第91話 父

 僕は導師が動いたと思った。導師なら僕より早くロボットを潰せる。だが、他の要素も考えに入れておかないと失敗する。僕と導師ではなく、他の騎士や術士が倒した可能性がある。

 僕はアドフルを見た。

 アドフルもコールの魔術を使っているようだ。こめかみを押さえていた。

「子爵様。五体とも片づけたようです。これで、終わりです」

 術士は笑った。

 僕は術士のように喜べない。

 父が宣戦布告したのだから、あっさり終わることはない。他の策が動いているはずである。

「アドフルさん。遺物であるロボットがいない地域はありますか?」

 僕はきいた。

「ありますが、多いです。把握できません。……子爵様はこれで終わっていないと思っているんですか?」

 僕はうなずく。

「父なら、本命が他にあるはずです。嫌がらせにしては小さいです。本命を探してくれませんか?」

 アドフルはうなずいて、コールの魔術で連絡を取った。

「私も、確認した方がよいですか?」

 ここまで連れて来た術士はいった。

「はい。お願いできますか? 余りにも簡単に終わっています。でしかないと考えられます」

「わかりました。詳しい情報をもらいます」

 術士もコールの魔術で連絡を取っていた。

 僕は導師にコールの魔術を使った。

『シオンか。こちらは二体、消した。それともう一体は騎士団で潰したらしい』

『消し去ったのですか?』

『いや、普通に破壊した。そして、一人の術士が壊れた遺物を転移の魔術で廃棄した。そこで、爆発したらしい。転移した術士は火傷を負うぐらいだったようだ。爆発の規模は小さいようだ』

 聖霊が出てきたロボットとは作りが似ていても、力は小さいようだ。

『そうですか。これで終わると思いますか?』

 僕は本題をきいた。

『ないな。準備していたのなら、もっと大きな花火を打ち上げる。まだ、続くぞ』

『わかりました。僕はアドフルさんと行動します。ケガをしないでください』

『それはこちらのセリフだ。それより、深追いはするなよ。相手が相手だ。罠ぐらい張っているのは容易にわかる。だから、逃げられてもよい。本来なら、騎士団や衛兵の仕事だからな』

『わかりました。気を付けます』

 僕はコールの魔術を切った。

 僕は術士を見る。

「新たな情報はありません」

 術士は顔を振った。

「こちらも一緒です」

 アドフルはいった。

「では、少し休みましょう。本命の花火が上がるまで」

 僕は二人にいった。

「終わりではないのですか?」

 術士は驚くようにいった。

「本命はまだです。それは、導師も同じ意見です。……あっ。僕の親であるランプレヒト公爵の意見でもあります」

 僕は二人を見る。

 二人は話し合っている。そして、すぐに話はまとまったようだ。

「子爵様は詰所でお休みください。そこまで、お送りします」

 術士はいった。

 僕とアドブルは詰所に行った。


『なぜ、家にいない』

 しばらくすると、父からのコールが入った。

『あなたがばら撒いた殺りく兵器の排除をしていたんです。家にいるはずがないでしょう?』

『他人など関係ないのではなかったのか?』

『人の心を持っているんです。動くのは当然でしょう? それに、あなたがそれをいいます? 人の心を失ったんですか?』

『なら、家族を殺すまで』

『使用人は他人ですよ。あなたの家族の線引きが理解できません。本当に狂ったのですか?』

『口だけは立派になったな。だが、どうでもいい。人を気取るなら、屋敷に来い。来なければ屋敷ごと使用人を殺す』

『呼べば行きますよ。あなたは賞金首です。お小遣いになりますから』

 僕は父が怒って怒鳴る前にコールの魔術を切った。

 僕はすぐに導師にコールの魔術で連絡を取った。そして、作戦を練った。


 僕は一人で自分の屋敷の前に転移した。

 玄関から執事を連れた父が現れた。執事の首にはナイフが当てられている。

 父は僕を確認すると執事を乱暴に離した。もう、執事には価値がないようだ。

「お前は何なのだ。オレにはお前のいうことがわかん。何を考えている?」

 父は怒鳴るようにいった。

「それぐらい察するのが親でしょう。それぐらいわかりません?」

 父は僕をにらんだ。

 だが、一人の男が奥から現れた。

 こちらは剣士のようだ。魔剣らしき物騒な形の剣を履いている。

「こいつがお前の子供か?」

 剣士は僕を見ながらいった。

「ああ。そうだ。失敗作だがな」

 剣士には父の怒りには興味がないようだ。

 玄関から出ると真直ぐ僕の方に歩いてきた。

「悪いが死んでもらう。いいかな?」

 剣士は当たり前のようにいった。

「死ぬ気はないのでいいですよ」

 僕は剣士が殺気がないのが気になった。

 剣士は剣を抜く。そして、僕に向けた。

 僕も杖を出している。しかし、石付きの杖だ。

 精神感応金属のノクラヒロでできた杖でないので不安だった。

「では、死ね」

 剣士が上段に構えると、剣から膨大な魔力が発した。それは天を突くような巨大な光の柱になった。

 剣士はそれを僕に倒すように切ってきた。

 僕はドラゴンシールドでそれを受け止めた。

 剣士は驚くが、剣に力を入れて押し込んできた。

 だが、ドラゴンブレスに比べたら弱い。九つの魔術を同時発動しているのだ。一属性の力より強かった。

 僕と剣士が力比べをすると、周囲に気配を感じた。

「シオン!」

 導師と騎士団がタイミングよく現れた。

「ちっ」

 剣士は力比べから身を引いた。だが、騎士団に囲まれている。剣士は囲まれたまま転移した。騎士団の数人が追うように転移した。

 僕は玄関を見て父を探す。その時にはすでに姿はなかった。

 二人の捜索は騎士団に任せた。

 僕と導師は罠に気を付けながら屋敷を確認した。

 父が捕まえていたのは執事だけだった。他のメイドと家庭教師には目もくれなかったようだ。

「すまない。私の家を狙うとは思わなかった」

 導師は使用人と家庭教師に謝った。

「いえ。これも貴族であるのなら仕方ないことです。海千山千の猛者が徘徊するのです。覚悟はできています」

 執事は胸を張っていた。

 その様は父に捕らわれた恐怖を感じさせなかった。

「すまないな」

 導師は泣きそうな顔でいった。

「いえ。私たちが不甲斐ないだけです」

 門番の二人の騎士がいった。

 二人は傷ついていた。だが、生きている。死傷者がいないだけよかった。

「こんな私に付いて来てくれて助かる」

 導師の目から涙が流れた。

 執事を始めとして、皆が導師を慰めていた。

 僕もその輪に近づく。すると、皆は間を開けた。

 僕にここに来いといっているようだ。

 僕は歩いて導師の側に行った。

 導師は僕を見ると抱きしめた。

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