第80話 決行
呪われた龍を倒す日になった。だが、やることはなかった。
すでにできることはしてある。後は待つだけだった。
正門の外で龍の到来を待つ。
「今なら、まだ断れる。それでもいいのか?」
宰相は忙しい中で見送りに来てくれていた。
「ええ。私たちは覚悟を決めています。もう、後戻りはしません」
導師は僕を見た。
僕は宰相にうなずいた。
「わかった。無事に帰って来てくれ」
宰相は心配そうな顔をしていた。
やがて、出迎えの龍が来た。僕と導師はその龍の手に包まれた。そして、龍は飛んだ。
自国であるフロールン王国から隣国のテルフヤ国に飛んだ。
そして、人里離れた場所に向かう。すると、大地にひび割れたような狭そうな場所に向かっている。
そこが、目的の渓谷のようだ。
『あそこにいる。空で落とすが問題ないか?』
導師と僕を運んだ龍はコールの魔術でいった。
『問題ない。その後は私たちに任せてもらおう』
導師は答えた。
二頭を連れた龍は渓谷に向かった。
そして、渓谷が近くなると僕たちを離した。
『吉報を待っている』
龍はそういうと旋回して離れた。
僕と導師はフローティングの魔術で飛ぶ。そして、渓谷に入った。
渓谷の底は静かだった。生き物の匂いは感じなかった。だが、一つだけ大きな気配があった。
導師は気配のする方に歩く。僕も続いて歩いた。
やがて、静かに眠るような龍を見つけた。
その姿は威厳があるが、自身の呪いで黑くなっていた。まるで、黑い炎の中にいるようだった。
『あなたが自身を呪っている龍か?』
導師の言葉は相手を尊重をしていた。
『そうだ。だが、人族には関係ない。このまま、朽ちさせてくれ』
龍は顔も見ずにいった。
『今回は龍族の長老からの依頼で来た。呪いが残らないように、あなたを殺してくれと依頼された』
沈黙が走った。
『……そうか。だが、龍としての誇りがある。朽ちてもいいが、人族に殺されるのは誇りが許さない』
龍は怒ったようだ。目を見開いて僕たちを見ていた。
『すまんが、殺させてもらう。私たちは死ぬために来ていない』
導師はそういうと杖を出した。
ノクラヒロの精神感応金属でできた杖だ。本気なのがわかった。
「ガァァー」
龍は吠えた。
それが戦いの合図でもあった。
僕は導師と同じ黑い杖を出して握った。
龍の攻撃は早かった。ドラゴンブレスではなく尻尾でなぎ払われた。
僕は浮遊の魔術を使いながら、攻撃を杖で吸収するように受け止める。そして、威力に任せて後方に飛んだ。
導師はまともに受けてしまったようだ。飛ばされて転がった。
僕は導師の下に行く。すると、背後で巨大な力を感じた。僕は九つ同時発動のシールドを展開した。
龍のドラゴンブレスが走った。僕のドラゴンシールドでも防げるようだ。背後の導師まで飲まれていない。しかし、導師が起きる気配はなかった。
僕は防戦に努めた。
龍が息つくスキに攻撃してもいいが、龍の防御膜を突き破れない。殴り合いになる。なので、僕より力のある導師に攻撃して欲しかった。
龍はドラゴンブレスを吐く度に強くなるようだ。
僕はブレスのすき間をぬって、足先にある小石を蹴って導師に飛ばす。それを、何度も繰り返した。
だが、導師は起きない。石が当たっても動かない。気配はある。だから、気を失ってるだけだ。
僕のシールドでも防ぐのが厳しくなりつつある。だが、導師を放って置くことはできない。しかし、導師を治療するスキはなかった。
何度目かの龍のドラゴンブレスでシールドが押された。
左手に杖を持って抑えているが、限界に近くなった。抑えているがシールドは押されて、杖と共に僕の手を削る。だが、痛みでやめることはできない。今、やめたら僕と導師は消えるしかない。
僕は奥歯を噛んで痛みをガマンする。そして、ドラゴンブレスを吐き続ける龍をにらんでいた。
勝つ方法を考える。だが、今は力比べの最中だ。人族と龍族の間には決定的な差がある。本来なら力比べをしているのが間違っている。せめて、ドラゴンシールドを強化しないと削られて死ぬ。
僕はまだ、混ぜていない魔術を探す。
フローティングの魔術だ。あれは浮力を発生しているが、斥力でもある。僕は斥力の魔術も混ぜた。
ドラゴンシールドは強くなり押し返せた。
ぜいたくをいえば引力も入れたいが、魔術となっていない。だが、希望はあった。
「うっ、うん」
どのくらい経ったかわからない。しかし、導師は気を取り戻したらしい。
わき目で見ると、導師は頭を振って起き上がった。
「シオン!」
導師の掛け声は嬉しいものだった。これで、相手ばかりが攻撃することはなくなる。
「シオン」
導師は僕の名を呼ぶ。だが、それ以上、何も出てこないようだ。
「導師。攻撃してください。一方的にやられるのは嫌です」
「……わかった」
導師は思考が戻ったのか、ドラゴンブレスを放つ。すると、龍の攻撃が止まった。
導師の攻撃に龍はのけぞっていた。
僕は無防備になった腹にドラゴンブレスを放った。
「グオォー」
龍はうなった。
僕は龍に向かって飛んだ。
今なら、龍の首をはねる絶好の機会だからだ。
僕は新たに出した杖に、ドラゴンシールドの要領で長い刃を作った。そして、それを振るった。
しかし、龍は後方に飛んでかわした。
導師はかわした後のスキにドラゴンブレスで攻撃した。
「ガァー」
龍は確かにダメージを負っているようだ。動きが鈍くなっている。それでも、龍はドラゴンブレスを放った。
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