第86話 談笑

「好奇心で死んだら笑えないわよ」

 イスに座る二人にレティシアはいった。

「わかっているよ」

 アルノルトは顔を赤くしながらいった。

「シオン。座って。今、紅茶を頼んだから」

 カリーヌにいわれて、いつもの席に座った。

 レティシアとアルノルトはいい合いをしている。仲はいいようだ。

「シオンは騎士団長と仲が良いのか?」

 エトヴィンにきかれた。

「導師の威光で見せてもらいました。それに、今は騎士団の練習場に顔を出しているので、話すこともありますよ」

「騎士団の練習場に何しに行くんだ?」

「槍の稽古です。昔からしていまして、それで、色々あってお邪魔しています」

「騎士なら剣ではないのか?」

「僕は術士です。なので、槍術か棒術です」

 エトヴィンは何か引っかかった顔をした。

「術士? それって準貴族のはず。何で、公爵家の子供が術士なんだ?」

「僕の生まれは商家です。色々あって導師に拾われました。そして、王に術士として拝命してもらいました。その後ですね。導師の養子になったのは。それで、色々あって子爵を授けられました」

 僕が説明すると、エトヴィンは考え込んだ。

「初めて会ったのは術士の頃だったわねー」

 カリーヌは微笑んだ。

 僕は思わず笑顔になってうなずいた。

「それより、誰もツッコまないけど、あれは何だ?」

 アルノルトは僕の頭を指さした。

「聖霊よ。今まで気づかなかったの?」

 レティシアは冷めた目でいった。

「はあ? 聖霊? 何でここに居るんだ? 自然災害と一緒と聞いているぞ」

 アルノルトは驚いていた。

「ウワサで聞かなかったの? ランプレヒト公爵のもとには二体の聖霊がいるって」

「それは聞いている。だが、あれが聖霊なのか? 人形にしか見えない」

 アルノルトには理解がおよばないようだ。

「魔力をあげてみなさいよ。喜んで食べるから」

 アルノルトは手から魔力を出して聖霊に近づけた。

『食べていいのー』

 クーの嬉しそうな声が響いた。

『食べていいですけど、取り過ぎないでくださいね』

 僕はクーに注意した。

 注意しないと魔力を取り過ぎるからだ。

『わかったー』

 クーは僕の頭から離れて、うれしそうにアルノルトの手から魔力を食べた。

 アルノルトは全てを出すかのように魔力をクーに食べさせた。

 よくわからないが意地になったらしい。聖霊の底なしのお腹と勝負をした。

 結果は、もちろんアルノルトの完敗である。魔力切れを起こして力尽きている。今は魔力回復のポーションで飲んで回復を待っていた。


「話を戻すが、シオンはランプレヒト公爵の養子であり、子爵でいいのだな?」

 エトヴィンは確かめるようにいった。

「そうですよ。公爵は養子では、原則、引き継ぎませんから」

「なるほど。それで、子爵の位を持っているのか」

 エトヴィンは納得していた。

「だが、平民がそんなに簡単に子爵になれるのか?」

 エトヴィンの疑問はわかる。僕自身でも不思議だからだ。

「シオンはそれなりの大業をなしているの。龍の討伐なら、平民でも男爵の地位をいただけるわ」

 カリーヌは不満のようだ。

「そうだな。悪い。爵位とは血でなると教えてもらっていたから」

「本当にわかっているの? シオンは戦略級魔術師よ。他に代わりがいないのよ」

 レティシアはいった。

「えっ」

 エトヴィンと休んでいたアルノルトは僕を見た。

「……ああ、そうだった。戦略級魔術師はランプレヒト公爵でなく、その子だった。忘れていた」

 エトヴィンが顔を握るように手を当てていた。

 それほど、失念していたことに、自分自身に幻滅しているようだ。

 僕としては忘れていた話だ。今さら、掘り起こすことではないと思っていた。だが、二人には僕とは認識が違うようだ。

「これは謝った方がいいのか?」

 エトヴィンはいった。

 僕に恐れを感じているようだ。

「何をよ?」

 レティシアはあきれたようにいった。

「シオンは私たちの友達よ。力になってくれても不思議ではないわ。でも、それはお互い様。悪いと思うならシオンの力になって」

 カリーヌは当たり前のようにいった。

「ああ。すまん」

 エトヴィンはいった。

「それより、トランプをしましょうよ。これだけの人数がそろうのは、なかなかないんだから」

 レティシアは変わらず平常運転だった。

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