第94話 遊び

「やったー」

 アルノルトは喜んで立った。

「行こうぜ」

 アルノルトは急かした。

「ちょっと、紅茶ぐらいゆっくり飲まさせてよ」

 レティシアは不満そうにいった。

「シオンはまだ来たばかりなの。落ち着いて遊べないから待って」

 カリーヌは僕に座るようにいった。

 僕はいつもの席に着いた。

 すると、メイドが紅茶が運んできた。そして、テーブルに置くと下がった。

 僕は砂糖を入れて口を付ける。相変わらず、美味しかった。

 ただ、ジスランに呼んでくるようにいわれているのに、休んでいいのか不安になった。

「いこーぜ」

 アルノルトは落ち着きなく急かす。

「静かにしろ。ルーレットというのは逃げないんだ。シオンの休憩が終わるまで待て。つい先ほどまで仕事をしていたんだから」

 エトヴィンはアルノルトを止めた。

「仕事って何だ?」

「ルーレットの検査だ。ちゃんと動いて失敗がないか見ていたんだ。それで、いつもの時間にいない。だから、少しぐらい休ませてやれ」

「そうなのか?」

 アルノルトは体を揺するのをやめた。

「はい。お父様に頼まれてチェックしていました」

 僕は答えた。

「それで、検査は上手くいったのか?」

 アルノルトはガマンができないらしい。体が動いている。

「はい。問題ないとお父様にいいました。それで、試しに遊んで欲しいといわれました」

「なら、遊びに行こうぜ」

 アルノルトはまた立ち上がった。

「そうですね。紅茶は遊戯室で飲みます」

 僕は答えた。

「シオン。甘いわよ。こいつを付け上がらせても良いことないわよ」

 レティシアは冷静な目でいった。

「ですが、お父様には呼んでおいでといわれたので」

「まあ、シオンがそういうなら移動しましょう。お茶ならどこでもできるから」

 カリーヌはメイドに指示を出した後に、遊戯室に皆を連れて行った。


「これが、ルーレットか」

 アルノルトははしゃいでいた。

 皆は台の周りに立って模様と数字を見ていた。

「ご自由に、お遊びください」

 遊戯室にいたメイドにいわれた。

 ジスランはメイドに頼んだのか姿はなかった。僕たちが自由に遊べるように気を使ったのかもしれない。

「これは、どうやって遊ぶんだ?」

 アルノルトは早く遊びたいようだった。

 僕は簡単にルールを教えた。

 ホイールの中のどの番号に球が落ちるのを予想するだけだからだ。

 僕は用意されていたチップを配る。色によって誰が賭けたかわかるようになっている。

 そして、台の上にチップを置くことを教えた。置き方によって、帰ってくる倍率を教える。

 皆は戸惑いながらもチップをテーブルに置いた。

 僕はホイールを回すと皆は注目した。

 僕は球を弾いて溝に回した。そして、溝からホイールに落ちるのを待った。

 球は黒の三に落ちた。

 誰も当たっていない。なぜなら、番号を当てるという先入観で、一点しか賭けていないからだ。

 僕は他の賭け方を教えた。赤と黒の二択。ラインや四点など色々と教えた。

 皆は戸惑いながらも色々と賭けていた。

 なぜか、メイドは的確に倍率を計算していて、チップを払っていた。そして、何かを書き込んでいる。おそらく、遊戯の結果をかいている。試遊で得た結果を知りたいからだろう。


 一時、お茶を飲んで休んだ。

「ふう。賭け事も大変ね。ルールを覚えて勝てるように考えるのも苦労するわ」

 紅茶を一口飲んだレティシアはぼやいた。

「まあ、初めてなんだから、これはこれでよいと思うわ。もう少しルールがちゃんと頭に入ったら楽しめるわよ」

 カリーヌは答えた。

「何が一番、勝てるんだ?」

 アルノルトは難しい顔で考えていた。

 五割に近い確率なら、赤か黒の二択だろう。それでも、五割を切っている。なぜなら、ゼロとゼロゼロがあるからだ。この二つは別に用意されている。そのため、赤と黒でさえ五割を切っている。

「博打って客に優しくないのか?」

 アルノルトは僕の考えにがっかりした。

「当たり前だろ。カジノの運営が勝つようにできている。お金がなくては運営できないからな」

 エトヴィンは冷静な声で答えた。

 初めて尽くしの皆には、慣れるのに時間はかかるようだ。

 しかし、皆は若い。というか、幼い。休めば気力の回復も早かった。

 紅茶を飲むんで糖分を頭に流すと、やる気はみなぎっていた。

 皆はそれぞれ、勝てると思う賭け方になっていた。

 僕はそれを見ながら、ディーラーとして球を投げ続けた。


「今日は遅いですが、何かありましたか?」

 迎えに来ていたアドフルにいわれた。

 遅れた理由は、遊び足りないアルノルトにすがりつかれたからだ。

 我がままを全開にして止められた。

 ルーレットで球を弾ける人がいなかったのも止める理由の一つである。

 僕は仕方なく、メイドさんに球の弾き方を教えることになった。そのため、槍の稽古のために、迎いに来ていたアドフルを待たせることになった。

「そうですか。そのご友人は長男か次男でしょうか?」

 アドフルに変なことをきかれた。

「三男といっていました」

 僕はアドフルの威圧を感じながら答えた。

「では、将来は騎士か術士ですね。その時、きっちり鍛えてあげます」

 アドフルは僕の遅刻を許していなかった。

 まあ、アルノルトが騎士になるには、ずいぶん先の話になる。その頃になればアドフルといえど忘れているだろう。

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