第65話 謁見

 王から登城の命令が下りた。

 僕と導師は謁見の間で王に会わなければならない。だが、遺跡の件なら終わったはずだ。呼ばれる理由はわからなかった。

 僕と導師は龍のうろこを選別して、良い状態のものを箱に入れた。

 もちろん、献上するためだ。それなりに宝飾された箱に並べて入れた。


 登城して謁見の間の控室で導師と二人で待った。

 先に入った人の話は長いようだ。着いてからも謁見の間の扉はなかなか開かなかった。

 待つのに疲れた頃、謁見の間の扉が開いた。

「ザンドラ・フォン・ランプレヒト公爵。シオン・フォン・ランプレヒト男爵。両名は中へ」

 呼び出されて謁見の間に入った。

 僕たちは赤いじゅうたんの上を歩く。

 先には勇者と二人の仲間がいた。

 僕は帰りたかった。このまま、回れ右をして帰りたかった。

 だが、僕と導師は勇者から離れてひざを床につけて頭を下げた。

「両名とも顔を上げてよろしい」

 宰相にいわれて頭を上げた。

 今回、呼ばれたのは遺跡の件だった。

 詳しい話は宰相から王に報告がされている。しかし、証言者が必要なようだ。

 宰相は遺跡の件を話す。それに導師は答えるだけだった。

 話が進むにつれ勇者の顔色は悪くなっていく。立場が悪くなっていくからだ。

 だが、自業自得だ。自分の力を誇示するために周りに危険を振りまいた。そして、そのせいで、伯爵の一人は死んでいる。貴族でも厳罰なのは容易にわかった。

「私があの遺跡の遺物に勝てなかったのに、この二人に勝てるはずがありません」

 勇者は叫んだ。

「ランプレヒト公。どうなのだ?」

 宰相は冷静に導師にきいた。

「遺物は破壊しました。それに、危険な遺物の処理は数種類あります。勝てなくても廃棄する方法はあります」

 導師は王を見て答えた。

「やっぱり、勝てなかったんだ。僕は強いんだ!」

 勇者は笑っていた。

 僕は内心ではドン引きだった。

 宰相が求めたのは強さではない。仕事を無事に終わらせる能力だ。強さなど二の次である。

 勇者とは頭が悪くないとなれないようだ。

 脇に並んでいる他の貴族は不快な顔を見せていた。

「遺物は確かに破壊したのか?」

 王は確認してきた。

「はい。私とシオンで破壊しました」

 導師は王を見て答えた。

「わかった。勇者には国外退去してもらう。本来なら刑罰を与えるが、勇者ゆえ免除する。己の足でこの国を出るように」

 王は今まで見せたことのない毅然きぜんとした声で裁きを下した。

「なぜです。私は強い。必要な人材だ。なぜ、邪魔者扱いをされなければならない。王の目は節穴だ!」

 勇者は大声で王を非難した。

「王の御前である。控えよ」

 宰相はいったが、勇者はふらりと立った。

「王にはわからないので、ここで力を示そう。そうすればわかってくれるはず」

 そういうと勇者は剣を抜いた。

 ふと、僕の体が軽くなった。下を見ると床がなくなっていた。

 僕は服の背中を掴まれたようで、空中にぶら下がった。下は暗闇で見えなかった。

「シオン。浮かべ」

 導師の声が聞こえた

 僕は魔術で浮かんだ。

 導師は僕を掴んだまま上に浮かんだ。すると、謁見の間に戻った。

 底の見えない床は元に戻った。

 導師は床に着地すると、魔術をやめた。

 僕も床に立って浮遊魔術を切った。

「どういうことですか?」

 僕は導師にきいた。

「いざという時のトラップだ。勇者を強制的に排除したんだ。下では騎士たちと闘っているだろう」

「そうなんですか……」

 僕は驚きから、頭がまだ回っていない。

「ランプレヒト公。迷惑をかけた」

 宰相に謝罪された。

「いえ。知っていたので問題はありません」

 導師はひざを着いていった。

 僕も導師を見て、あわててひざを着いた。

「二人の働きには感謝している。だが、龍族の考えが読めない。心当たりはあるか?」

 王は今まで見せたことのない穏やかな声でいった。

「可能性としてはシオンです。この子が龍族にとってカギのようです。それで理由を聞いたのですが、答えてくれませんでした」

 導師の言葉に王は僕に視線を向けた。

「そうか。本当の勇気ある者は、この子のようだな」

 王は微笑んだ。

「過分なお言葉です」

 導師は慎んだ言葉を並べた。

「後で、褒賞を出す。待っているように」

「ありがとうございます」

 僕と導師は謁見の間を後にした。


「お土産。渡し損ねましたね」

 僕は帰りの馬車の中で導師にいった。

「そうだったな。だが、渡さなくとも問題はない。龍に会う度にお土産を考えるのは苦痛だ」

 導師は苦笑した。

「そうですね。でも、龍族は何が目的なんですかね?」

「わからん。だが、お前を大切にしている。無茶なことはいわないだろう」

 龍族もそうだが頭の聖霊も気になる。

 なぜか僕は他種族と関わっている。確率から考えても異常だった。

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