第84話 呪い
「シオン。新しい魔術はないか?」
導師にしては珍しい言葉だった。
魔術を欲しがるのは導師らしくない。いつもなら、前世の記憶を求めて、新しい魔術を考案するからだ。
「それなら、こういうのは?」
僕は手の中で電撃を走らせて雷でできた鳥を作った。
導師は興味深そうに顔を近づけた。
「これなら、問題ないな。さっそくだが、実験場で威力を試させてくれ」
導師と共に荒野に空間転移で移動した。
夕陽は赤い土をさらに赤くしていた。
「では、頼む」
僕は雷で鳥を作り放った。
それは雷のごとき速さで飛んで岩を砕いた。
「うん。これならいいだろう。お前には悪いが詠唱化してくれ」
破壊力は問題ないようだ。導師は満足そうだった。
「いいですけど、僕が作っていいのですか?」
「ああ。ランプレヒト家に依頼があった。だから、お前でも問題はない」
「どうしたんですか? いつもなら、前世の記憶を欲しがるのに」
「今は再生の魔術の復元に力を入れたいだけだ。気にするな」
僕は頭を傾ける。
導師の依頼は誰からなのか、何のためなのか、わからなかった。
僕は問題は起こすより、やってくることが多いようだ。
カリーヌの家でほんわかと紅茶を楽しんでいると、カリーヌの兄たちが来た。
双子の兄妹は鎧を着て剣を抜いている。
「お兄様。何ごとですか?」
カリーヌは怒った。
「カリーヌを手籠めにしていると聞いた。シオン・フォン・ランプレヒトが龍の血を浴びて絶倫になったと聞いた」
「何の話ですか? 理解できません」
カリーヌはまだ九歳である。絶倫といわれても理解できないだろう。
「また、情報に踊らされたね」
カリーヌの父であるジスランが現れた。
「父上。ウソだったのですか?」
兄の一人がきいた。
「もちろん。まだ小さいのに手籠めなんかできないよ。常識でわかるだろう?」
「ですが、シオンです。常識外だといったのは父上です」
「うん。そういったけど、それは魔術に関してだ。それに体は成熟していない。それからも間違いなのはわかるだろう?」
「ですが……」
二人の兄は父に恐れて後退った。
「教育が必要だね。二人は勉強室に行くように」
二人は肩を落として去った。
「ごめんね。今回も使わせてもらったよ」
ジスランは僕に軽く謝ると去っていった。
「また、お父様はウソをいいました。やめて欲しいです」
カリーヌは怒っていた。
「でも、あれはお兄様が悪いわよ。あんなウソにだまさるのは」
レティシアはあきれたようにいった。
相変わらず、どこか冷めている。
「そうなの? ゼツリンって何?」
カリーヌはレティシアにきいた。
「さあ?」
そういったレティシアはわかっているようだ。顔を赤くしている。だが、知らない振りを決め込むようだった。
「それより、エトヴィンの話はいいの?」
レティシアはカリーヌに話をうながした。
「そうだった。シオン。友達のエトヴィンが力を貸して欲しいらしいの」
「依頼があれば、導師が動きますよ?」
「ううん。今回はシオンだけに頼みたいらしいの」
僕は理解できない。僕には解決能力はない。導師がいて、初めて動けるのだ。それに僕に頼むのは筋違いだ。導師に頼むのが筋である。
「話は聞きますが、内容しだいでは導師に相談しなければなりません。それでもいいですか?」
僕は慎重になった。
導師にはいらぬ苦労をかけたくないからだ。
最近、書斎にこもって出てこない。それほど、根を詰めて魔術の研究をしている。
「もちろん」
カリーヌは無邪気に笑った。
「それで、内容は何ですか?」
「呪われた魔剣を引き抜いたらしいの。それで、自分が呪われているか見て欲しいといっていたの」
「また、何でそんなものがあるんですか?」
「それはわからないわ。でも、龍の呪いをかいくぐったシオンなら、何とかできると思ったらしいわ」
「そっちは専門でないですね。ちょっと時間をください。調べてみます」
「うん。ありがとう」
カリーヌの笑顔はいつも明るく輝いて見えた。
僕は導師の書斎のドアをノックした。
「入れ」
導師の声は変わりがなかった。
「どうした?」
導師にいう前にいわれた。
「実はカリーヌ様の友達が呪われた魔剣を引き抜いたらしいのです。それで、呪われているか見て欲しいといわれました」
「そうか。それは私の仕事だな。だが、今は集中したい仕事がある。しばらく待てないか?」
「僕個人に頼まれました。ですので、呪われているか見るだけでいいようです。それに本当に呪われていたら導師に頼みます」
「……わかった」
導師は席を立つと本棚に向かった。そして、一冊の本を取った。
「これを参考にするといい」
導師に一冊の本を手渡された。
「魔法の詠唱化と呪いの仕事。二つもできるか?」
導師に問われた。
「どちらも時間があります。なので、問題ないです」
僕は不安をかみ殺して答えた。
僕は自室に帰ると、本に目を通した。
相変わらず、大事なところには
僕はそこを読んで浄化の魔術を無詠唱でもできるようにした。
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