第71話 模擬戦

「ランプレヒト子爵様。槍ばかりではなく、魔術で攻撃しないのですか?」

 槍の練習が一息ついた時、騎士団長のロルダン・ペルニーアにいわれた。

「それは、自習していますよ。でも、目の速さや体のさばき方は、体を使わなければ鍛えられません」

 僕は騎士団長を見上げながらいった。

「一度、魔術で闘ってみませんか? 子爵様は魔術が主体と聞いています」

 僕は対人の魔術の修業はしていない。一度試してもいいかもしれない。

「いいですが、アドフルさんではないですよね?」

「ええ。他の騎士に頼みます」

「それなら、お願いします」

 僕はお願いした。動作発動の魔術を試すには、ちょうどいいからだ。

 相手になるのは騎士団でも中堅の騎士らしい。物腰は戦いに慣れているのがわかった。

「始め!」

 騎士団長の声が響いた。

 僕は棒を構える。すると相手の騎士は一足で距離を縮めて迫った。

 僕は転移の魔術で相手の背後から十メートルに移動した。そして、振り返る相手にブレイクブレットの魔術を動作発動で放った。

 指を指しただけで放つ魔術だ。何十もの弾に相手は受けるしかなかった。

 僕は何度も指さしてブレイクブレットを連発する。速さを重視して威力は低いが、相手に当たりやすい。相手が後ろに下がっても、横に避けても、弾は軌道を曲げて襲ってくる。

 ブレイクブレットの弾数が千を超える頃には相手は倒れた。

 僕は審判役の騎士団長を見た。

 すると、あわてて騎士団長は動き出した。

「それまで!」

 倒れている騎士に仲間が向かう。

 大きなけがはないようだ。何人かで持ち上げて日陰のある場所に運んでいた。


「治療します」

 僕は騎士団長にいった。

「お願いします」

 僕は気絶している騎士の体に触って治癒の魔術を使った。

 騎士の体の新陳代謝が活発になる。しばらくすると、穏やかな息になって寝ていた。

「ありがとうございます」

 騎士団長に頭を下げられた。

「いえ。練習にケガはつきものですから」

 僕は手を振って遠慮した。

「……それより、あの魔術は何ですか? 見たこともありません」

 騎士団長の顔は真剣だった。どこか怖がっているようにも見えた。

「ブレイクブレットですよ。それを動作発動で連発しただけです」

「動作発動? 初めて聞きます」

 騎士団長の顔が近寄った。ちょっと怖い。

「有翼族が使う魔術操作です。詠唱の代わりに仕草で発動できる方法です。ですので、無詠唱より発動は速いですよ」

「そのような使い手は知りません。新しい魔術の方法なのですか?」

 騎士団長は顔は怖い。必死さを感じた。

「さあ? 導師が申請しているか知らないのでわかりません。ですが、翼有族が使っている方法です。過去にも人族がマネて使う人がいても不自然ではありません」

「それは、剣士より速い魔術師がいるということでしょうか?」

 騎士団長の顔は近かった。

「いる確率はあります。導師も練習していますから」

「それは将来には剣士より魔術師の方が強くなるということでしょうか?」

 騎士団長にはまばたきをして欲しい。怖いだけだ。

「可能性はありますが、動作発動を使うには無詠唱を使えないとなりません。導師の話では難しいようです」

「私たちがそのような魔術師に勝つ方法はありますか?」

 顔が怖い。僕は半歩後退った。

「騎士は無意識で身体向上や防御膜の魔術を使っています。それを強化して向上すればいいだけです」

「私は魔術は使えません。なので、身体向上の魔術など使っていません」

 騎士団長は身を引いた。僕の発言に疑問を持ったようだ。

「魔術師の僕から見たら、騎士団の全員は使っています。そうでなければ、人より大きな魔獣を倒せるわけがありません」

「そうなのか?」

 騎士団長は他の団員にきいた。

「魔術師でないのでわかりません。私にきかれても困ります」

 騎士団にしては軽薄そうな騎士団員は答えた。

「だが、子爵様はそういっている。心当たりがある者はいるか?」

 一人の団員が手を挙げた。

「マッテイス。わかるのか?」

「はい。入団当初から騎士団員は、身体向上の魔術を普段から使うと思っていました」

 マッテイスと呼ばれた男はいった。

「それはわかっていて黙っていたのか?」

 騎士団長は思いがけない言葉に疑問を持っているようだ。

「はい。それについては皆が当たり前のようにしていましたので」

「そうなのか?」

 その疑問に答える騎士はいなかった。

 僕から見たら、無詠唱で身体向上の魔術や防御膜を張っている。しかし、騎士には理解できないようだ。

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