第90話 策動

 父親からのコールは騎士団の練習場を後にしてから届いた。

『今、王都に五つの遺物がある。もちろん、この前のと一緒だ。それを探して片づけてみせろ。早くしないと人が死ぬぞ』

 遺物であるロボットを片づける方法を持っているのは、導師と僕だ。他にもいそうだが知らないため頼りにできない。

『大量殺人をして、何の意味があるんですか?』

 僕は感情を押し殺して話した。

『大量の人が死ぬんだぞ。それでもよいのか?』

『別に問題ありません。僕は僕を大切にしてくれる人しか守りません』

『とうとう人をやめたか? やはり、お前は失敗作だ』

『何をいっているんですか? 僕が大量殺人を止める? 何でそんなことをしないとならないんです。それは衛兵や騎士の仕事です。それに、大量殺人をするのは僕でなくあなたです。危険な遺物を振りまくのはあなたです。殺人者はあなたです。間違えないでください』

 僕は父が何かをいう前にコールの魔術を切った。

 そして、騎士団に連絡する。窓口は目の前にいるアドフルだ。

「父が遺物を持ち出して街にばら撒きました。数は五つです。しかし、ウソの可能性があります」

 馬車の中で前に座るアドフルにいった。

「了解しました」

 アドフルはコールの魔術で連絡している。そして、指示を仰いでいた。

 僕は導師に連絡する。

 導師は導師でやることがあるようだ。合流はしないとのことだ。

「シオン様。私と一緒に行動してください」

 アドフルは僕にいった。

 その目は真剣であり有無もいわせなかった。

 僕はうなずいて、御者にいって馬車を止める。僕とアドフルは馬車から降りて、僕たちは夕暮れの街を走った。


 アドフルの後を追うと、近くの衛兵の詰所にたどり着いた。

「子爵様。私と共に来てください。発見した遺跡の遺物のもとに飛びます」

 一人の術士が礼をした。

 術士にしては筋肉があり鍛えている体だった。実戦向きな術士であるようだ。

 僕はアドフルを見る。

 アドフルはうなずいた。

 知らない人間ではないようだ。

「わかりました。お願いします」

 アドフルは僕の肩を背後から触った。

「それでは」

 術士が差し出した手を取った。

 そして、転移の魔術で移動した。

 出た場所は静かな住宅街である。しかし、一角が明るく騒いでいた。

「こちらです」

 僕はそういった術士の後を追った。

 そこには起動している遺物があった。

 ロボットであるが、体は小さかった。聖霊が入っているロボットとは少し違った。

 ロボットはレーザーを放つ。すると、鎧に赤い線が走った。

 体と同じく出力は低いらしい。鉄の盾を焼き切れていなかった。

「ドラゴンスレイヤーをお連れしました」

 術士は叫んだ。

 すると、ロボットを囲んでいる衛兵たちはロボットから距離を取った。

 僕はフローティングの魔術と共に飛び上がった。そして、上空からロボットを視認するとドラゴンブレスを放った。

 ドラゴンブレスの力の塊はロボットを飲み込んだ。

 ロボットは手足を残して消えた。だが、問題はある。聖霊族が出てくる可能性があるからだ。

 だが、ロボットが消えた後は何も変化はなかった。

『クーさん。仲間の聖霊族は近くにいませんか?』

 僕は頭の上の聖霊に話しかけた。

『いないよ』

『そうですか。わかりました』

 ロボットは聖霊をエネルギーにして動いていると思ったが違うのかもしれない。それに小型だったから、聖霊は使っていないと考えられる。

 僕は地上に降りた。

 衛兵たちは喜んでいる。しかし、負傷者はいるようだ。担架を持ってくるように叫んでいる衛兵がいた。

「次は?」

 僕は術士にきいた。

 術士はドラゴンブレスを見て驚いているようだ。魔術師ならドラゴンブレスの威力を理解できる。僕でも破壊力があり過ぎと感じていた。

「……はい。次に行きます」

 我に返った術士は手を伸ばした。

 僕はアドフルが肩に触ったのを確認して、術士の手を取った。

 二度目の転移で訪れたのは鍛冶屋が並ぶ工業地帯だった。

 そこでも、ロボットが暴れている。

 だが、このロボットも小さい。レーザーも威力が低く鎧を焼き切れていなかった。

「ドラゴンスレイヤーをお連れしました」

 術士は叫んだ。

 皆はこちらに気づいてロボットから離れる。しかし、ロボットと接近戦している衛兵がいた。

 僕は構わず、上空に飛んで狙いを定める。

『三秒、離れて』

 僕は闘っている衛兵にコールの魔術で伝えた。

「無理!」

 衛兵は防御するだけで離れられないようだ。

 僕はロボットの懐の地面に降りた。そして、手のひらで突くようにドラゴンブレスを放ち、体を消した。

 極太の光線のようにしたので足が残るだけで体は消え去っている。

 僕はまた周囲の魔力の変動を感じる。しかし、大きな気配はない。聖霊はいないらしい。

『クーさん。ロボットの中に仲間がいたら感じますか?』

 僕は聖霊にきいた。

『わからないー』

 やはり、ロボットには聖霊を封じるような装置があるようだ。魔力を遮断する何かの物質があると思う。

 僕は術士の下に戻った。

「次、お願いします」

 僕は術士にいった。

「お待ちください。他の三体は倒したようです」

 術士にはコールの魔術が届いているようだ。他の誰かと話しているようだ。

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