第74話 介入

 ふと、影が差した。

 空を見ると何頭も龍が飛んでいた。

 外野がうるさくなった。騎士団が主導して貴族たちを避難させている。だが、龍の目的は貴族にないのは、僕でも分かった。

 龍たちは僕たちを中心に飛び回り、やがて、囲むかのように降り立った。

『龍が何のようなのよ』

 聖霊は不愉快そうにいった。

『知らなーい』

 クーは答えた。

 一頭の龍の首が近づいた。

『この二人の人族は我らの物。手を出さないでもらおうか』

 長老の代わりだろう。出迎えで使われる龍とは違って、長い年月を生きているようで威厳があった。

『魔力をもらうぐらいいいでしょ。私の物にしないわよ』

 聖霊は不満そうに怒っていた。

『それなら、これからどうするんだ?』

 龍はいった。

 僕には龍の考えがわからない。導師と共にやり取りを眺めているしかなかった。

『いつものように気ままにふらふらするだけよ』

 聖霊は魔力を食べるのをやめた。

『それは困る。それに、世界が狭いのに気が付かないのか?』

 龍は聖霊にきいた。

 聖霊は辺りを見る。そして、驚いていた。

『魔神族?』

『そうだ。だから、その辺をふらふらしていては危険なのだ。神霊族や魔神族に使われる』

 神霊族は聖霊や龍族には感知できる相手のようだ。僕には何が狭いのかわからない。

『でも、魔力は欲しいわ』

『それで、相談なのだが、人族と契約を結ばないか? それなら魔力はもらえる。もちろん、お前が魔力をもらった相手は、人族では地位が高い。命令すれば色々な種類の魔力をもらえるだろう』

『そうなの?』

 聖霊は導師を見る。

『はい。王の許可があれば、いくらでももらえるでしょう』

『……なら、契約してあげる。でも、少しでも渋ったら契約を切るわ』

 聖霊からの一方的な契約のようだ。だが、断れば何をしでかすかわからない。放置はできなかった。

『はい。それで構いません』

 導師は覚悟を決めたようだ。迷いはない。

 聖霊との契約。人族でした人間は聞かない。初めての試みなのかもしれない。

『あなたの名前は?』

『ザンドラ・フォン・ランプレヒトです』

『私に名前を付けて』

『わかりました。……ライナでよろしいですか?』

『……うん。それでいいわ。手を出して』

 導師は手を出した。それに聖霊が手を合わせる。

 すると、魔法陣のようなものが現れて消えた。

 導師の腕には何かが刻まれていた。

『契約終了ね。これでいい?』

 ライナは龍を見た。

『文句はない。だが、人族は脆い。魔力を引き出しすぎて壊すなよ』

『壊すほど、不器用ではないわよ。失礼ね』

 ライナは怒りっぽいようだ。のん気なクーとは性格は大きく違った。

『長生きしてね』

 ライナは導師にいった。

『はい。可能な限り協力します』

 導師はうなずいた。

『では、私は帰る。また会おう』

 龍たちは静かに浮かんで空に浮かんだ。

 僕は手を振った。

 龍はちらりと僕を見て、羽ばたくと荒野から飛んで去った。


 宰相が走ってきた。

 龍族が去って安全になったため来れたらしい。後ろには神経質そうな護衛が張り付いている。龍がいた時に行きたかったようだが、護衛にとめられたようだ。

「どうなったのだ?」

 宰相は汗をかいていた。走ったからではない。龍が来た恐怖からの冷や汗のようだ。

「龍の仲介で聖霊と契約しました。少なくとも敵にはなりませんでした。それより、聖霊は魔力を求めます。宰相からも王にお願いしてくれませんか? 聖霊に魔力をあげるように」

「そうか。それなら、私から頼もう。それで、危険は去ったと思っていいのだな?」

 宰相のはまだ焦っていた。

「はい。遺物は破壊できました。そして、聖霊とは契約しました。問題は多少ありますが、目をつぶれる程度です」

「わかった。この後、王に謁見してくれるな? 予定にもあるが緊急に報告しないとならん」

 宰相の焦りは穏やかになった。

「もちろんです」

 導師は返事をした。

 先に宰相と共に王都に帰った。そして、城に入る。

 聖霊の二体は僕と導師から離れなかった。僕の頭にはクーが乗っている。しかし、ライナは導師の付近を飛んでいた。

 謁見も間で王に報告すると、王は龍族に贈り物をしたいらしい。

 龍族には世話になってばかりだからだろう。

 宰相と共に導師は拝命された。

 近い内に、宰相と共に龍族の浮島に行かないとならないようだ。


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