第66話 出世

「何で、出世しているんですか。約束なら十年後のはずですー」

 メイドのノーラはぼやきながらも、僕の体を採寸していた。

「仕方ないだろう。王が任命したんだ。断れるはずがない」

 導師は笑いながらいった。

「でも、もったいないです。この前の服も着れませんし」

 男爵になった時の服はタンスの肥やしになったようだ。

「まあ、主人が出世するのはメイド冥利みょうりに尽きるだろう。後でパーティーでもしよう」

 導師の気分はいいようだ。軽口が出ている。

「それって、私も甘いものを食べられますか?」

 ノーラの目つきが変わった。

「ああ。家の中でのパーティーだ。文句はいわせんよ」

 導師はこうなると行動にする。

 家でのパーティーは開かれるようだ。


 僕は王に肩に剣を置かれる。そして、誓いの言葉が紡がれる。僕は誓いをして叙任式は終わった。

 僕は子爵として叙任式の後のパーティに参加する。だが、本来なら成人してから社交界デビューをする。なので、今回も僕は導師の後について回った。

「やあ。もう子爵かい? 思ったより早いね」

 ジスラン・ラ・ヴィアルドー公爵は導師に会うなりいった。

「ああ。私も驚きだ。王が授けるとは思いもしなかった。勇者を追い出せた褒美としては大きすぎる。私としては急いでいる気がするよ」

「そうだね。でも、それだけ手放したくない人材ということだよ」

 ジスランは微笑んだ。

「そうならいい。だが、まだ、子供だ。無理な要求は聞き入れない」

 導師は心から喜べないようだ。

「そうだね。でも、君がいる。僕は心配はないと考えているよ」

「買い被り過ぎだ。私に期待しても何も出んよ」

「そうかな? 今まで領地を持たないのに地位を維持している。僕には理解できないよ」

「私は趣味に生きているだけだ。その結果でしかない。爵位は重しでしかないよ」

 導師は息を吐いた。

 爵位とはもらえばいいだけではないらしい。

 ジスランの妻であるロズリーヌと共にカリーヌが来た。

 僕は胸に手を当てる。そして、足を引いて頭を下げる。

 貴族のあいさつをすると、カリーヌもドレスの端を持ってあいさつした。

「行っておいで」

 カリーヌは母のロズリーヌの背中を押されて僕の方に来た。

「レティシアがいるわ。行きましょう」

 カリーヌの誘いにうなずいて導師から離れた。


 レティシアは相変わらずテラスで外を眺めていた。

「まだ、パーティーには慣れない?」

 カリーヌはきいた。

「それもあるけど、なんか貴族ぽっくって、イヤ」

 レティシアは口を尖らせた。

「でも、ドレスは似合っているわ」

「そう?」

 レティシアは恥ずかしそうにいった。

「うん。似合ってる」

 僕もうなずいた。

「何か恥ずかしい」

 レティシアは顔を赤くした。

「すぐに慣れるわよ。それより、シオンが子爵よ。公爵になる日は近いわ」

 カリーヌは上を向いて想像していた。

「それはないから。平民からでは公爵になれないわ」

 レティシアはいつものように冷静だった。

「そうなの?」

「ええ。王に近い親戚ぐらいしかなれないわ。貴族は血でなるものだと忘れた?」

「そうなんだ……」

 カリーヌは肩を落としていた。

「でも、伯爵ぐらいにはなれると思うわ。でも、それだけの功績を積まないとならないわね」

「それなら、もう一つだからなれるわ」

「そんな簡単ではないから」

 レティシアは否定した。

「そうなの? シオンは簡単に登っているわ」

「シオンが普通でないの。この歳で爵位をもらっている。それ自体が普通でないのよ」

「それって、私には爵位がないの?」

 カリーヌは驚いていた。

「私たちは公爵の子という立場であって爵位はないわ。爵位がもらえるのは親が死んだ時よ」

「そうなの? 今まで気付かなかったわ」

「シオンが変なだけ。公爵の養子だけど、爵位がある。普通は考えられないのよ。爵位は親から子に受け継がれるものだから」

「そうなんだ」

 カリーヌはがっかりしている。

「……そうすると、シオンの方が偉いの?」

 カリーヌはレティシアにきいた。

「私たちは公爵の娘だから立場では上のはず。それにカリーヌは気にしないでしょう?」

「まあ、そうだけど。相手の立場を考えなさいといわれているから」

 カリーヌは不安そうにしていた。

「僕は偉くはないです。だから、気にしないでください」

 僕はいったが、二人の不安を解消できたと思えなかった。

「そうね。公爵の養子ですもの。私たちと立場は一緒よ」

 レティシアはあわてていった。

 今の気まずい雰囲気を変えたいのがわかった。

「でも、養子では引き継げないよ」

 カリーヌの気分は沈んでいた。

「それをいったら、私たちだってそうよ。家長が引き継ぐんだから、兄が公爵になるのよ」

 レティシアはいった。

「そうね。忘れていたわ。私も爵位をもらうような働きをしないとならないかしら?」

「必要ないわよ。シオンが変なの。こんなにも短期間で新しい爵位をもらえるんだから」

「そうなんだ……。でも、良いことなのよね?」

 カリーヌは確認するようにきいた。

「まあね」

 レティシアは仏頂面で答えた。

 反対にカリーヌは喜んでいた。

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