第73話 破壊

 数日後、遺物の破壊の日が来た。

 そこには宰相がいた。

 僕は国の偉い人がここに居ていいのか疑問だった。

 失敗すれば命の危険にかかわるからだ。

 それに、物好きな貴族がテントを張っている。理解できない。

 僕は導師に視線を送った。

「失敗しなければいいだけだ。それに王直属の騎士団がいる。万全を期しているよ」

 導師は優しくいった。

 だが、破壊するのは僕だ。責任感に体は不調を起こしたのか重かった。

 僕は導師と共にテントの中で待機していた。

 遺物の破壊には慎重を期するようだ。何重もの保険を張っているようだ。

「シオン。大丈夫か? 緊張しすぎだぞ」

 導師の顔は心配そうだった。

「大丈夫といいたいのですが、緊張します。こんなにも大事だと思いもしませんでした」

 僕は人が行き来する現場を目にして、緊張感で体は重くなる。

「貴族になれば、人の目にさらされる。今は難しいが慣れてくれ」

「わかりました」

 そう答えるが、気が重いのは変わらなかった。

 段取りがあるのか、始まりまでは長かった。朝に始めて昼になっている。

 それほどのことかと疑問に思う。

 さっさとドラゴンブレスで破壊して終わりのはずだ。

 だが、使いの人は走り回っていた。

 いつ始まるのかわからない。僕は緊張で押し潰されされそうだった。


 昼食を胃袋に押し込んで、紅茶で乾いた口の中を湿らせていると、使いの者に呼ばれた。

 僕は導師と共に宰相の下に行った。

「待たせてすまない。ようやく準備が整った。そちらも準備をして欲しい」

 宰相は微笑みながらいった。

「いつでも問題はないですよ。そればかりか、待つのに疲れました」

 導師は僕の代弁をするかのようにいった。

「まあ、貴族が見物に来たんだ。時間がかかるのは勘弁してくれ」

「そうですね。では、開始の合図をお願いします。私たちにとっては魔術を一度発動するだけですから」

「わかった」

 そういうと、宰相は使いを何人も走らせた。

 僕は遺物のある場所に行く。地中にはドラゴンフォースで埋めてある。それを掘り起こさなければならない。

「シオン。いけるか?」

 導師が心配そうにしていた。

「やるしかないので、やるだけです」

 僕は空間魔術で倉庫から黑い杖を出した。

「始めてくれ!」

 宰相の大声が聞こえた。

 僕はドラゴンフォースで地中に埋まった遺物を地上に出した。

 卵型の遺物は土でできた龍に抱かれて出てきた。

「おおー」

 外野から聞こえた。

 僕は一呼吸ついて杖を遺物に向けた。そして、動作発動ためを作った。そうすると、速さを犠牲に威力が上がるからだ。

 僕はためられるだけためて、ドラゴンブレスを放った。

 力の塊は大きく太い。卵型の遺物より大きな力は遺物を飲み込んだ。

 卵型の遺物は土の龍と共に消え去った。

 僕はやりすぎたと感じた。

 だが、消えたので爆発する心配はない。全てはこれで終わるはずである。


『いったーい』

 頭に声が響いた。

『誰よ。私を殴ったのは』

 遺物の中に聖霊がいたようだ。

 クーとは違う聖霊であるが、形はゆるキャラなのは変わらない。

 放っている気配はクーとは違って火のような感触を受けた。

『あなたね。私をぶったのは』

 聖霊の敵意は頭にいるクーに向かっていた。

『何もしていないよー』

『なら、誰なの?』

 クーは僕を見た。

『龍の物ね。でも、何で龍の持ち物に引っ付いているの?』

 聖霊は僕を見ずにクーにいった。

 僕を龍の物と聖霊はいった。だが、クーの時と違って龍と取り合っていない。前と何が違うのかわからない。

『魔力がおいしいから』

 クーはいつものようにのん気に答える。

『確かに美味しそうね。私にも分けなさい』

『だめ。ぼくのもの』

『分けなさい』

 新たに現れた聖霊とクーはにらみ合っていた。

『叩いて申し訳ありません。だが、危険な遺物を放置できないのです。それに聖霊が入っていようと』

 導師は間に入った。

『あなたも龍の物ね。私を叩いた理由がそれ?』

 また聖霊は龍の物といった。僕だけならわかる。導師もそういう理由は一つしか思いつかない。僕と導師は龍の牙をお守りとして持っている。それぐらいしか思いつかない。

『はい。旧時代の危険な遺物です。心当たりはありませんか?』

 導師は答えた。

『そうね。そこら辺をぶらついていたら人族に捕らえられたわ。そうしたら、箱の中に閉じ込めれた。まあ、そんなのどうでもよかったから寝ていたけど』

 聖霊族とは自由な種族らしい。人に捕まっても問題視をしないようだ。

『兵器の動力源にされた可能性が高いです。心当たりはありませんか?』

 導師はロボットの動力源が聖霊の力と考えているようだ。だが、魔力を食べる聖霊なら魔力に反応するはずだった。しかし、遺物から現れたからには内部にいたのだろう。

 僕は魔力を遮断する物質で、聖霊を囲っていたと推測した。

『人族のやることを理解する気はないわ。それより、お腹が減ったのよ。魔力をちょうだい』

『私でよければ』

 導師は魔力を聖霊に与えた。

『まあ、悪くはないわね』

 そういいながらも、導師の魔力を食べていた。

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