第99話 クンツ 2

 僕は夕食の席で導師にクンツ・レギーンの話をした。

「龍の牙に意味があるのか?」

 導師でも龍の牙は飾りとしか思っていないようだ。だが、何かしらの意味があるようだ。

「特別な効力はないぞ。ちゃんと調べた」

 導師のいう通り、龍の牙は特別な力はない。だが、龍の牙とわかるような気配は放っていた。

「クンツ・レギーンは男爵といっていたな。その線で調べてみる。必要なら龍族の長老にも話を聞かないとならん」

 導師の判断はわかる。だが、クンツの底知れなさは対面してわかる。それほど知恵と力を持っていると感じた。

「お前に、そういわせるほどの男だ。嫌でも有名だろう」

 導師にしては気楽な言葉だった。普段は慎重な導師にしては珍しい。

「その名は少し耳にした。私たちが壊している遺物の発見者だ」

 導師が軽く考えているのが理解できた。しかし、相手は無防備でないだろう。それぐらいのことはできる人だと思っている。

「お前がそう思うなら慎重になる。痛い目に会いたくないからな」

 導師は面白そうに微笑んでいた。


 毎日の日課である魔術とダンスの訓練にカリーヌの家に訪れた。今日も四人はそろっていた。

 僕はカリーヌにクンツ・レギーン男爵を知っているかきいた。

「さあ。聞いたことがないわね。でも、冒険者なんでしょ? 平民から男爵になったと思うわ。でも、冒険者で貴族になれるとは思えないわ。それだけの功績を積んだ冒険者は聞いたことがないわ」

 カリーヌでも知らないらしい。だが、父親のジスランに尋ねるか考えるがやめた。ジスランには龍に関わって欲しくない。ジスランが龍に関われば、カリーヌにも火の粉が飛ぶからだ。

「オレは知っているぞ。少しだけどな」

 エトヴィンはいった。

「それでも話して」

 カリーヌは真面目な顔でいった。

「男爵になるほど新天地を開拓したらしい。知らない魔獣や魔物を発見し討伐したときいた。それで、人の踏み込める領地を広げた褒賞ほうしょうに、爵位を与えられたようだ。その他にも、色々な遺跡を発掘している。だが、名前は知られていない。本人の意向で伏せられているようだ。だが、それができるということは、冒険者ギルドにとって特別な冒険者なのだろう」

 僕は冒険者という存在が想像できなかった。物語では知っているが、本当の冒険者というものがわからない。

「開拓者と思えばいい。それなら、簡単だろ?」

 エトヴィンは笑った。

 それなら、わかる。新天地を求めて冒険しているということだ。

 だが、同時に国の領地は広がっているということだ。

「ああ。広がっているよ。まだ、知らない世界がある。だから、冒険者ギルドがあるのさ」

 エトヴィンの説明に納得ができた。

 冒険者ギルドは必要だからある。だが、僕の前世の知識では、冒険者は自称であり物好きのすることだ。だから、ギルドになるほど大きな集団はいないと思っていた。

「何でも屋でもあるのは否定できないよ。力のない冒険者志望が一番の稼ぎ頭だから」

 エトヴィンは苦笑いをした。

「何で、そんなに詳しいの?」

 カリーヌはきいた。

「父が冒険者に出資しようとして調べたんだ。私もその調べ事に手伝った。それで知っている。だが、表面しかわからない。冒険者は秘密が多いみたいだ」

 皆は「うーん」と考えている。

「ところで、冒険者は強いのが当たり前なんですか?」

 僕はエトヴィンにきいた。

「最低限の強さは必要だ。初めて会う魔獣を相手にする時もあるから」

 でも、王直属の騎士団と同じか、それ以上の力を持っているのは理解できない。

「大きく個人差がある。冒険者はピンキリでわからなかった。だから、騎士団より強い人間はいるはずだ」

 エトヴィンの情報からもクンツ・レギーンの正体には近づけないようだ。

「シオンはそのクンツに何がしたいんだ?」

 アルノルトにきかれた。

 僕は龍の恩恵を受けた人間だとはいえない。それは秘密にするべきと思っている。龍にとって見返りがある人間に、与えている可能性がある。だから、本心はいえなかった。

「騎士団の練習場に来たんです。それで、いつでも力になるといわれました。初対面なのに」

 僕はぼやかしていった。

「まあ、シオンは有名人だから仕方ないわね」

 レティシアはいった。

 僕には意外な言葉だった。これでも、目立たぬように生きてきたつもりだ。

「龍に関わっている時点で変だし有名なの。だから、説得力はないわよ」

 レティシアは断定した。

 他の皆はその言葉に笑っている。

 僕にとっては不本意な言葉だった。

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