第67話 騎士

 槍の稽古に城の詰所に訪れてた。

 詰所ではアドフルに片膝立ちであいさつされた。

「子爵様ようこそお出でくださいました」

 僕はアドフルから異様なものを感じた。

「何か悪いものを食べたんですか?」

「子爵様。こちらに」

 アドフルに招かれて詰所に入った。そして、内緒話をするように小声でいう。

「お前は何で出世しているんだ? それよりもわかっているだろう? オレたちが教えるには身分が高すぎる」

 アドフルは気まずそうだった。

「槍の稽古をやめる気はないですよ。それに家庭教師は間に合っています」

 僕の言葉に周囲はあきれた顔をしている。

「オレたち衛兵に習っていると知られたら、ランプレヒト公爵の立場がない。今まで幼いから許されていたが、もう無理だ。だから、お前を指南するとしたら、王や公爵直属の騎士団しかいない。だから、もうここには来るな」

 僕は不快だった。

 ようやく信頼できる騎士に会えたのに離れるのは嫌だった。

「アドフルさんが騎士団に入ってください」

「無理いうな。オレの生まれは農家だ。騎士団には入れない」

 アドフルは焦りながら弁明した。

「なら、導師に相談します」

「ああ。そうしてくれ。オレでは何もできないからな」

 アドフルはすまなそうな顔をしていた。

 僕は詰所から出て不満を隠しもせずに帰った。


「導師。槍の稽古でアドフルさんが協力してくれません」

 僕は食事の席で導師にいった。

 自分自身でもわかるように、そういった声は怒っていた。

「まあ、そうだろうな。公爵の子で子爵の爵位がある。衛兵では不相応だろう。今後は騎士団に頼むか?」

 導師には反対にきかれた。

「アドフルさんがいいです。信頼できます」

「そうか……。なら、私が何とかしよう。どうなるかわからんが、覚悟はしておいてくれ」

「はい。お願いします」

 導師はクスリと笑った。

 僕は首をかしげた。

「いや。よほど気に入ったようだな?」

「はい。僕に対して対等に相手をしてくれますから」

 導師は優しく微笑んだ。

 僕は導師の本心はわからなかった。


 後日、アドフルは王直属の騎士団に昇進したようだ。もう、衛兵ではなくなり、王の剣と盾になることになった。

 僕は城にある騎士団の訓練場に行った。

「子爵様。感謝します」

 訓練場に入るなり、アドフルに頭を下げられた。

「僕は導師に相談しただけですよ。それよりも敬語はやめてください。気持ち悪いです」

 僕はアドフルの態度が違うのが嫌だった。

「子爵様。それはガマンしてください。立場があるのです。騎士団では子爵に乱暴な言葉を使えないのです」

 そういうものかと僕は思う。僕も貴族としてガマンしなければならないようだ。

「わかりました。ですが、変な手加減はしないでください。僕は信頼していますから」

 アドフルは驚いた顔をした。そして、また頭を下げる。

「ご期待に答えられるように精進します」

 そういうアドフルは喜んでいたようだった。


 槍の修業に騎士団の練習場に通うようになった。すると、騎士団長にあいさつされた。

「ランプレヒト子爵。励んでおいでですね。感心します」

 騎士団長のロルダン・ペルニーアはいった。

「明確に敵がいるので、休んでいられません」

 僕は手を止めて騎士団長にいった。

「敵ですか? 誰か聞いてもいいですか?」

 僕は迷った。実の父が敵だというには、僕の内面をえぐるからだ。

「申し訳ありません。今はいえません。ですが、犯罪者といえます」

「そうですか。なら、送り向かいに団員をつけましょうか?」

 団長は横にいるアドフルを見た。

「いえ。家の門番が警護してくれています。それに僕のために団員を使わせるのは大げさです」

「いえ。これも仕事です。アドフル。警護を頼む」

「わかりました」

 話は進んで勝手に決まってしまった。


 アドフルは馬車を追うように付いてきた。

 僕は馬車を止めてアドフルを馬車に入れるようにいった。

「それはできません。私は護衛ですから」

 アドフルは堅い調子でいった。

「話し相手になってください。それに敵は馬車ごと狙いません。あくまで僕個人を狙っていますから」

 アドフルは迷っていた。

 僕は手を出した。

「失礼します」

 アドフルは僕の手を触れて馬車に入った。

「ふう」

 アドフルはため息を吐いた。

「アドフルさん。大丈夫ですか?」

「慣れない環境で苦労しています。そのうち慣れると思いますが、衛兵が楽だったのがわかりました」

 アドフルは力なく微笑んだ。

「アドフルさんでも騎士団は厳しいですか?」

「ええ。騎士団の皆は心も体も強いです。私は追いつこうと頑張っていますが、まだまだ力が足りません」

「でも、やめる気はないですよね?」

「もちろんです」

 アドフルの顔は毅然きぜんとしていた。

「ところで、シオン様の敵は誰ですか?」

 アドフルは真剣な顔できいてきた。

 僕はいうか迷ったがいうことに決めた。

「僕の実の父です。僕は父に奴隷と売られました。ですが、導師に拾われて、貴族になったのが受け入れないようです。スキがあれば、誘拐して奴隷として売ろうとしていました。それに、僕が幸せそうなのが不満であるようです。僕を売ることで、母を自殺に追い込んだのに」

 僕は怒りを通り越して、ため息しか出なかった。

「そうでしたか。以前、誘拐されたのは、それが理由なのですね?」

「はい。それに、父はまだあきらめていません。また同じことが起きるかもしれません」

「それなら、私が守ります。必ず守ってみせます」

 アドフルに真剣な顔でいわれた。

「はい。ありがとうございます」

 僕は嬉しくなった。

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