。そして、順番が来ると馬車を降りてカジノに入った。

 ドアの向こうは広かった。

 二階建ての高さがあり、天井を感じない。開放感を感じるホールはストレスを感じさせなかった。

 導師はカツカツといつものように歩いた。ドレスであっても変わらないらしい。

「やあ、待っていたよ」

 ジスランが現れた。

 ずっと待っていたようだった。

 僕たちはジスランに連れられて二階のVIP席に案内された。

「ここなら、一望できるな。面白い仕掛けだな」

 導師は感心して喜んでいた。

「でも、あちらからも見られるから気を付けてね」

 ジスランは注意した。

 マジックミラーは存在しないようだ。

 ジスランはメイドのようなホールスタッフに、飲み物を持ってくるように頼んだ。

「それで、肝心のルーレットというのは?」

 導師はジスランにきいた。

「あっちだよ。人が群がってよくわからいけどね」

 二台あるルーレットには賭ける人以外に観客が多かった。それほど、興味を集めているようだった。

「しばらくは見学だな」

 導師は人気を集めているルーレットを見て判断したようだ。

「カードゲームなら空いているよ。そっちはどうなんだい?」

「カードゲームならシオンと遊んでいる。だから、金を賭ける気にはならないな」

「それは残念。ルーレットの席が空いたら呼びに来るよ。それまで、見物なり、自由にしていてくれ」

「ああ。わかった」

 ジスランは退席した。

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