第75話 日常

 導師と共に城にある宮廷魔術師の実験場に行った。

 目的はライナに魔力をあげるためだ。

 すでに、命令は下っているのか、魔術師たちは集まっていた。

 魔術師たちは聖霊に興味があるようだ。魔力をあげた後でも興味深そうに観察していた。

『これはこれで、いいわね』

 ライナは満足しているようだ。

 数十人もの魔術師の魔力を食べているが、やはり底なしなのだろう。魔力の美味しそうな衛兵を見かけると魔力をもらっていた。

 聖霊のクーを観察して分かったのだが、魔力は毎日必要としていない。一週間ぐらいたった時にお腹が減るようだ。その時に食べればいいようだった。


「はーい。ライナちゃん。魔力よ」

 カリーヌはクーだけでなく、ライナにも魔力をあげていた。

 魔術とダンスの練習のためにカリーヌの家に来たのだが、ライナは気まぐれで僕に付いてきた。

 家にいて出かけない導師では退屈のようだ。

「わかっていると思うけど、聖霊の食欲は底なしよ。魔力切れはしないで」

 レティシアはあきれたようにいった。

「レティシアも魔力をあげなさいよ。聖霊さんと遊べることなんて滅多にないのよ」

 カリーヌは指を立てて教えるようにいった。

「シオンの家に行けば、いくらでも会えるわ。それにシオンを見ていると、身近に感じて貴重な機会に思えないのよ」

「それは今を楽しんでいないだけよ。もっと貪欲にならないと」

 カリーヌは説教みたいなことをいった。

「まあね。でも、見ているだけで十分よ。可愛いからね」

 レティシアは聖霊を見つめていた。

 レティシアはレティシアで楽しんでいるようだ。


 僕は導師に書斎に呼ばれた。二人だけで話がしたいらしい。

 僕はクーとライナをノーラに任せて書斎に入った。

「何ですか?」

 導師が書斎に呼ぶのは大事な話がある時だ。近頃はなかったので疑問しかなかった。

「ちょっと、問題ができた。人族は勇者を排除できた。普通なら人族では勇者を殺せない。それは、古い時代から何度も挑戦して失敗していた。だから、同族では殺せないと伝わっていた。だが、他の種族なら殺せることがわかった。それで、聖霊を貸して欲しいと魔族がいってきた」

 勇者は聖霊族のクーに殺された。それも簡単に。

 それは種族として存在の力の違いでしかない。だから、人族では特殊な勇者でも関係がない。

 しかし、聖霊を貸すのは危険だった。聖霊族の性格は気ままだ。クーは気分次第でいなくなることもある。

 そんな、種族に強制することはできない。

 魔族が大変なのは勇者を見てわかる。だが、聖霊は貸すという選択肢はなかった。

「無理です。嫌がって逃げると、簡単に想像できます」

 僕は両肘をついて難しそうな顔をしている導師にいった。

「やはりか……。そうなると、魔王を殺せる人材を求められる。シオンは頼まれたらできるか?」

 導師は難しい顔のままでいった。

「嫌ですね。魔族は魔物や魔獣と違います。人族とは肌の色が違うだけですから、僕にはできません」

「王の命令でもか?」

「王とは政治と戦争には使わないと約束しています。それを破るのなら従いません」

 僕は顔をしかめてみせた。

「うむ。そうだな。だが、魔王は放って置けない。シオンならどうする?」

 導師にきかれて考える。だが、他力本願しか出てこない。

「龍族に知恵を借ります。それに有翼族がいます。彼らを頼ってもいいかと?」

「有翼族はお前との戦いで関係は悪い。だが、魔族とは関係ない。魔族は有翼族と話をしてもいいだろう。宰相にはそのように伝える」

 前かがみの導師は身を起こした。

「すまんな。私一人では解決できない問題だ。意見をききたかった」

 導師は安心したのか息を吐いた。

「他の貴族は?」

 僕はきいた。

「戦争をするか考えている。だが、こちらには勇者がいない。負け戦になる確率が高い。それに、目的は魔王の消去だ。戦争ではない。それに魔族自身の手で処理してもらいたい」

「魔族自身の手で処理するのは難しいんですか?」

「ああ。人族は幸運だった。たまたま、聖霊が勇者に手を出したからな。皆が驚いていたよ」

 導師は苦笑いを浮かべた。

「だから、聖霊の力を求めるのですか?」

「まあな。魔族でも、人とはそんなもんだ」

 導師はあきれたように笑った。

「でも、放置できないんですよね? 魔王は人族を目の敵にしていますから」

「ああ。そうだ。だから、放置はできない。いつ、戦争になるかわからないから」

 人族と魔族の戦争は近いようだ。勇者と魔王。二人がそろっていた。だから、国境の付近では戦争の匂いはしていた。

 勇者と魔王は迷惑な存在だと改めて認識した。

「それより、宰相から龍帝級魔術師に認定するといっていた。受けるか?」

 導師はからかうかのような顔をした。

「龍帝級って何ですか?」

 僕は初めて聞く言葉に疑問を持った。

「龍の咆哮を使える。それゆえに龍帝級らしい。ドラゴンブレスを使える人間はお前以外にいないからな」

「それなら、導師もできるでしょう?」

 導師でもその称号を受けれると思った。

「できるが、動作発動するまで極めていない。無詠唱でも失敗する時がある。だから、私は名乗れん」

「一度、動作発動でできると、失敗しませんよ?」

 導師の弱気の発言に疑問しかなかった。

「それが、できないんだ。まあ、練習しているが、まだ先だな」

 導師は微笑んだ。

「でも、龍帝級といっても理解されないと思いますよ」

「それはこれから周知させるようだ。まあ、持っていても邪魔にはならない。ありがたくもらっておけ」

 僕はよくわからないが認定を受けることになった。


 僕は魔術の実験に荒野に移転した。

 荒野は今も変わらず乾いた風が吹いている。

 僕は岩に手のひらを向けて、ドラゴンブレスを放った。

 岩は簡単に破壊できた。

 僕はドラゴンブラスの変換数を増やした。

 ドラゴンブレスは四大属性である地、水、火、風の四つからなる。しかし、その他の魔術を一つつぎ足すだけで、威力が変わった。

 特に空間魔法を入れると質が変わった。破壊力は普通のブレスと違って段違いだった。

 そして、光と闇。これも入れると、さらに別次元の威力になる。もはや、これ以上の破壊力がいらないほどだった。

 本当の龍の咆哮ほうこうは、少なくとも七つを変換している。だが、それ以上とも考えられる。

 今度、龍の長老に尋ねようかと思うが、同時に答えは教えてくれないとも思った。

 龍族の切り札だ。簡単には教えてくれないだろう。

 それより、導師の弱気が気になった。

 僕にでもできるのだから、導師もできるはずだ。魔力のあつかいと変換は僕より上手い。だから、導師ができないと、いっている意図が分からなかった。

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