第78話 依頼
「子爵はいつもこんなことをしているのか?」
宰相にきかれた。
「はい。最初に会った時から突っかかってきます。今ではお約束になっています」
「外交では問題なのだが……」
「でも、何もしないと消されますよ」
宰相は頭を抱えている。
龍族とは穏便に仲良くやっていきたいようだ。
『母よ。今回、来たのは用があるからだろう? その用とは何かな?』
『それは、宰相が話します。私は政治には疎いですから』
『うむ。わかった』
長老は待つように黙った。
「宰相。長老がお待ちですよ」
導師は僕の背後にいる宰相にいった。
「ああ。すまん」
宰相は気持ちを正すかのように服を正した。そして、僕より前に出ると長老を見る。
『今回、お邪魔したのは、魔王についてです。勇者と魔王は過去から争ってきました。しかし、人族も魔族も両者は体内にできたガンだと認識しています。そして、人族と魔族。両者のガンを自力で消去できませんでした。しかし、今回、思ってもみない事例が起きました。聖霊によって勇者が倒されたのです。なので、他種族なら身の内にあるガンを殺せるとわかりました。魔族は魔王を殺せる聖霊を求めています。しかし、聖霊は気まぐれです。それゆえ、聖霊に魔王を倒してくれとはいえないのです。そこで、龍族か有翼族に魔族のガンを取って欲しいのです』
宰相は長老から目を離さなかった。
『それはわかる。だが、我らは我らの願いがある。それに、魔族の魔王を討つのは簡単だ。しかし、我らが出れば、魔族は軍を出さなければならない。そうしたら、魔王どころの話ではなくなり、魔族の軍との対決になる。無駄な犠牲者を出すことになる。これでは、本末転倒だ』
『では、有翼族に魔族を助けるように、お願いできませんか?』
有翼族に話を付ける。それが本来の目的である。初めから龍族に戦いを求めていない。なぜなら、力も体も大きすぎて大事になるからだ。
『なるほど。おぬしは人族は有翼族と仲が悪いと考えているようだな。だが、その心配は無用だ。人族でも上手く交流している国がある。そちらから、頼むといい。我々は小さき子を守る決定をした。それゆえ、有翼族とは距離を置いている。あちらは先の出来事で、まだ揉めていて方針が決まっていないようだ』
『では、有翼族と仲を取り持ってもらえないのですね?』
『付き合いはあるので、進言はしておく。だが、交渉は人族でなく、魔族がしなければ意味がない』
『確かに。私たちは出過ぎたマネをしていますが、これは人族の危機でもあります。魔王の天敵である勇者がいない今、攻められたら負ける可能性があります』
『おぬしのいうことはわかる。だが、わしが見た未来では、そのようになっていない。……まあ、そういっても信じられんと思うがな』
『申し訳ありませんが、未来視では動けません。それに、誰も納得できないのです』
予言や未来視はいくらでもある。だが、百発百中の予言も未来視もない。それゆえ、宰相は未来視を重要視していないようだ。
『まあ、そうだな。我らができるのは有翼族に進言する程度だ。期待に応えられなくて申し訳ない』
『こちらが、無理をいったのです。進言だけでもありがたいです』
宰相は頭を下げた。
『ふむ。では、わしたちからのお願いを聞いてもらえんか?』
『何でしょう?』
宰相は頭を上げた。
『小さき子と母には、死にかけている龍を殺して欲しい』
長老の声は沈んでいた。
長老の言葉を受けて場は静まった。
『……詳しい話をお聞かせください』
導師は静寂の中でいった。
『過去に二人の若者がいた。その二人の男女は恋仲になり、何をするのも一緒だった。だが、娘の方が先天的な病気があり、床にふすことが多かった。それで、男の方は病を直す方法を探し回った。しかし、方法はなかった。そして、娘が死んだ後に男は帰ってきた。娘は最後の時まで男と一緒にいたかったようだ。周りの仲間にそう話していた。それを聞いた男は自分を呪った。そして、その呪いによってゆっくりとだが、死にかけている』
長老は話を切った。
『呪いを解く方法は?』
『あるが無理だろう。三百年も説得に応じない。それに、命が尽きるのは時間の問題だ。ゆえに呪いにむしばまれて死ぬのは時間の問題だ』
『私たちがとどめを刺す理由は?』
『龍族では呪いが感染する。なので、呪いが残ってしまう。そして、罰を与える相手がいて男は救われる。……すまんが、この汚れ仕事をしてもらえんか?』
『……少し考えさせてください』
導師は静かに頭を下げた。
『わかった。小さき子も考えておくれ』
『……はい』
僕はうなずいた。
帰りは静かだった。龍族の見せたくない話をしている。誰も笑えることはできなかった。
宰相は僕も導師も連れず城に帰った。
報告は宰相だけでするらしい。その代り、汚れ仕事の話を考えるようにいわれた。
僕と導師は無言で自宅に帰った。
導師と一緒に書斎に行った。
導師とは大切な話がある。もちろん、龍族のことだ。
「シオン。お前はどう考えた?」
僕は書斎に座った導師にきかれた。
「生きている方が辛い時もあります。でも、死んでも変わらないと思います。それに、救われない時は救われないと思います」
「そうか……。お前はどこか達観している。前世の記憶がそうさせるのだろう。私には善悪がわからんよ」
導師は両肘を机の上に置いて考えていた。
「善悪なんて関係ないです。生死の前ではかすみます。例え、間違っていようとしなければなりません」
「そうか。お前はそういう選択をしたか。だが、私はまだできていない。少し待ってくれ」
「はい」
僕は自分の残酷さを知りながら書斎を出た。
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