第77話 日常
僕は日常が帰ってきて、安心してカリーヌの下に訪れていた。
もちろん、カリーヌの無詠唱の練習と僕のダンスの練習のためだ。
いつものように、庭のテラスで紅茶を飲んでいる。まったりした時間が過ぎていた。
「それで、ドラゴンブレスを使える人はいたの?」
遊びに来ているレティシアにきかれた。
「さあ? 聞いたことがありません」
僕は素直に答えた。
「それって、天才でないとできないのでは?」
レティシアはいった。
「無詠唱を当たり前にするとできますよ。詠唱にこだわっていたらできません。なので、努力不足かと」
「それがランプレヒト家では当たり前なのね。普通の貴族には無理だわ」
レティシアはあきれたようにいった。
「詠唱にしていない魔術はたくさんありますよ。だから、詠唱にこだわる理由がわかりません」
僕はいうと、レティシアにあきれた目を向けられた。
「詠唱は誰でも使えるようにしたものよ。だから、詠唱にせずに魔術を扱うのは一握りしかいないの」
レティシアは顔を背けた。
「まあ、シオンはそれだけ魔術を扱うのが上手いのよ。そうでなかったら、私は家庭教師には選ばなかったわ」
カリーヌは間に入るようにいった。
「まあ、シオンが普通でないのはわかっていたからいいけど」
レティシアはぼそりとつぶやいた。
宰相と導師と共に龍の長の下に行く日だった。
前日にコールの魔術で話を通してある。そして、迎えに来るのは、太陽が一番高い時間にした。
僕たちは正門の前に集まり、外に出た。そして、宰相は時計を見る。もうすぐ、十二時になる。
「少し早いが連絡しよう」
宰相は時計をしまいながらいった。
今日の宰相は余裕があった。
僕はコールの魔法を飛ばした。
『小さき子か? すぐに行く』
出迎えの龍は、僕の返事も聞かずにコールを切った。
せっかちなのは龍族ではなく、出迎えの龍とわかった。
思えば龍族は長寿だ。人より急ぐように生きてない。それは過去の長老の言葉からもわかる。
『マナを感じながら生きる』
人族はもう少し緩やかに生きてもいいといっていた。
ゆえに、出迎えが早いのはせっかちな龍がいるということだ。
ふと、影が差した。
空を見ると龍が旋回して飛んでいる。そして、いつもの場所に降り立った。
正門では少し慌てふためいている。だが、正門の衛兵は龍に慣れているようだ。むやみに走り出さないように皆の暴動を抑えていた。
「行くか」
宰相にうながされて龍の迎えの下に行った。
龍に長老が待つ浮島に運んでもらった。そして、着くといつもの広場に行った。
広場は何十頭の龍に囲まれる。その中に踏み出して正面にいる長老にあいさつした。
『先日の新たな聖霊の件はありがとうございました。少しばかりですが、我が国の王からの献上品です』
宰相はぶつぶつと魔術を唱えて空間から箱を出した。
その箱は宝石で彩られ、その箱だけで豪華なものとわかる。
『うむ。ありがたくいただこう。そちらにも我らに用があるらしいから』
宰相の顔色が変わった。
今回、訪れたのはお願い事があるからだ。そのため、お土産で気分を良くさせてから話を切り出したかったようだ。
長老の念動力で箱が持ち上げられて龍の前来る。そして、開くを目を輝かしていた。
どれだけの光り物を詰め込んだのはわからない。だが、喜んでいる様子からも宝石や金など高そうなものと思った。
箱が移動して他の龍も中を見る。皆して喜んでいた。
『そんな物にだまされないでください。危険は速やかに排除する。龍族の誇りを守るのは、早くて問題ありません』
幼い龍が出てきた。
『まて、お前の出番は早いぞ』
長老でなく、落ち着いて僕の動向を見守っている龍はいった。
『今でも、後でも、変わりありません。本当のドラゴンブレスを見せてやります』
幼い龍は一歩前に出た。
『すまんのう。小さき子よ相手してくれ』
長老に頼まれた。
『……はい』
僕は何ともいえない気持ちになった。
いつになったらこの茶番が終わるのかわからないからだ。
「またか」
宰相はそういって僕の背後に回る。
導師は右後ろについた。
幼い龍は上に口を伸ばして力をためる。
僕は七種類同時発動でドラゴンシールドを出した。
それを見た幼い龍は驚いたのか、力をためるのをやめた。そして、上を向けていた顔を前に戻して、ため息を吐いた。そして、回れ右をして背を見せた。
僕はそのお尻に、四大属性の四種類同時発動のドラゴンブレスで攻撃した。
「ぐおぉぉー」
幼い龍は吠えて地に伏せた。そして、痛みをガマンするかのようにうなっていた。
龍たちは笑っている。
『だから、いっただろう。お前には無理だと』
長老はあきれたようにいった。
『すまんのう。いい加減、あきらめたと思ったのだが、まだまだだった』
長老は僕を見た。
『気にしていません。それより、ブレスの上限はあるんですか?』
僕は気になることをきいた。
『ないといえばない。試行錯誤をやめた時が、その者の頂点だ』
どこかはぐらかせられた気がする。だが、頂点を決めるのは僕自身のようだ。
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