第51話 友達
レティシアは驚いている。
「本当に?」
「はい」
僕は帰ったら導師に怒られると思うと冷や汗が出てきた。
「はー。外も気楽に歩けないわね。でも、同情するわ。運が悪かったって」
「ええ。同じ貴族でも、簡単にお菓子をもらって食べてはいけないと覚えました」
「それで、何でシオンは誘拐されたの?」
「ここだけの話にしてくれますか?」
僕は確認した。
「ええ。いいわよ」
レティシアの返事は軽い。信用していいかわからなかった。
「約束ですよ」
「もちろん」
僕は念押ししたがレティシアの覚悟は軽そうだった。
レティシアはまだ九歳である。秘密を守れるかわからなかった。
「僕は導師の養子です。それで、実の父が犯罪に手を染めていまして、僕を所有物のように思っているんです。それで、奴隷という商品としてさらわれました」
「何よ、それ。その父親はおかしいわよ。奴隷として売って、またさらって売る。普通ではないわ」
レティシアは僕が奴隷だったことを知っている。
「まあ、そんな父なのですが、縁が切れなくて困っています」
「ランプレヒト公爵に相談したの?」
「ええ。もちろんしました。僕の親ですから」
レティシアは言葉が続かないのか沈黙が流れた。
レティシアは難しい顔をして僕を見る。
僕は逃げるように紅茶に口を付けた。
「シオン。あなたって戦略級魔術師だったわね」
帰ってきたカリーヌは大きな声でいった。
僕は紅茶を吐いた。
レティシアさえ忘れていたことなのに、父であるジスランはカリーヌに思い出させたようだ。
「だからなの?」
カリーヌに詰め寄られた。
「……わかりません。ですが、男爵になった理由ではあります」
「そうだったわね」
カリーヌは喜んでいた。先の誘拐されたことなど記憶にはないようだ。
「シオン。実の父の話はウソだったの? 戦略級魔術師だから誘拐されたの?」
レティシアは少し怒っているようだった。
「ウソではないですよ。二度目の時も父はいましたから。だから、困っています」
僕は答えた。
「何の話?」
カリーヌは僕とレティシアを見比べる。
「シオンが誘拐された話。実の父親が二度の誘拐に関係していたのよ。それも、シオンを物としか見ていないって」
レティシアは不快な気持ちを隠さずにいった。
「そうだったの。あの時はごめんなさい。お父さんが犯人だと知らなかった。知ったようなことをいってごめんなさい」
一度目に誘拐された話だろう。その時、カリーヌには
「謝る必要はないですよ。触れて欲しくないところを触れられませんでしたから。だから、今でも感謝しています。それより、もっと問題があります」
「何?」
カリーヌにきかれた。
「カリーヌ様とレティシア様が、僕と遊ぶ仲だと知られたら危険があると思います。貴族の家に生まれたとはいえ、危険は少しでもない方がいいかと……」
「それはしないわ」
カリーヌの声は低く威圧感があった。
「私の友達は私が選ぶ。それを邪魔するのなら、何を使ってでも排除する。それだけよ」
僕はカリーヌの覚悟を見た気がした。
「私はね。シオンだから友達になったの。だから、そんな理由でやめないでね」
カリーヌに押される形で僕はうなずいた。
情けないことにカリーヌの気持ちを考えていなかった。それに、覚悟は僕よりもある。まだ、九歳でありながら、貴族の片りんを見た気がした。
「シオンは貴族ってものを知らなすぎ。平時も戦争中なのよ。私たちは怖いのではなく、面倒なだけ。勘違いしないでね」
レティシアはいった。
「……うん。また、ここに来ていい?」
僕は人とのつながりはわからなかった。
「当り前よ。というか、もっと時間を作って来なさい」
レティシアは怒るかのようにいった。
「シオン。怖がらないで。私たちは友達よ」
カリーヌは微笑んでいた。
「……うん。ありがとう」
僕は二人には感謝しかなかった。
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