第79話 気分転換

「シオン。午後は全てキャンセルしてくれ」

 朝食の席で導師は僕にいった。

 僕は導師の考えはわからない。

「なぜですか?」

「少し私に付き合ってもらう」

 導師にしては珍しい話だった。

 午前の勉強は早めに終わらして、馬車で街にくり出した。そして、貴族御用達のレストランに入った。

 導師でも来るのは久しぶりらしい。

 導師はシェフにお任せにして料理を食べる。

 フルコースの料理だ。一品一品はこっていた。

 マナーは家庭教師に仕込まれているので、問題なく美味しく頂いた。

 導師はワインも勧められたのだが、導師は断った。まだ酔うには早すぎるらしい。

 そして、食べ終わると、一件の魔術道具の店に入った。

 そこには、魔道具が並べられている。僕には知らない魔道具がたくさんあった。だが、むやみに触るのは貴族のたしなみとしてできない。興味深そうに見るだけだった。

 導師は店員に声をかけると中から主人らしき男が出てきた。

 どうやら、導師は杖の製作を頼んだようだ。

「急ごしらえですが、こんな感じになります」

 主人の話ではまだ出来上がっていないようだ。

 導師は仮組をした杖を見る。だが、首を振った。

 導師の求める杖ではないようだ。

「シオン。杖の新調しないか?」

 導師は心配そうにいった。

「黑い杖があれば問題ないです。槍として使っていますので、魔石をつける方が怖いです。それに魔石に合わせる必要がないので、あれで十分です」

 導師は納得していた。

 精神感応金属のノクラヒロでできた杖は、魔石付きよりも使い勝手がいい。魔石の個性に合わせる必要がないからだ。

 導師は急ぎでノクラヒロでできた杖を求めた。

 それは三日後にでもできるらしい。金属を棒状に固めてヤスリをかければいいらしい。

 導師は宝石付きと共に頼んだようだ。

 その後は魔道具を見て回った。

 導師でも知らない魔道具がるようだ。便利そうな魔道具があると導師は買った。

「導師。いったい、いくら払ったんですか?」

 僕は馬車の中できいた。

 ここなら、おかしな話をしても聞く人間はいないからだ。

「気にするな。ドラゴンブレスに合わせた杖を欲しかっただけだ。それほど、散財してないよ」

「ノクラヒロですよね。高いはずですよ?」

「私の杖の新調は終わるよ。精神感応金属であるノクラヒロがあれば事足りる」

「そうなんですか?」

 僕は理解できなかった。ノクラヒロの無骨な杖よりも、もっといい杖があると思うからだ。


 その後は家に帰えり、馬車から降りる。

 そして、導師と共に魔術の実験場である荒野に来た。

 相変わらず、乾いた風が赤い土をなめている。

「シオン。いくつ、同時発動できる?」

 導師にドラゴンブレスのことをきかれた。

 僕が同時発動しているのは七つである。

 四大属性の地、水、火、風と光、闇、そして、空間魔術である。

「なら、足りないな。治癒と雷が足りない」

 導師は九つの同時発動でドラゴンブレスを放った。

 当然、的になった岩は消えている。

「できるか?」

 僕はうなずいて岩に目を向ける。そして、九つの同意発動のドラゴンブレスを放った。

 やはり、威力が過剰である。岩は跡形もなく消えていた。

「なんだ。できるのか。心配して損した」

「でも、治癒が入るとは思いませんでしたよ」

 僕は導師に不満をいった。

「まあ、それは経験の差だな。まだまだ、お前には負けんよ」

 導師は笑った。

 その笑顔は純粋に受けいられていると感じるものだった。僕はその感触に嬉しくて何もいえなくなった。


「導師ったらひどいんですよ。九つの同時発動を知りながら黙っていたんですよ」

 僕はカリーヌの無詠唱魔術の練習と、僕のダンスの練習にカリーヌの家を訪れていた。

「うん。普通、無理だから。人外なのを理解して」

 レティシアはあきれていた。

「でも、上には上があるのね。私には理解できないわ」

 カリーヌも反応は鈍かった。

 僕の不満はどこにも行き場はなかった。

「それより、汚れ仕事をするの?」

 カリーヌにきかれた。

「僕は覚悟はありますが、導師はわかりません。なので、依頼を受けるか決まっていません」

「そっか。でも、受けることになったら、無理しないでね。相手は死にかけとはいえ龍よ。格上なの。それを忘れないで」

 カリーヌは僕を見つめながらいった。

「うん。無理はしないです。それに死ぬ気はないですよ」

 僕はカリーヌの本心と思う言葉にうなずいた。

「うん。そうね」

 カリーヌは微笑んだ。

「それより、トランプで遊びたいわ」

 レティシアは変わらず遊びに来ているだけだった。


 導師の杖が届く日になった。

「龍からの依頼を受けるぞ」

 食後のお茶の席で導師はいった。

「いいんですか?」

 僕は驚きと共にいった。

「それはこちらの台詞だ。お前はあくまで子供だ。大事なことを決めるのは、保護者である私の仕事だ。ずいぶん、前世の記憶に飲まれているな」

 導師に鋭い目で見られた。

「普通ですよ。ただ、近頃の導師の行動が変なので、不思議だっただけです」

 僕は言い返すと、導師はバツが悪そうな顔をした。

「まあな。自分でも不思議なぐらい迷った。いつもなら、即決なのにな。だから、そんな自分に驚いていた。まあ、悪くはなかったが」

 僕は普段の導師から考えられない行動には疑問しかない。そして、決心した理由もわからない。

「今は普通ですよね?」

 僕は導師の目を見ていった。

「もちろんだ。やるぞ」

 そう決まると、話は早かった。

 日時と共に呪われた龍のいる国の入国の許可など、龍を倒すことに必要な前準備を、導師は宰相に頼んだ。

 そして、龍族の長老に連絡して、決行日時に龍たちに運んでもらう手はずを整えた。

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