第72話 覚悟

「邪魔するよ」

 そういって宰相が供を連れて練習場に現れた。

 騎士団員は片ひざを着けて頭を下げた。

 僕も習って片ひざを着いて頭を下げる。

「ランプレヒト子爵。君は貴族だ。ひざを着くのは謁見の間だけでいいんだよ」

 宰相に笑われた。

 僕は恥ずかしがりながらも立って、貴族の礼をした。

「うん。それより、先ほどの魔術は何だい? 窓から見ていたがあんな魔術は見たことがない」

 宰相はほがらかにいった。

「ブレイクブレットです。それを連発しました」

 僕は答えた。

「なるほど。これが動作発動と思っていいのかい?」

「はい。そうです」

「これなら、魔術師が台頭できるね。でも、難しいと聞いている。どれぐらい難しんだい?」

「無詠唱ができるのが前提です。ですが、一度体で覚えると、何度でもできます」

「ほう。それなら、魔術師には習って欲しいね。研究者以外の道ができる」

 宰相は感心して喜んでいた。

「そうですね。ですが、近接戦闘の練習が必要だと思います。身体能力が低いと魔術を当てられませんから」

「そうか……。まあ、その件はランプレヒト公爵の話も聞いて考えよう。それより、ドラゴンブレスの威力を見たい。確実に遺物を破壊したいからね」

 宰相の目は本気になった。

「ここで試すのですか? 危険です」

「それは威力があり過ぎるということかな?」

 目を細めた。

「はい。仮にも龍の咆哮です。威力はご存じのはずです」

「そうだね。では、これからその威力を見てみよう。騎士団員も連れてね」

 僕は宰相の本心がわからない。ドラゴンブレスなら龍族の浮島で知っているはずだ。再度、確認する理由がわからない。

「私が実験場へゲートを開ける。付いて来て欲しい。もちろん、騎士団員もだよ」

 そういうと宰相はゲートの魔術を詠唱する。すると、ゲートが現れた。

「行こうか」

 宰相がゲートの闇の中に入った。僕も続いて入る。背後には騎士団長を先頭に騎士団が並んだ。


 出た先は荒野だ。実験といえばこの荒野に決まっているのかもしれない。

 騎士団の皆がゲートをくぐって現れると自然とゲートは閉じた。

「さっそくだが、ランプレヒト子爵。ドラゴンブレスを使って欲しい」

 宰相は大きな岩を指した。

「はい」

 僕は前に出た。そして、動作発動でドラゴンブレスを使う。だが、威力を求めて少しためて放った。

 岩には大穴が開いた。

 ドラゴンブレスでなくとも公級魔術なら砂に変えている。実演にしては大人しい結果だった。

 背後にいる騎士団からどよめいた声が聞こえた。

「あれ喰らったら死ぬぞ」

「杖なしであれか?」

「何であの威力をすぐに出せるんだ?」

「オレ、魔術なめてたわ」

 色々な声が聞こえた。

 宰相は騎士団に向かった。

「今度、破壊して破棄する遺物は、このドラゴンブレスで破壊する。だが、万全を期すために、騎士団には同行してもらう。その時、ドラゴンブレスでも破壊できなかった場合、君たちの力が必要になる。心して待機していてくれ」

 宰相は微笑んでいるが、求めている力は大きかった。

 導師が放った公級魔術の太陽のような火の球でも破壊しきれていない。それ以上の攻撃力が騎士にあるのかわからなかった。

「はい。わかりました。ご期待に答えるように鍛えています」

 騎士団長は真剣な顔でいった。

「うむ。頼む」

 宰相は満足そうだった。

「では、帰るか」

 宰相はゲートの魔術を唱える。そして、ゲートを開ける。

 僕たちは練習場に帰った。


「導師。動作発動の特許はとれたのですか?」

 僕は夕食の席で導師にきいた。 

「それなら、昔の文献にある。だが、後継者がいなくてすたれたようだ」

「使い手はいなくなったのですか?」

 僕は存在した驚きと共にもったいないと思った。

「ああ。やはり、難しんだろう。シオンはどうやって覚えている?」

 導師は平静なままだった。

「無詠唱で一度、使います。そしてその魔力の流れと変換を感じます。そして、その感触を再現します。それを繰り返していますと動作でもできるようになります」

「そうか。お前でも動作発動は難しんだな」

 導師は静かに食べている。取り立てて感想はないようだ。

「ですが、一度、体で覚えると練習はいりませんよ」

「そうか……。私はまだ無詠唱にこだわっているようだ。思い込みが邪魔しているのかもしれん」

 導師は難しい顔をした。

「導師でも苦労するのですか?」

「私をどう見ている? これでも、普通の人間だぞ」

 導師はそういうが、出会う貴族からは天才と聞きおよんでいた。

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